日本メドトロニック㈱(以下 同社)は、先天性心疾患の術後に起こる肺動脈弁逆流症の治療に用いられる「Harmony™ (ハーモニー)経カテーテル肺動脈弁システム」(以下、Harmony TPV)が8月23日に薬事承認された。今後、保険診療下で治療を提供できるよう保険適用に向けた手続きを行っていく。
日本では100人に約1人が先天性心疾患を持って生まれている。近年、小児期の治療成績が向上したことに伴い、乳幼児期に外科手術を受けた患者さんの約90%以上が成人期を迎えるといわれている。成人期を迎えた患者数は、2020年時点で約50万人を超えると見積もられ、今後も増加が見込まれている。生まれて間もなく心臓と肺をつなぐ右室流出路の外科手術を受けた先天性心疾患の患者さんが成人期を迎えることにより、代表的な術後続発症である肺動脈弁逆流症が問題視されるようになってきた。肺動脈弁逆流症は心臓から肺動脈に送り出された血液の一部が心臓に戻ることにより心臓に負担がかかる病気である。肺動脈弁逆流症に対しては、これまで開胸を伴う外科手術しか選択肢がなかったことに加え、生涯にわたって複数回の外科的な治療介入を繰り返すことが想定されることから、より負担の少ない低侵襲な治療選択肢の導入が望まれていた。
Harmony TPVは主に、乳幼児期に自己の右室流出路から肺動脈組織を温存して外科手術を受けた重度の肺動脈弁逆流症の患者さんに対して、カテーテルを通じて肺動脈弁を留置する日本初の専用デバイス。肺動脈にフィットするように設計・デザインされた2つのサイズの生体弁と、それを心臓内に送達するためのデリバリーカテーテルシステムのセットから構成される。外科的手術のリスクが高く、本品による治療が最善であると判断された場合、負担の大きな開胸手術の代わりに、カテーテルに格納された生体弁を、太ももまたは首の小さな切開を介して送達し、心臓の内部に直接留置します。これにより、生涯における開胸手術の回数の減少、入院期間の減少及び術後早期の社会復帰などが期待される。
Harmony TPV臨床試験の結果が2021年4月に米国のSociety for Cardiovascular Angiography & Intervention (SCAI)にて発表され、本製品の植込みは68名中67名で成功し、手術後1年経過したすべての患者さんにおける肺動脈弁逆流の程度は、「なし」もしくは「わずか」であったと報告された。
Harmony TPVは、020年12月に厚生労働省より希少疾病用医療機器として指定を受けている。産官学の共同プロジェクトであるHarmonization by Doing (HBD) for Childrenプログラムに基づき、製品開発が難しいとされる小児領域において日本を含む国際共同治験が行われ、国内で初めて承認を取得した例となる。
日本先天性心疾患インターベンション学会理事である富田英特任教授(昭和昭和大学病院小児循環器・成人先天性心疾患センター長) は、「右室流出路再建術を受けた先天性心疾患の典型的な患者さんは、肺動脈弁の問題に継続的に対処するために、生涯にわたって複数回の開心術が必要になります。生涯に渡り必要となる術後フォローアップや外科手術は、患者さんにとって、身体的・精神的あるいは経済的に大きな負担となり、就業や雇用の維持、収入、妊娠・出産、子供の養育、親の介護、老後の生活など各ライフステージにおける日常生活に大きな不安と影響をもたらしています。本品は、そういった患者さんに対してより低侵襲な治療オプションを与えるものであり、より適切な時期に、より患者さんに負担の少ない治療を提供できる可能性をもつ、非常に革新的な治療法として期待できます」と述べた。
ストラクチャルハートのシニアダイレクターである俣野大輔は、「Harmony TPVは、重度の肺動脈弁逆流症の患者さんにとって日本初のカテーテルを用いた肺動脈弁置換専用の製品になります。現在、構造的心疾患に対する治療戦略は、外科手術だけではなく、より低侵襲な治療として経カテーテル治療が広がってきております。しかし、肺動脈弁逆流症に対する弁置換術の治療オプションは非常に限られており、今回我々はその領域でより低侵襲な治療製品Harmony TPVの承認を得ることができました。世界では、米国に続き二か国目として承認されたことを嬉しく思います。我々は、さまざまな先天性心疾患の患者さんが経カテーテル技術を通じて低侵襲な治療を受けられるようになることを目指しています。人々の痛みをやわらげ、健康を回復し、生命を伸ばすという会社のミッションのもと、患者さんおよび医療従事者の方々に臨床的および経済的価値を提供していきたいと思います」とコメント。
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