日本メドトロニック㈱は、重度大動脈弁狭窄症の患者さんを対象とした経カテーテル的大動脈弁置換術(以下 TAVI)用デバイス「EvolutTM PRO+(エボリュート プロプラス)システム」(以下 Evolut PRO+ )について、開胸手術が可能な症候性重度大動脈弁狭窄症の治療用として2021年7月29日に適応拡大の薬事承認を取得し、9月1日より保険収載された。
大動脈弁狭窄症は、心臓の中にある四つの弁のうち、酸素を含んだ血液を全身へと送り出す際の出口にあたる大動脈弁が、加齢や動脈硬化により硬くなって十分に開かず、血液の流れが妨げられてしまう病気だ。軽症のうちは症状を自覚しない患者がほとんどだが、進行して胸の痛みや息切れといった自覚症状が現れると突然死のリスクが高まるなど、予後が悪いとされている。
従来の大動脈弁狭窄症の治療法(薬物治療、外科的治療、バルーン大動脈弁形成術)に加えて、日本では2013年から治療の選択肢に加わった「TAVI」は、胸を開かず心臓が動いている状態のまま、大腿動脈等を経由してカテーテルを心臓に通し、人工弁(生体弁)を患者の心臓に植え込む治療法だ(図1)。
これまでTAVI は開胸手術が不可能な患者のみが対象だった。開胸して行われる外科的大動脈弁置換術(SAVR)は、世界で長い実績のある治療であり、長期成績の報告も十分にあるのに対し、TAVIは新規性が高く長期耐久性について十分なエビデンスがなかったことから、慎重に適応が判断されてきたことが背景にある。特にTAVI導入期は、非常にリスクの高い患者さんが対象とされることが多く、長期成績の検証に十分なデータが得られなかった。
しかし近年、中等度リスク、低リスクの患者さんにおけるTAVI の安全性と有効性を検証する大規模スタディが行われ、TAVI後の長期成績についても報告が増えてきた。TAVIとSAVRの成績の比較を行っているNOTION 試験では8年成績が報告されており、TAVI とSAVR の両群で死亡率、脳卒中、心筋梗塞といった長期の安全性の評価項目に差はなく、TAVI 後8年にわたって良好な成績が保たれていたことが示されている。また、低リスク患者を対象とした多施設国際共同無作為試験であるEvolut Low Risk 試験の2年追跡結果からは、主要評価項目の全死亡と障害を来す脳卒中の割合はTAVI群とSAVR群で同等であったことが示されている。
澤 芳樹医師(大阪大学大学院医学系研究科特任教授) は、
「SAVRは長い間、重度大動脈弁狭窄症治療のゴールドスタンダードであり、豊富なエビデンスがあることは言うまでもありません。一方でTAVI は、開胸手術の負担に耐えられない患者さんにも治療の道を開き、年々症例数は増加し続けており、今回特に高齢の低リスク患者さんの治療においても選択できるようになりました。長期耐久性のエビデンスはまだ少ないものの、TAVIの成績はSAVR と同等、またはより良好という結果も示されており、今まで以上に患者さんの状態をよく検討し、患者さんのご希望も考慮して最適な治療を決定していく“弁膜症チーム”が果たす役割は大きくなるでしょう。Evolut PRO+がより幅広い患者さんの選択肢となったことが、さらに多くの大動脈弁狭窄症患者さんの治療に良い影響をもたらすと期待しています」と述べた。
齋藤 滋医師 (湘南鎌倉総合病院 総長 循環器科主任部長) は、
「血管内から大動脈弁を治療できる低侵襲治療としてTAVIが日本で始まったのはほんの8年ほど前のことです。その間TAVIは広まり続 け、どのようにTAVIの手技を行うかという術者の技術面や、使用される弁などのデバイスそのものの性能も向上してきました。Evolut PRO+はそのスープラアニュラーデザイン* などの特徴から、良好な血行動態への改善が期待できるデバイスです。このデバイスが低リスクの患者さんの治療選択として加わったことは、日本の大動脈弁狭窄症治療において大きな一歩であり、この疾患を抱える多くの患者さんにとって福音となると考えます」と語った。
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