日本超音波医学会第85回学術集会見聞記

2012.06.06

2012年5月25~27日に、グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)にて開催された
第85回日本超音波医学会学術集会の参加報告を、沼田和司先生よりお送りいただきました!

 
 

図1:グランドプリンスホテル新高輪の会場入り口
図2:GE healthcareのブースのモニターに写っている会長の森安史典先生
図3:富士フイルムのブース
図4:展示中の主なメーカーのブース1
図5:展示中の主なメーカーのブース2

横浜市立大学附属市民総合医療センター・消化器病センター
沼田和司

はじめに
  今回の第85回日本超音波医学会学術集会(図1)の会長は第2世代の超音波造影剤のソナゾイドの治験統括医師でもあり、超音波に関する研究の大御所ともいえる東京医科大学消化器内科の森安史典先生(図2)である。今年は日本超音波医学会が50周年を迎え、今回の学会学術集会は50周年記念大会と言うことができ、その記念すべき大会の会長としてふさわしい人選である。当然のことながら消化器に関する特別企画が多く、また16あるランチョンセミナーの講演内容は、乳腺に関する内容が1つ、冠動脈プラークが1つ、超音波ナビゲーションシステム(RVS)活用術(肝癌、乳腺、前立腺癌)が1つ、残りのほとんどは肝臓、特に肝癌に関する内容である。会場は今年も昨年同様、東京都港区にあるグランドプリンスホテル新高輪である。期間は平成24年5月25日から27日までの3日間開催され、初日こそ小雨模様であったが、2日間は天候にめぐまれ、4,200名以上の参加者でにぎわっていた。これは昨年の東日本大震災後の福島の原発事故での放射能汚染の影響で、被曝もなく侵襲の少ない超音波検査に世間の注目が集まっていることも関係しているのであろうか。自分が参加し、特に印象に残ったセッションについて、また自分が訪れたメーカのブース(図3~5)での対話をもとにして今回の学会の見聞録を記載する。消化器に偏っていること、個人的意見に偏ったものであることをお許しください。

携帯型超音波装置 
 携帯型超音波装置は検査室だけでなく、病棟のベッドサイド、ICU、救急医療、集団検診、在宅医療などの現場にも持ち運べることができる。完全な停電時にはCTやMRIは稼働不可能であるが、バッテリーに充電しておけば30分は検査可能な装置は携帯用超音波のみである。そのため携帯型超音波装置の市場は拡大し続け、ワールドワイドで年率約10%の成長を続けているといわれている。緊急時に狭いスペースでも活用可能な携帯型超音波装置を用いることで、診断プロセスを短縮し、治療方針を早期に決定することが可能。大学病院等の教育施設では迅速な検査、診断のみならず、研修医等の若手医師が手軽にベッドサイドで使用することで超音波の有用性を理解することが可能。また在宅での使用することで、胸水・腹水・心嚢水の有無、胆嚢炎や閉塞性黄疸の診断等も可能であり、在宅であっても簡単に診断し、その後の治療方針を決定することができる。富士フイルムのブースで携帯用超音波FAZONE CBを用い、超音波でバルーンタイプの胃瘻カテーテル交換時の胃内再留置の確認をするという新たな提案があった(図3)。

集束超音波(HIFU)
 集束超音波(HIFU)は、超音波を焦点領域に集束させ、針を穿刺することなく組織を熱凝固壊死させる装置である。超音波ガイド下HIFUとMRIガイド下HIFUがあり、子宮筋腫、前立腺癌、乳癌の一部には臨床応用されはじめたが、肝癌にはまだ満足の行く治療成績は得られない。以前に国内で治験を行なった重慶Haifu社の装置が最もパワーがあるが、その装置であっても超音波を一点に集束させる際、肺と骨の遮蔽によるビームの減衰のため、肝左葉と右葉浅部に位置する腫瘍サイズ2cm程度の肝癌にHIFUの適応は限られている。東京医科大学でのチャイナメディカル社の装置は低パワーのため麻酔の必要はないが、その分、肝臓の浅部に位置する病変に限られている。一方、切除不能膵臓癌に対しての低侵襲性治療の1つとなりうる可能性が示唆された。自分は過去と現在、実際にHIFUを使用している経験から日本のニーズにあった日本製のHIFU装置の製造を切望している。今後、モニタ用のエコーでの三次元でのリアルタイムの観察や深部病変を適切に治療できる装置が必要である。そのためにはモニタ用超音波をPhilipsのマトリックスプローブでの電子スキャンの使用、また多重反射を抑制するために富士フイルムの開口合成を使用したzone sonographyの使用、またアプリケーターにフェイズドアレイを使用し、骨にあたる部位には最初からその範囲だけビームを出さず痛みの発生を防ぐ工夫も必要。「ドラッグラグ」という言葉は有名だが、装置においても同様に承認そのものが困難でかつ承認に時間がかかる「デバイスラグ」という言葉が存在する。そのため利益をあげる可能性がないとメーカに判断され、装置の開発になかなか参入していこないのが大きな問題点である。

Elastography
 組織弾性を評価する手段としてElastographyが注目されている。Canonが販売しているSupersonic imagingのAixplorerは組織を圧迫することなく、組織を上下に振動させ、Shear waveを発生させ、組織弾性をリアルタイムで定量化し表示する。この方法は組織を圧迫して定性的に測定する装置より客観性に優れている。またこの装置は肝臓においては慢性肝疾患の線維化を定量できる可能性があり、将来、肝生検は減らせることも可能と考えられている。またラジオ波の治療効果判定にも有用との報告があった。

※続きは「Rad Fan2012年7月号」(2012年6月末発売)にてご覧下さい。