東京慈恵会医科大学附属病院、DeepMind Healthと乳がんスクリーニングの研究に関するパートナーシップを締結

2018.10.04

インペリアル・カレッジ・ロンドン主導の革新的なリサーチパートナーシップに参画

 本日、東京慈恵会医科大学附属病院は、DeepMind Health と 5 年間の医学研究パートナーシップを締結したことを発表した。これにより DeepMind が参画する、インペリアル・カレッジ・ロンドン(Cancer Research UK Imperial Centre )主導の革新的なリサーチパートナーシップに、新たなパートナーとして同院が参加することとなる。本リサーチパートナーシップは、乳がんスクリーニングを大きく変える可能性を持ち、乳がんの早期診断と疾病管理の向上に繋がるものと同院は考えている。
 乳がんは世界的にも女性にとって非常に一般的な癌である。毎年、世界中で160万以上の女性が乳がんと診断されており、医学の進歩にもかかわらず、日本では 2016年一年で 14,000人を超える女性が、そして世界では毎年50万人が命を落としている。
 早期発見が毎年何千もの命を救い、乳がんを患う患者の治療によい効果をもたらすことが分かっているが、一方で、乳がんを正確に検出し、診断することは必ずしも容易ではない。診断を困難にする要因の一つとして、乳房スクリーニングが完璧でない事が挙げられる。早期にがんを検出するために、臨床医はマンモグラフィー(乳房の X 線)を使用しているが、残念ながら毎年数千の症例が見落とされ、そのうちの 30% が検査の間に進行する「中間期がん」であることが分かっている。加えて、誤診や過剰診断の例も依然として存在する。マンモグラフィによるスクリーニング後に、乳房超音波や乳房 MRI 等の検査結果が追加情報を与えてはくれるが、スクリーニング初期段階のマンモグラフィーでの正しい診断が肝要だ。
 本研究では、東京慈恵会医科大学附属病院と DeepMind が共同で、2007 年~ 2018 年に同病院で、過去に撮影され、かつ匿名化された 約 30,000 人の女性のマンモグラフィの分析を行う。これらのデータは、UK OPTIMAM (英国)が保有するマンモグラフィデータベースに保管されている過去に撮影され、匿名化されたマンモグラフィのデータと合わせて AI 技術による解析を行い、AI 技術が現在のスクリーニング技術よりも効果的に X 線画像上でがん性組織の兆候を検出できるか検討する。また、本研究の過程で、東京慈恵会医科大学附属病院より、約 3 万人の女性の匿名化された乳房超音波検査画像および 3,500 の匿名化された乳房 MRI スキャン画像の共有を予定している。
 Cancer Research UK Imperial Centre ディレクターである Ara Darzi 教授は、次のように述べている。「グローバルなリサーチパートナーシップへの東京慈恵会医科大学附属病院の参画は、毎年世界中で乳がんを発症する数百万人の人々の治療を変革するかもしれない技術の開発に一歩近づくことを意味しています」。
 東京慈恵会医科大学附属病院では、この DeepMind とのコラボレーションを通じ、最先端の機械学習テクノロジーが、乳がんスクリーニングの改善に寄与し、医師にとって有益となり得るかを検証していく。

<本発表に関する主な質問>
本研究について
 この研究では、最先端の機械学習(AI の一形式)によって臨床医が現行の技術よりも効果的に乳がんを検出・診断することが可能になるかを検討する。
 乳がんは早期発見・早期治療することで、完治の可能性が高まり、毎年何千人もの命を救えることが示されている(BMJ, 2015)。一方で、乳がんを正確に検出し、診断することは未だに困難とされている。
 現在、医師はがんの早期検出にマンモグラフィ(乳房の X 線)を使用しているが、乳房スクリーニングは完全ではない。毎年、マンモグラフィによるスクリーニングで何千もの症例が見落とされ、これには検診と検診の間に見つかる「中間期がん」(乳がん、2017NPJ )の 30%が含まれると推定されている。一方で、誤診や過剰診断の症例も課題とされており、これらは、しばしば患者にとっては重大なストレスとなるばかりでなく、医療サービスをさらに圧迫することにも繋がる。スクリーニング後に、乳房超音波や乳房 MRI 等の検査による情報が加わるが、最初のマンモグラフィーにおける正しさが診断において非常に重要である。世界中の乳がんの専門医、研究者、人工知能(AI)開発チームと協力し、AIテクノロジーがこれらの課題を克服するために役立つかどうかを検討する。

本研究で分析するデータについて
 本パートナーシップの一環として、研究開始時点では DeepMind および臨床医、研究者、AI の専門家によるグローバルなコラボレーションのもと、特にマンモグラフィにおいて、人工知能(AI)の利用が乳房スクリーニング及び乳がん検出の改善に寄与するかを調査する。また、マンモグラフィ検査の分析向上のために、乳房超音波検査と MRI 検査の活用を予定しており、これらは最終的により高度な機械学習モデルの開発に寄与する。
 昨年発表されたこのグローバルプロジェクトは、インペリアル・カレッジ・ロンドンの Cancer Research UK Imperial Centre に在籍する専門臨床医や放射線科医が牽引しており、 DeepMind Health の優秀な AI 研究者と Google の AI ヘルスリサーチチームが共に研究活動を行っている。
 同プロジェクトの一環として、東京慈恵会医科大学附属病院が提供する約 3 万人の女性の過去に撮影され、匿名化されたマンモグラフィを、DeepMind Health と Google の AI ヘルスリサーチチームが開発した AI 技術で分析する。また、Royal Surrey County Hospital NHS Foundation Trust の Cancer Research UK が資金提供する OPTIMAM データベースからも、3 万人の英国女性の匿名化されたマンモグラフィが提供されている。
 研究チームは、この研究を通じ、コンピュータアルゴリズムをトレーニングすることで、機械学習モデルによって、これらの医療画像が分析可能であるか、がん組織の兆候が検出できるか、さらに、既存の技術よりも正確に放射線科医に対し注意を促すことが可能か等を検討する。
 日本や英国に加え、他国のパートナーとの協力を通じ、匿名化されたより多様なマンモグラフィ画像を分析することで、理論的には世界中の多くの国で利用可能な技術の開発となる。そうすれば、潜在的に恩恵をうける人々の数が大幅に増大することが期待できる。
 同院では、DeepMind と協力し、同様のアプローチをマンモグラフィ以外の乳房超音波や乳房 MRI スキャン等の乳房画像や、放射線医学的に応用可能性のある他の分野に適用したいと考えている。また、他分野においても、より多くの患者様のケアにおける AI の活用についても研究を続けていく。

本研究の期間
 この研究プロジェクトの契約は 5 年間であるが、いずれの当事者も 30 日前に通知することで早期に終了することができる。契約の終了時に、DeepMind Health はこの契約により受け取った匿名されたデータのすべてのコピーを破棄しなければならない。

機械学習とは?
 機械学習とは、コンピュータアルゴリズムが、明確な方法の指示なしに、学習し、改善する人工知能(AI)の一形態のこと。同プロジェクトでは、機械学習の応用が、乳がんスクリーニングにおける効率を大幅に向上させ、乳がんの検出能力を潜在的に改善する可能性があると考えており、これらが最終的には医師によるより効果的ながん治療の提供につながることを期待している。

データとセキュリティについて
 全ての研究と同様に、東京慈恵会医科大学附属病院、DeepMind Healthは本プロジェクトのデータを細心の注意と敬意のもとに取扱う。
 この研究で使用されているデータは匿名化されている。つまり、個人を識別するために使用できる情報は、DeepMind に共有される前に削除される。慈恵から移転されるデータの項目については、「本契約の合意によって慈恵医大から移行されるデータについて」を参照。
 標準的な手順に則り、この研究プロジェクトは厳格な規制および当院における法的承認を受けており、当院のパートナーにおけるデータの利用方法について厳密な契約に依拠する。

アクセス可能なデータの DeepMind への提供について
 この研究プロジェクトにおいて、東京慈恵会医科大学附属病院は DeepMind Health に、約 3 万人の女性の過去に撮影され、匿名化されたマンモグラムへの安全なアクセスを提供する。本研究の過程では、約 30,000人の女性の匿名化された乳房超音波および 3,500 の匿名化された乳房 MRI スキャンも共有される。

データの管理について
 データは米国に保存されるため、Google が提供する世界トップレベルの安全なコンピュータインフラストラクチャを利用できるメリットがある。このインフラは、歴史ある囲碁の対局で世界チャンピオンに勝利した際に DeepMind を支えたのと同じものであり、このグローバルなインフラストラクチャが、今度は乳がんと戦うために使われることを意味する。

データの匿名化について
 研究で使用されるデータは、東京慈恵会医科大学附属病院によって匿名化される。つまり、DeepMind Health と共有される前に、個人を特定できるあらゆる情報が削除されます。このプロセスでは、氏名、スキャンの日付、および生年月日を削除します。最も稀な診断のスキャンは転送されず、スキャン上のあらゆるラベルは手動で監査され、識別可能なデータが残らないようにします。詳しい情報は「本契約の合意によって慈恵医大から移行されるデータについて」でご覧いただけます。

患者の同意について
 この研究で使用されるデータは、匿名化されている。つまり、DeepMind がそのデータを受け取る前に、個人を識別できるあらゆる情報が削除されている。このようなデータの取り扱いにおいては、データの使用方法について患者から明確な同意を得る必要はない。詳細は「本契約の合意によって慈恵医大から移行されるデータについて」を参照。

本研究に関する承認
 この共同研究は、東京慈恵会医科大学附属病院の倫理委員会が承認したものである。
 本パートナーシップのきっかけである中田典生氏(東京慈恵会医科大学附属病院放射線医学講座)は、臨床医がマンモグラフィや乳房の画像をより良く解析し、患者の治療を改善する方法を検討するために、当院 福田国彦名誉教授より DeepMind Health の紹介を受けた。

DeepMind Health と提携した理由
 DeepMind は、世界トップレベルの AI 企業の一つであり、「アルファ碁」(歴史ある囲碁の世界において、世界チャンピオンを破った AI システム) の開発者である。彼らは世界各地の医療機関や医療システムに関しても豊富な知見を有しており、眼疾患、頭頸部がんの治療や患者の病状悪化を防ぐにために、AI がどのように役立つかといった研究を展開されている。彼らが持つ専門的な知見等から、DeepMind と協力することが有益であると当院では判断した。

DeepMind から東京慈恵会医科大学附属病院へ金銭的なやりとりについて
 現状ではないものの、東京慈恵会医科大学附属病院のスタッフや研究プロジェクトに管理上または臨床上の時間が費やされた場合、この時間分についての経費が DeepMind から当院へ適切に払い戻される。

以 上

本契約の合意によって東京慈恵会医科大学附属病院から移行されるデータについて
 東京慈恵会医科大学附属病院によって蓄積・保有されている次の情報を DeepMind Technologies Limitedが研究目的のために使用することを、同院は、 同社のコラボレーションの一環として承認している。同社へ移行される情報とは、特別な個人を特定することができないこと、また元の個人情報を復元できない情報であることを意味している。

データのカテゴリ
● 画像
○ マンモグラフィ、MRI そして超音波を含む匿名化された乳房画像スクリーニングの放射線画像
● その他の匿名化情報
○ 匿名化された研究 ID
○ スクリーニング時の年齢
○ 初回スクリーニングからの経過日数 (日付ではない)
○ 画像で見つかった他の癌または病理に関する情報(癌または病理のタイプおよびグレードなど)。また、それがどのように特定されたかについて
○ スキャン自体に関する情報:撮影場所と撮影された理由
○ その画像が示すものに対する臨床医の解釈、結果としてどのような処置がとられたか
○ 画像分析に必要とされる技術情報など、スキャン自体に関する情報
○ 治療の成果(利用可能な場合)

データ移行の方法
● 物理的な移行には、暗号化されたストレージデバイスが使用される。
● データは、Alphabet 米国データセンター内の保護されたインフラストラクチャに安全にアップロードされる(Alphabet は DeepMind の系列会社)。
● データは Alphabet の他のデータとは別に保管され、暗号化とアクセス制御リストにより、安全に保護される。

●お問合せ先
Deepmind
URL: deepmind.com

東京慈恵会医科大学附属病院
URL: http://www.jikei.ac.jp/index.html