日立製作所、米国最大規模の病院系研究機関であるマス・ジェネラル・ブリガムと遺伝子・細胞治療分野における包括共同研究協定を締結
~日立の細胞自動培養技術やデジタル技術を生かし、難病の克服をめざす~
株式会社日立製作所(執行役社長兼CEO:小島啓二/以下、日立)は、米国最大規模の医学系研究機関で世界の医学研究をリードするマス・ジェネラル・ブリガム(Mass General Brigham 以下、MGB)の中核病院であるブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham & Women’s Hospital以下、BWH)と、難病の克服に向けて遺伝子・細胞治療(Gene & Cell Therapy、以下GCT)を加速し、実用化をめざすための「協創の場」を共同で構築するため、包括共同研究協定を締結した。MGBは、世界屈指のGCTの学術研究ならびに臨床研究を行っており、所属する研究者や臨床医(約400人)らが生み出す最先端の研究成果から新しい治療法の開拓をめざしている。日立は、細胞培養自動化技術やデジタル技術などの多様な技術ポートフォリオを活用して、MGBが開拓する新しい治療の実用化に貢献する。
背景
GCTは、疾患に関連する固有の標的遺伝子や遺伝子を改変した細胞を体内に投与する治療である。がん、心臓病、肺疾患、筋骨格系疾患、神経変性疾患、自己免疫疾患等の難治性疾患や希少疾患に幅広く適用拡大できる新しい治療として期待されている。MGBは、早くからGCT研究に精力的に取り組んでおり、2022年12月にマス・ジェネラル・ブリガムGCT研究所(Mass General Brigham Gene &Cell Therapy Institute、以下GCTI)を設立した。当該分野の世界的な研究開発拠点として組織と研究環境を構築し、革新的な治療の開発につながる医学・生物学的な新しい知見(シーズ)の発掘・創生の加速を図っている。第一線で活躍する研究者を世界中から採用し、連携病院での臨床試験を経て実用化ならびに商用化をめざしており、これをサポートする学術・産業連携のエコシステムの構築にも取り組んでいる。
共同研究の概要
日立は、GCTIでBWHの研究者と共同研究を行うことにより、様々な疾患に対するモデルの構築に取り組む。例えば、がんを認識して攻撃するCAR-T細胞*1の治療効果は、最終的には患者にCAR-T細胞を投与しなければ確認できない。そのため、がん細胞を実験室で培養し、そこにCAR-T細胞を作用させることで活性を確認するなどの、治療の安全性や効果をあらかじめ精度よく予測できる、疾患の「モデル」を構築することが重要である。本共同研究を通じて、新たな疾患モデルの構築に取り組み、様々な疾患へのGCTの適用拡大に貢献する。また、これまでの再生医療並びにGCT分野における研究成果と事業経験を生かし、GCT開発に欠かせない細胞培養や培養プロセス開発に関する支援を通じて、GCTの開発に貢献する。
さらに日立は、デジタル技術を活用したGCT向け遺伝子改変細胞(デザイン細胞、DesignCell®)の高効率作製技術の開発に取り組んでおり、GCTIでの協創を足掛かりに、米国のみならず世界中の研究者や製薬企業と共に、新しい治療の開発にこの技術を適用することをめざす。
GCTI所長、Hajjar氏は、今回の包括共同研究協定締結について、「日立は、産業界から初のGCTI参画となります。日立の持つ斬新なプラットフォームに期待しており、日立とともにGCTの開発を加速し、早期のGCT実用化をめざします。」とコメントしている。
日立の再生医療とGCT研究の歩み
日立はこれまで、再生医療やGCTの普及に向けて、国家プロジェクト*2への参画を通じて、アカデミアや製薬企業とのオープンイノベーションを積極的に推進し、無菌性に優れた完全閉鎖系培養を特長とする細胞自動培養技術の開発に取り組んできた。2019年には、商用製造向けの細胞自動培養装置を上市し、iPS細胞を用いた細胞医薬に取り組む住友ファーマの細胞製造プラントに納入した。2020年には、京都大学が主導するパーキンソン病の再生医療の治験において、住友ファーマが移植用のiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞*3の製造を担当し、日立の細胞自動培養装置が初めての臨床適用を果たした。また日立グループは、ヘルスケア分野において、次世代計測・分析・解析の技術開発や診断×治療×デジタルの開発を図り、製薬会社や医療機関向けに幅広いプロダクト、OT、ITを提供してきた豊富な実績があり、顧客の現場から経営、サプライチェーン全般における課題を解決する「トータルシームレスソリューション」の提供に注力している。
日立は、2024年中期経営計画において国際機関、大学、顧客、スタートアップ等の議論をもとに、社会の本質課題と捉えた「環境中立社会」「現役100年社会」「デジタルと人・社会の共進化」の実現に向け、2050年からのバックキャストによる破壊的なイノベーション創生に取り組んでいる。その中の注力テーマの一つとしてGCTの研究を進めている。今はまだ治療が届かない患者の笑顔のために、革新的なGCTの開発と実用化に取り組むステークホルダーと共に、日立は挑戦し続ける。
*1 キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor:CAR)T細胞。遺伝子改変により、がん細胞を特異的に認識して結合し、それにより活性化されることでがん細胞を攻撃するようにデザインされたT細胞。患者から採取した末梢血のリンパ球にCAR遺伝子を導入し、増殖培養後に体内にもどすことにより治療を行う。B細胞由来の急性白血病および悪性リンパ腫で高い効果が示され、2017年に米国で最初に承認された。
*2 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「基盤技術研究促進事業」、内閣府「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」、文部科学省「イノベーションシステム整備事業先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業」、神戸医療産業都市推進機構「神戸医療産業都市研究開発助成金」など。
*3 ドパミン神経細胞は神経伝達物資であるドパミンを産生する細胞で、ドパミン神経前駆細胞は、ドパミン神経細胞に分化する手前の細胞である。パーキンソン病は、ドパミン神経細胞が失われることによりドパミン産生量が低下することが原因で発症する。
iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験については、以下のサイト(https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/faq/faq_patient.html)を参照。
日立製作所について
日立は、データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現する社会イノベーション事業を推進している。顧客のDXを支援する「デジタルシステム&サービス」、エネルギーや鉄道で脱炭素社会の実現に貢献する「グリーンエナジー&モビリティ」、幅広い産業でプロダクトをデジタルでつなぎソリューションを提供する「コネクティブインダストリーズ」の事業体制のもと、ITやOT(制御・運用技術)、プロダクトを活用するLumadaソリューションを通じて顧客や社会の課題を解決する。デジタル、グリーン、イノベーションを原動力に、顧客との協創で成長をめざす。2022年度(2023年3月期)の連結売上収益は10兆8,811億円、2023年3月末時点で連結子会社は696社、全世界で約32万人の従業員を擁している。
詳しくは、日立のウェブサイト(https://www.hitachi.co.jp/)を参照。
お問い合わせ
株式会社日立製作所 研究開発グループ
問い合わせフォーム:https://www8.hitachi.co.jp/inquiry/hqrd/news/jp/form.jsp