アダムキュービッツ動脈像
「Non Invasive Imaging Seminar 2011」見聞記
心臓血管センター北海道大野病院画像診断部
横山博一
2011年11月11日、12日の2日間にかけて行われた2つのセミナーは晩秋の北の地、札幌で開催された。2011年はすべての日本人に一生忘れることができない年である。3月11日に起きた「東日本大震災」は、東北から関東を中心に未曾有の地震・津波に襲われ壊滅的な被害を受けた。その影響で日本中のイベントは中止や延期を余儀なくされ、医療関係の学会、研究会も尽く中止という前例のない結果となってしまった。この研究会も予定していた時期に開催できず、延び延びになっていたがようやく11月に開催されることとなった。
「第1回北海道心血管外科イメージング研究会」は2010年10月30日に同じ札幌で行われ、参加者は札幌に限らず、北は名寄、東は釧路、南は函館からも参加者があった(これらの都市は札幌から200~300km程離れている)。そして今回も金曜日の夜の研究会としては70名の参加があり、用意した軽食が足りなくなるという主催者側の予想を超えてしまった。この研究会の趣旨は、心臓血管外科と放射線科との合同勉強会を通して、術前・術後画像の「標準化」を目的として始められた。北海道内の主だった心臓血管外科施設の4名からなる外科医を顧問として、また同じ施設の診療放射線技師が世話人として構成・運営されている。
第1回目は各施設で行われている検査・画像作成の紹介(技術講座)と、代表世話人である光島隆二先生(現 札幌ハートセンター副院長)の「外科医の立場から求める画像」という教育的な講演(臨床講座)であった。
第2回目は前回と同様に「臨床・技術講座Ⅰ」と「臨床講座Ⅱ」の2部構成からなり(図1)、2時間余りの中身の濃い研究会である。今回の「臨床・技術講座Ⅰ」は『うちの施設ではこうやっている・・・大動脈瘤の撮影から画像構築そして治療まで』という大動脈瘤に絞ったテーマで3施設から画像、治療についての発表である。
最初の演者である小倉圭史氏(札幌医科大学附属病院放射線部)は自施設の“大動脈瘤”について撮影から画像処理までを幅広く紹介している。現在の大動脈瘤の治療に関しては、ステントグラフトが登場した90年代まで遡るが一般的になってきたのは、ここ10年間くらいであろうか。 2007年に腹部瘤のステントグラフトが、そして2008年に胸部大動脈瘤のステントグラフトが正式に保険認可となった。この手技は胸やお腹を切る手術に比べ極めて低侵襲の治療方法であるが、同時にステントグラフト特有の問題点もあり(Endoleak)、また挿入する部位や性状にも制限がある。更にこの治療は外科的手術と異なる特殊な技術が必要で、一定のトレーニングのもとで行える専門医は心臓血管外科医か血管外科医であり、また関連する学会は、安全性を重視して行える専門医と施設(病院)に一定の基準(施設認定)を設けている。小倉氏の所属する札幌医科大学附属病院心臓血管外科医である栗本義彦先生が、北海道においてこの分野では早期に認定指導医になり、症例数も豊富な点から小倉氏の発表も、美しい画像のみならず術者の立場になっての発表であり、非常に判りやすいスライドであった。また胸腹部瘤の治療には、現在術前検査で必須な“アダムキュービッツ動脈”について、撮影方法と作成した画像を提示している。この動脈は元々血管径が細く(0.5~1.0mm程度)、しかも解離性動脈瘤を伴っている場合などは、その描出率が低下してなかなか難しいが造影剤量を500~600㎎/kgに設定して検査を行い、高い同定率の発表を行った(図2)。
またまとめとして『大動脈はCT検査に診断を委ねることが多く、現場の我々の役目は非常に大きい。現在ではMDCTが多くの施設で使用されており、どの施設でも同様な検査が可能になってきた。しかし施設によって画質や作成画像に差を垣間見ることがある。今後この研究会にて多くの施設の循環器外科医、診療放射線技師の意見を基にある程度の統一見解をまとめられることができれば、より患者様へ貢献することができるかもしれない』と述べた。
続きは「RadLink2012年3月号」(2012年2月下旬発売)にてご高覧ください。