島津、脳卒中後歩行障害NIRSニューロリハシステム治験開始

2020.06.02

 この度、㈱島津製作所(以下、島津)は、川崎医科大学附属病院における医師主導治験となる「脳卒中後の歩行障害に対するNIRSニューロリハシステムを用いた医師主導治験」を実施することとなった。

 川崎医科大学神経内科学教室 三原雅史教授(附属病院 脳神経内科部長)を中心とする研究グループが開発した、脳内の神経ネットワークの活動を調整し、脳卒中後の機能障害改善を図る、“ニューロフィードバック”と呼ばれる技術を応用した新たなプログラム医療機器である「NIRS ニューロリハシステム」について、川崎医科大学附属病院治験審査委員会の承認が得られたことから、脳卒中後歩行障害に対する有効性を確かめるための医師主導治験を開始する。
 なお、本治験は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 医療機器開発推進研究事業の支援を受け、社会医療法人大道会 森之宮病院、医療法人社団朋和会 西広島リハビリテーション病院(さらに順次施設追加検討中)との共同で実施される。

 脳卒中は年間発症数約29万人、総患者数117.9万人の国民病の一つであり、急性期治療が進歩した近年においても、自立歩行可能者は半数弱とされ、要介護原因疾患の15%余りを占めるなど、その影響は社会的にも極めて大きい疾患である。
 三原教授らのグループは、脳卒中後の機能回復過程において脳内の神経機能ネットワークの再構成が重要であるとの知見をもとに、脳内の神経機能ネットワークの再構成を促進させる技術の開発に取り組んできた。その中で測定した脳活動をリアルタイムで解析・提示することで、脳活動を意図的に調整する、“ニューロフィードバック”と呼ばれる技術に着目し、2008年ごろからその技術を応用した新たなリハビリテーションシステムの開発を行い、島津と共同で独自の技術を用いたシステムの開発に成功した。

 三原教授らが開発したシステムは、麻痺した手足の運動動作の際の脳活動を測定・提示し、その活動を促進させることで、リハビリテーション効率を向上させるもので、これまでの健常者および脳卒中後の上肢麻痺を用いた臨床研究において、その効果と安全性が確認されている。
 本治験に先立って行われた多施設共同臨床試験では、脳卒中後歩行障害患者に対し、通
常のリハビリテーションとの併用で週3回×2週間のNIRSニューロリハシステムと運動想像を用いたイメージトレーニング介入を行うことで、歩行・バランス能力の回復を促進することを明らかにしている。
 今回の治験では、これまで臨床研究で得られた効果を確認し、本システムの医療機器としての承認に向けて、脳卒中後歩行障害患者に対する歩行バランス機能改善効果、安全性をより多くの患者で確認することを目的として実施される。

 脳卒中は日本での年間発症数約29万人、総患者数117.9万人にのぼる国民病の一つ。近年、急性期診断・治療技術が進歩してきているが、全脳卒中患者のうち、急性期治療後の自立歩行可能者は49.1%にとどまるとの報告もあり、65 歳以上の要介護者の原因疾患の15%以上を占めるなど、社会的な影響も大きい疾患である。
 急性期治療後に脳卒中患者での機能回復を目指す治療としては、現在リハビリテーションが主に行われている。脳卒中患者では脳内に生じた病変によって脳内のネットワーク機能が低下していると考えられており、反復訓練などの集中したリハビリテーションによって残存する脳の組織及びネットワークを強化し、機能回復につなげることができると考えられている(図1上)。
 しかしながら、歩行障害などが重度の患者では、転倒のリスクや介助者の負担などから、十分な訓練が行えないことから、機能回復が制限されている可能性があり、このような問題を改善するために、新たな技術の導入によるリハビリテーションの効率化が必要となっている(図1下)。

 本研究グループは、脳の情報をリアルタイムに観察し、意図的にコントロールする方法を学習するニューロフィードバックと呼ばれる方法(図2)に注目し、近赤外分光法(NIRS)と呼ばれる比較的小型の脳活動測定装置によって測定された脳活動情報を解析し、リアルタイムで提示するシステム(NIRS ニューロリハシステム)を独自に開発した1)。 
 これまで本グループは、脳卒中後の片麻痺患者に対して、実際の運動を行うかわりに、運動の想像を行ってもらい、その時の脳活動を活性化させることで、麻痺の改善が促進されることを確認し、報告している2)

 これまでの研究によって、脳卒中後の歩行・バランス障害の改善と、“補足運動野”と呼ばれる脳の領域の活動が関連することが明らかになっており、本グループは脳卒中後の歩行障害患者54名を対象として、歩行・バランスに関連する運動想像を行っている際の“補足運動野”の活動をNIRSニューロリハシステムを用いて賦活することで(図3)、歩行・バランス能力の改善が得られるかどうかを確認する臨床研究を行う。
 本治験に先立って行われた多施設共同臨床試験では脳卒中後歩行障害患者に対し、通常のリハビリテーションとの併用で週3回×2週間のNIRSニューロリハシステムを用いた介入を行うことで、歩行機能の指標である3m-Timed Up and Go testでの改善率が約1.5倍に、バランス障害の指標であるBerg Balance Scaleの改善率が約2倍に向上することが示されている(論文投稿中)。
 これらの知見を基に、本グループは脳卒中後歩行障害患者に対するNIRSニューロリハシステムの医療機器としての承認申請に向けて、医師主導治験を行うことにした。

治験の概要
目的:
脳卒中後歩行障害に対するNIRSニューロリハシステムの機能改善促進効果を検証する。
実施機関:
川崎医科大学附属病院 脳神経内科、同リハビリテーション科、社会医療法人大道会 森之宮病院、医療法人社団朋和会 西広島リハビリテーション病院(さらに施設追加検討中)
自ら治験を実施する者: 川崎医科大学附属病院 脳神経内科 部長 三原雅史
実施期間:
2020年6月~2022年3月(登録期間:19ヵ月)
予定症例数:
70 例
対象疾患:
脳卒中後歩行障害
対象患者:
1. 初発の脳梗塞あるいは脳実質内出血により歩行障害を呈する患者
2. 組み入れ時点で発症後12週以上、32週未満の患者
3. 組み入れ時点で杖などの補助具を用いて10mの歩行が可能な患者
等の基準をすべて満たし、当該治験への参加に同意した患者さんを被験者とする。
※基準の詳細については、下記問い合わせ先まで。

投与方法およびスケジュール
 本治験では、患者さんは初期評価後にNIRSニューロリハ介入を行うグループと、同じ時間通常リハビリテーションを追加する群に割り当てられ、入院での集中リハビリテーションと並行して2週間の介入が行われる。
 その後、外来通院で、12週間後までの期間、症状の変化を観察する。(図4)

 基礎研究の成果を医療機器として実用化することで広く国民に還元すべく、2019年度からAMED「医療機器開発推進研究事業」に採択され、今回の医師主導治験の実施の運びとなった。今後この治験の結果を受けて、開発企業である島津と連携し、速やかな製品化を目指したいと考える。

1) Mihara M et al: Neurofeedback using real-time near-infrared spectroscopy enhances motor imagery related cortical activation. PLoS One. 7(3): e32234,2012
2) Mihara M te al: Near-infrared spectroscopy-mediated neurofeedback enhances efficacy of motor imagery-based training in poststroke victims: a pilot study. Stroke. 44(4):1091-8,2013

●お問い合わせ
【装置について】
㈱島津製作所 コーポレート・コミュニケーション部
小島 周子(こじま ちかこ)
榎本 晋虎(えのもと しんこ)
Tel:075-823-1110
EMail:pr@group.shimadzu.co.jp