島津製作所は、6月22日に「腸内細菌共培養デバイス」のテスト販売を開始した。本製品は、ヒトの腸内環境を再現した細胞培養装置である。有酸素、無酸素空間を一つの培養容器内に実現し「酸素が必要な腸管上皮細胞」と「酸素のない環境を好む腸内細菌」の共培養*1を可能とした。本製品の基礎技術は、京都大学生命科学研究科 片山高嶺教授との共同研究の成果である。本製品を試用した森永乳業株式会社の研究成果は4月13日に科学雑誌「Frontiers in microbiology」に掲載された。同社は、6月27日〜28日開催の第27回腸内細菌学会学術集会で京都大学 片山教授、慶応義塾大学薬学部 長谷耕二教授、金倫基教授らとの共同研究の成果と併せ本製品を発表予定だ。
腸内細菌は、ヒト腸内で糖分やアミノ酸、食物繊維を摂取することで、代謝物として乳酸や酢酸、ビタミンなど様々な物質を生産する。腸の表面部分(腸管上皮細胞) が腸管細胞を守りつつ代謝された物質を吸収することで全身に作用する。腸内環境の状態はヒトの免疫系機能や神経系にも影響を与えるとされ近年注目を集めている。この相互作用を確認するためには「血流から細胞へ酸素が供給される有酸素(好気)環境」と「腸内細菌の生息に適した無酸素(嫌気)環境」の再現が必要だが、腸管上皮細胞を培養しつつ環境をコントロールすることは従来困難であった。
本製品は、独自開発の培養容器(特許出願中)によって実際の腸管に近い環境を作り出し、腸管上皮細胞と腸内細菌の相互作用を評価できる。シート状に培養した腸管上皮細胞を培養容器にセットし、腸管腔側には腸内細菌と細菌用培地を、腸組織側に細胞用培地を使用する。嫌気チャンバー*3内に設置することで腸管腔側は無酸素状態を維持し、酸素を含んだ細胞用培地を封入することで腸組織側に酸素を供給する。細菌が過剰に増殖すると腸管細胞が死滅してしまうが、新鮮な細菌用培地を継続的に供給する機能が過剰な腸内細菌を押し流すことで、3日間以上の長期間実験を実現した。腸管上皮細胞のTEER計測*4機能を搭載し、培養中に細胞が死滅していないか等の状態を確認できる。
本製品を用いた細胞培養実験後には、腸内細菌から産出された代謝物や菌数の変化、腸管上皮細胞を介し体内に取り込まれる物質などの情報が得られる。これらを高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)やガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)で分析することで、人体に影響を与える代謝物の解析などさらなる研究につながる。
島津製作所は、「腸内細菌共培養デバイス」を研究者・研究機関向けにテスト販売する。お問い合わせについては、以下のフォームから。
お問い合わせURL
https://solutions.shimadzu.co.jp/form/press/chonai/contact.html
*1 複数の細胞腫や組織を同一の環境で培養すること
*2 図1「小腸における腸管上皮細胞と免疫担当細胞から引用 http://leading.lifesciencedb.jp/5-e007
*3 空間を無酸素状態に保つ容器
*4 経上皮電気抵抗値。細胞のバリア機能を評価し細胞が死滅しているかの確認に用いる
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