2012年9月15日から20日まで、リスボンにて開催された「CIRSE 2012」のレポートを、林信成先生(IVRコンサルタンツ)よりお送りいただきました。
CIRSE 2012報告~ますます勢いづいているが、冷静な姿勢が嬉しい~
IVRコンサルタンツ
林信成
塞栓剤
Special Sessionでは各種塞栓剤についての教育講演があった。コイルに関してはDr. Pelageがアンカリングテクニックなどいつもながら洗練された教育的講演をされた。引き続いて荒井保明先生が粒状塞栓剤について講演された。ビーズは均一な太さの動脈を止められるが腫瘍血管の太さの方には差があること、小さい方が抗腫瘍効果は高いのだがシャントすり抜けの危険があること、サイズの問題だけではなく濃度や注入速度にも注意を払う必要があることなどの重要な注意点を解説し、さらにはポンピング法によるBland EmbolizationやバルーンTACEの話もされた。非常に盛りだくさんで素晴らしい講演だった。聴衆がどれだけ内容を深く理解できたのかは不安だが、日本がまだまだTACEで先頭を走っていることを示せたと思う。
液体塞栓剤ではNBCAとOnyxについて、「前者は血栓閉塞を生じるが、後者は充填のみ」といった性格の違いが解説された。なお市販されているNBCA製剤にはいくつかあって、欧州と米国で適応承認が異なっているが、能力的には大差ないことが先日のJVIRで報告されている。またNon-Target Embolizationが独立して取り上げられ、技術的な問題と支配領域内の問題に分けて、丁寧な解説が行われた。超選択性やFree Flowが大切なこと、スパスムを回避すべきこと、希釈して緩徐に注入すべきことなど、荒井先生の講演と少しかぶっていたが、塞栓しているうちにもダイナミックに血行動態が変化することを彼らが理解しつつあることがよくわかった(GESTで日本人から学んだ?)。なお生体吸収性のあるHydrogelでできたmicrosphereの報告もあったが、まだ動物実験段階であった。
肝細胞癌
経動脈治療だけでもあまりに種類が多すぎて、何が一番良いのか試験のしようがなくなっている感じのあるTACEだが、ここへ来て欧米での経験が豊富になり、薬剤溶出性ビーズの成績が結局のところは従来型TACEとあまり差がないことが明らかになってきたことで、議論が落ち着きつつある。How I do itのセッションにおけるギリシャのDr. Malagariの講演のあとのDr.Salemとの討論を聞いていて、何となく欧米における大まかな方向性が少し見えてきたような気がした。つまり、「3センチ以下の小型肝細胞癌では、リピオドールの塞栓効果に期待して従来型TACEを行い、それより大きな症例や進行例では抗癌剤の役割が高まるために薬剤溶出性ビーズによるTACEを施し、そして門脈塞栓例のようなTACEが厳しい症例にはRadioembolizationを考慮する」といった図式である。RFAに関しては、施設によって利用頻度がかなり異なるし、TACEとは相補的にも使える。Dr. Malagariは「TACEが不十分であった部位にRFAを追加している」と答えていた。なおこのセッションでも他の演者が、「Ultraselective TACEでは、Hypovascularな腫瘍にもリピオドールが滞留する」という宮山士朗先生のHepatologyに掲載された論文の症例を紹介しており、やはり彼らが肝細胞癌のダイナミックな血行動態への理解を深めているのに納得した。
Radioembolizationそのものについては、SIRほど騒いでいない。ただそれでも、TACEと比べて遜色のない成績が報告されてきたことから、従来の治療法が不成功に終わった例やTACEが禁忌とされた症例を中心に、少しずつ使用が広がっているようである。学術発表ではRadioembolizationに関し、B型肝炎を有する患者で肝障害が高頻度に見られたという発表や、片葉注入で対側が代償性腫大を来したという発表もあった。放射線肺炎の報告もあるし、普及するにつれて、負の面が徐々に明らかになってきている気がする。
肝転移
大腸癌肝転移を対象としたイリノテカン描出性ビーズであるDEBIRIに関しては、様々な臨床試験が次々と結果を出してきている。切除可能な大腸癌肝転移を対象に、DEBIRIを動注して1ヶ月後に手術を施行したParagon IIという第Ⅱ相臨床試験では、49人が登録され、40人が本治療を施された(9人では技術的問題や腫瘍の進行を理由に施行せず)。40人中38人(95%)は切除されたが、2人は病変の進行によって手術不能となった。30日以内の死亡が2人(5%)おり、TACEとは無関係とされたが、詳細は不明である。手術標本では、腫瘍壊死に加えて脂肪肝や門脈周囲の炎症が明らかとなっていた。
DEBIRI動注とFOLFIRIを比較した第III相ランダム化試験では、74人の患者がDEBIRI動注群36人とFOLFIRI全身化学療法群38人に無作為に割り付けられていた。50ヶ月後の比較で、生存期間の中央値はDEBIRI群22ヶ月/FOLFIRI群15ヶ月、無増悪生存期間もDEBIRI群7ヶ月/FOLFIRI群4ヶ月と、ともにDEBIRIが有意に優れていた。
腫瘍のダウンステージを目標としたDEBIRI動注療法に関しては中間解析の成績のみであったが、平均腫瘍径11.5(6.4~22.1)cmの10人を対象に、全身化学療法(FOLFOX;6例ではAvastinも追加)とDEBIRI動注2回が施行されており、4人が切除可能となったこと、それらの生存期間の中央値は15ヶ月であったことが報告されていた。60人を目標とした別のランダム化比較試験でも、登録された58人のうち19人の患者で、1~6回の動注後に切除が可能となっていた。
腫瘍その他
新たな製剤としては、sunitinib(スーテント)溶出性ビーズの基礎実験が進んでいた。この薬剤は、ソラフェニブなどとと同様の作用機序を持つ分子標的薬であるが、ソラフェニブでは困難であったビーズへの含有が、新たに特許を取得した製法によって可能となったようである。10分間で100%が含有され、うち83%が3日以内に放出されるとのことで、ウサギVX2腫瘍を用いたin vivo実験の成績も示されていた。
Irreversible ElectroporationであるNanoknifeは、完成してから6年が経ち、臨床成績がかなり蓄積されてきた。3cm以下3個以内の小型肝細胞癌を対象とした第Ⅱ相臨床試験では、7施設から26人が登録され、平均4±0.9(3~5)本の19G針を用い、所要時間106±56(25~290)分で治療していた。mRECISTによる奏効率は、CRが20人(77%)、PRが4人(15%)であった。病変あたりの奏効率は79%(23例)であった。CR率がさほど高くないのが不思議で質問したところ、RFAが非適応の症例を対象にしていることやLearning curveがあることを理由にしていたが、真相はよくわからない。3cmの大きさに3~4本も電極を刺入するため、治療前のプラニングは三次元放射線治療における治療計画のようである。なお30日以内の有害事象は、血胸1例および肝不全1例であった。
ウイルスを使った遺伝子治療の講演では、奏効例における生存期間中央値が475日であったとのことだが、臨床までの道のりはまだまだ遠そうであった。
マイクロウェーブはRFAと競合できるほど復権した感がある。もともとHeat-sink-effectがないという優位性があった上に、装置が洗練化され、Covidien社が本格的に販売を開始した影響だろう。RFAとのランダム化比較試験が行われればよいのだが、資金や企業との関係から、欧米で実現することはおそらくなかろう。
RFA用の展開針のような形状でエタノールを注入するデバイスは、10年くらい前からSIRで展示されていたのを覚えているが、RFAと併用した臨床試験が行われているようである。
脊椎
椎間板のセッションでは、ヘルニア治療についての講演があった。オゾン・レーザー・アルキメデススクリューなど、直接除去する方法だけでなく、Facet jointや硬膜外腔への薬剤注入についても紹介されていた。日本で放射線科医が関わっている施設は少ないと思うが、腰痛や肩こりは先進国特有の疾患だし、高齢化に伴ってますます対象者が増える可能性がある。ちなみに7月号のAJRでは、硬膜外薬液注入についてビデオで手技が紹介されている。
経皮的椎体形成術では、最初の2演題がそれぞれ賛成・反対の立場から講演されたが、反対する立場の内科医も現実には経皮的椎体形成術に患者を紹介しているので、少しやらせっぽかった。ただ彼の意見は極めて穏当で納得できるものである。つまりNEJMのRCTで患者選択に問題があったのは確かだが、やはり原則はDo no harmである。薬剤で何とかコントロール可能な疼痛よりも、動けないことにより着目すべきであること、さらには圧迫骨折を予防することに注力すべきであることを、内科医の立場から提言するものであった。なお会場には驚くほど多くの参加者がおり、そのほとんどが、「NEJMの論文の後も経皮的椎体形成術を続けている」と挙手していた。私個人は、セメント自体に意味があるとはどうしても思えないのだが、たとえそれでも、患者の痛みが消えて歩けるようになるのなら結果オーライだと考えている。そしてセメント注入と有意差が認められないKyphoplastyのような高額な治療は、止めるか全額自己負担とするべきだと思っている。
末梢血管
Misago関連のシンポジウムでは奈良医大の吉川先生がOSPREY 試験の中間報告をされ、とてもわかりやすくて優れた講演であった。ちなみにOSPREY はOcclusive/Stenotic Peripheral Artery REvascularization StudY の略である。ステントの名前である「ミサゴ」は鷹の一種であり、その英語名がOspreyなので無理やりこじつけたのであろう。最近の試験はこの例のように、必ずしも頭文字から成り立っているとは限らないため、何の試験かわかりづらいのが難点かもしれない。また本試験を企画したときには、まさか輸送機オスプレイの問題が日本でこれほど大きくなるとは考えていなかっただろう。それはさておき、これはZilver試験と同様に、今後のデバイス認可にとって極めて貴重な試験である。世界中で認可が最も厳しいのが日本、次が米国であり、その2カ国が世界でぶっちぎりの一位二位だろう。そしてどちらでも、当局と医師たちのせめぎあいがずっと続いており、当局からの1つの回答が国際臨床治験なのである。FDAでは「Harmonization by Doing」プログラムと呼ばれている。本試験に関しては、日本では100例が50例ずつランダム化比較試験として、米国ではシングルアーム試験として、それぞれ行われている。APCCVIRの報告でも書いたが、Zilverステントは米国発なのに米国に先んじて日本で認可された。本ステントがどうなるのかは不明だが、日本も米国も、このような形でデバイス認可スピードが加速されるのは大歓迎である。1年後の中間解析において、まだ破損例はないとのことであった。片手操作が可能なモノレールのラピッドエクスチェンジタイプであることと同様、その堅牢性がこのステントの特徴かもしれない。なお別の演者からは、欧州での臨床試験であるMisago 2の当該国での報告もあり、ABIの改善は3年後も89%に保たれており、開存率は1年84.8%、2年80.5%、3年74.3%、標的血管に再治療が必要なかった頻度も1年89.2%、2年84.9%、3年79.3%と良好な成績であった。
Zilver PTXのシンポジウムでは3年成績が出ており、無TLR率83.7%と好成績を保っていた。併用療法としては、「2種類の抗血小板療法を留置から2ヶ月続けるのが標準」との事であった。なおこのステントも堅牢で、12ヶ月の破損率は0.9%と報告されている。
薬剤でコーティングされたバルーン(DCB)は、そんな馬鹿なと思うほど、いまだに好成績を保っており、7社くらいの製品がすでにCEマークを取得して販売されている。発売当初は20万円以上したのだが、競争原理が働いて、今では高耐圧バルーンと同じくらいの価格だそうである。浅大腿動脈を対象としたランダム化比較試験であるTHUNDER試験は、5年成績でもいまだに有意差を維持しており、その他の多くの試験も連戦連勝中である。浅大腿動脈ではステント併用・アテレクトミー併用・ステント内狭窄対象でそれぞれ試験が始まっており、膝窩部以下や透析シャントを対象とした試験もある。よくこれだけ多くの試験を走らせる患者がいるものである。透析シャントではランダム化比較試験の6ヶ月成績がすでに出ており、やはりDCBが有意に優れていた。長い閉塞や高度石灰化の症例が苦手なのは仕方ないが、ベアステントと相補的に使えるところが強みである。Passeo-18 Luxという0.018インチ対応の細径バルーンも出ており、従来型バルーンと30例ずつ60例を比較した6ヶ月後の狭窄率で有意差を示していた(11.5% Vs. 34.6%)。これもまた、にわかには信じがたいほど良好な成績である。
アテレクトミーでは、SilverHawkを用いたランダム化比較試験の成績が発表された。58人が29人ずつに割りつけられていたが、12ヶ月後の開存率に差はなかった。遠位塞栓は11%に生じている。やはり使用の適応はかなり限られるのではないかと思われる。市販後調査であるDEFINITIVE LEには47施設から800人の1,011病変が登録され、うち間歇性跛行患者における180日後の初期開存率が94.1%であった。遠位塞栓は608例中23例(3.8%)、穿孔率は3.4%、血流障害を生じる解離は0.6%生じていた。高度石灰化症例、ステント内狭窄、動脈瘤の症例を除いた、間欠性跛行症例に限っての成績なのだから、こんなものだろう。
末梢動脈のアテレクトミーとしては、JETSTREAMというデバイスが面白かった。尖端のブレードが高速回転してアテローマを刈りとるので、ローターブレーダーとの融合品のような感じである。
BIOTRONIKのランチョンセミナーも超満員で、ここではAngiosculptというらせん状に刃のようなものがついたScoring baloonのレジストリー試験の報告があった。102人の121病変が登録されており、うち51例が本デバイスのみで治療されていたが、30例はDCBとの併用、36例はステントとの併用、また4例はそれら両者が併用されていた。高度石灰化病変の治療前処置やステント留置がしづらい部位が対象となるが、総額ではかなり高くなるのが難点である。治療成績はまだ出ていなかった。
なお会期中に、複数の演者からコストに関する講演があった。国によっては薬剤溶出性ステントとベアステントがほぼ同額であったり、2割くらいの差であったりする。薬剤コーティングがもはや「おまけ」になっているのだと感慨深い。DCBは前述のように、いまだにステントより高そうだが、発売当初から見れば半額以下になっている。やはり競争は大切である。ステントグラフトは依然として、べらぼうに高い。
これだけ多彩な治療用デバイスがあると、これらをどう組み合わせるかが現実には大きな問題となろう。ある演者は、「短くて石灰化の少ない病変や膝窩部のようにステントを置きづらい部位の病変にはDCBが第一選択、それ以外の病変ではまず軽く通常のバルーンPTAを行い、リコイルや解離が生じすればステントを留置し、生じなければDCBで拡張し、問題なければ終了するが、障害が起きればベアステントを留置」というフローチャートを示していた。DCBがここまで期待されるとは思っていなかったので、ちょっと驚きである。前拡張がルチーンで必要なので、最低2本のバルーンが必要となるが、そういうバルーンは、欧米では1万円以下でも手に入る。
生体吸収性ステントに関して少し進歩が見られた。ステントという異物が残らないこの治療法は、数十年前から開発が進められており、近年になってようやく製品ができたのだが、その初期成績は必ずしも良くなかった。その理由はどうも、吸収される速度が速すぎたからだようである。治療後3ヶ月ぐらいは拡張力をが残っていることが望ましいとされている。Abbott社のシンポジウムでは、ポリ乳酸からなるステント骨格を有し、エベロリムス溶出能を有するステントの報告があった。これは完全に消え去るまでには2年かかり、3~6ヶ月後まで拡張力が残っているとのことである。浅大腿動脈においても膝窩部以下においても臨床試験が開始されており、結果が待たれるところである。
Renal Denervation
腎動脈外膜にある交感神経をアブレーションする本治療法は、RFだけでも複数社がデバイスを市販し、さらにはレーザーや集束超音波を用いてアブレーションするデバイスも開発中である。うまくいけばとてつもない市場規模だが、生き残るのはせいぜい3つまでだろう。本法は最近ようやく日本でも大きな反響を呼んでおり、NHKのニュースで取り上げられたり治験が始まったりしている。今回のCIRSEではHot Topicの1つとして取り上げられたが、腎臓内科医や循環器科医、本治療法をまだ完全には信じていない演者にも積極的に発言させ、腎動脈への障害などその問題点をクローズアップさせていた。このあたりはSIRと大きく異なるCIRSEの健全さを感じる。また会場の挙手でも3割程度、本治療法の効果について懐疑的な参加者がいた。いくらランダム化比較試験で証明されているとはいえ、小規模試験だしシャム手技との比較ではない。まもなく米国でシャム手技とのランダム化比較試験(HTN-3)が始まる予定なので、その結果が出たらガチガチのレベルIエビデンスとなり、おそらく高血圧治療の世界は激変するだろう。製薬会社が青ざめるほどの効果が出ることを切に願っている。睡眠時無呼吸症候群や心房細動、Polycystic Ovary症候群やII型糖尿病への適応にも希望がもたれているが、まとまった成績はまだ出ていないようである。
なお本治療法の本邦での治験に放射線科が関わっていないことについて、多くの若い放射線科医が怒りや無念さを訴えていた。気持ちはわかるが、これだけ後れを取っていて何を今さらとも思う。残念ながら「失われた10年」は、とてつもなく大きい。もはや取り返すのが困難なほどである。文句を言う前に新たなInnovationに取り組んでいかなければ、放射線科IVRの未来はないことを悟って欲しいと思う。
静脈
Controversyセッションでは下大静脈フィルターが取り上げられていた。下大静脈フィルターの適応については、国によって大きな差がある。その施行数は1年間に人口1,000,000人あたり、米国では140例、フランスでは60例、スエーデンではわずか3例である。我が国はおそらくスエーデンに近いであろう。会場参加者の投票でも38%が下大静脈フィルターの安全性/有効性に疑問を呈していた。米国に比べてはるかに健全な姿勢と思われる。余りにもエビデンスに乏しいために、抗凝固療法を基本にしていくつかの臨床試験が進行中だが、いつも明確な適応として挙げられる「肥満者に対する減量手術における術前処置」の成績が、下大静脈フィルター留置の有無で差がなかったのに一番驚いた。深部静脈血栓症に関しては、数年以内に結果が出ると思われるATTRACT試験の結果をみんな待っているのだろう。
深部静脈血栓症をどこまで治療するかは依然として大きな議論の対象である。塞栓後症候群は明らかにあるが、臨床の現場では依然として抗凝固療法と弾性ストッキングで加療されている例がほとんどである。経カテーテル治療は「正常の弁を温存する」という意味で有効なのだが、塞栓後症候群に対する一般医師の認識の薄さが壁になっている。なお右心圧上昇は本治療法の禁忌である。また適応患者について、悪性疾患の症例では手技が容易で予後もよいこと、対照的に、過去にも深部静脈血栓症の既往があるか瘢痕を有する症例は難治性であるとの事であった。前者は緩和ケアにとって、大きな朗報であろう。
頚動脈ステンティング
このセッションは、「症候性患者に対しては、内膜摘出術よりも頚動脈ステンティングを行うべきである」という命題で、支持者と反対者がディベートを展開した。この問題は過去10年以上ずっと話し合われていたことであり、SIRではCREST試験の結果を経て、症候性病変に対する治療適応がほぼ確立している。CEAとCASの適応についても、お互いの長所・短所はあるものの、「成績はほぼ同様」と大まかなコンセンサスが得られ、無症候性患者に議論の対象が絞られているような印象がある。しかし欧州では、いまだにCASへの懐疑的な見方がかなり残っているようで、ディベート前の挙手でも賛同者は55%に過ぎなかった。そして同じ臨床試験の結果をそれぞれが自らの主張に合致するように解説したIVR医と血管外科医の主張展開後には、賛同者が45%に減り、反対者の方が55%と過半数を占めたのである。討論の内容については、すでに耳にたこができるほど聞き飽きたことであり、MRIでのみ検出できる無症候性脳血管障害やCEAで頻度が高い心筋梗塞の重要性をどう考えるか、遠位塞栓防止デバイスの功罪、Learning Curveなどが論点になっていた。ただ聴衆の支持を逆転させたのは、反論した血管外科医の最後のスライドだったと思う。CASを推奨する演者の利益相反一覧を表にして提示し、「彼女はこんなに多くの企業からお金をもらっている、こんなことで正しい主張が出きるのか?」と痛烈なパンチを浴びせたのである。デバイスの世界でも薬剤の世界でも、利益相反の問題は本当に難しい。
脳虚血
この領域はSIRではほとんど頸動脈ステンティングしか取り上げられないのだが(欧米では頸動脈の治療は、脳外科ではなく血管外科)、CIRSEでは内容も豊富だし参加者も多い。私は専門外だが、脳神経領域や循環器領域は、圧倒的に放射線科に比べて先行していることが頻繁にあるので時々拝聴している。急性期における静注と動注に関するエビデンスと薬剤承認の現況では、日本と同様に、「ランダム化比較試験のスピードを新薬開発のスピードが上回る」ジレンマを、抗癌剤と同様に感じる。Merci、Penumbra、Solitaireなどの機械的血栓除去デバイスに関しては、初期経験こそ優れているが、多施設共同プロスペクティブ試験だと成績が劣化する。この事象は、どの領域も同じである。また再開通率と臨床的奏功率に良い相関がないのが印象的で、腫瘍において大きさや造影効果などの代替エンドポイントを多用することの危うさを改めて感じた。
脳血管障害では時間との戦いが大きいので、救急医療体制を充実させることの重要性が強調された。MRIの撮像プロトコールを簡略化することやCTだけで判定することを含めたフローチャートも呈示された。コーンビームCTを利用して動注下でCTAや灌流像を撮像する試みは面白かった。他院からの紹介なら確かに最初から「診断と治療を一体化」させることができるだろう。日本の救急医療においては、限界集落など過疎地域や交通の不便な地域における搬送時間の問題が感情的にクローズアップされることが多いが、最近は東京をはじめとする人口の多い都市部での超高齢化が社会問題化しつつある。直線距離で近いところで発生する脳血管障害をどのように受け入れるのか、医療側・患者側の歩み寄りが必要だし、マスコミがセンセーショナルに無理ばかり言うのを止めなければならない。
機器展示
CIRSEらしく大変な混雑で、ブレイクの時は歩くのも困難なほどである。前年までと比べると少し派手さが無くなった気がするのは、コンプライアンスが厳しくなったからかもしれない。
MaxioというRoboticsの進歩を感じさせる製品が出ていた。どういう因果か横浜の総会の時にマレーシア人の営業担当者と知り合ったのがきっかけで興味を持った。実物を見るのは初めてだったが、なるほど良くできている。以前から学会発表や雑誌でよく見てきたRoboticsは、頑丈なアームをCT装置に搭載するものだったが、この装置はCT装置自体と離れており、データだけを受け取る。そこからワークステーションが診断・治療計画を立て、最適な穿刺ルートが画面上で決定され、それにしたがって針を支持するアームがセットされるのである。初回インストール時に装置の設置場所が決まり、患者は特殊なマットで身体を固定され、さらにはベルトで呼吸深度もモニタリングされる。単なる穿刺ならここまで必要か?と思うのだが、治療では確かに役立つかもしれない。放射線照射も今では三次元照射が当たり前である。アブレーションにおいても、三次元的に安全マージンがとられていることを確認すべき時代に入るのかもしれない。特に複数本の針刺入を必要とする症例では、立体的に完全に腫瘍を包囲することが必須である。
Surefireという変わったTACE用カテーテルが塞栓剤の講演で紹介されていた。逆流を防ぐために開発されており、遠位塞栓防止デバイスのようなものが先端から出る。バルーンTACEとは全く異なるコンセプトで、最初はあまり展開せずにFree Flowで塞栓し、逆流の心配が必要になる頃に開いてこれを防ぐ。面白いアイデアだが、アイデア倒れのようにも思う。
その他
Film Readingは前年までと全く趣向が変わり、全員参加の二択勝ち抜きクイズ選手権になった。余裕のある時はそれなりに楽しいのだろうが、時差ぼけでふらついている午後にはちょっと辛い。エキスパートたちの思考過程を知る楽しみが無くなるのは寂しい。
Grunzig Lectureは骨軟部腫瘍の凍結凝固療法の話であった。よくまとまってはいたが、通常の教育講演と同じなので特別な面白みはなかった。
Rosch Lectureはオレゴン大学Dotter InstituteのDr. Pavcnik先生による「Preclinical IR Research」という演題で、ブタ小腸漿膜下組織を用いた人工弁の話であった。彼は数十年間、ずっと基礎研究を続け、学会報告や論文発表を途切れさせない。このデバイスに関して残念ながらまだ市販には至っていないが、基礎研究や動物実験の重要性がよくわかる良い講演だったと思う。こういう人たちを企業・大学・教授らが支えているところが、いまだに残る米国の良さであろう。
Free Paperは時間の都合であまり聞けなかったが、抄録を見て面白そうなのはいくつかあった。門外漢で驚いたのは、肥大型閉塞性心筋症(HOCM)の症例に対し、中隔穿通枝の塞栓術を施行していることだった。エタノール注入療法が無効あるいはできなかった症例を対象としているそうだが、循環器科の世界では5年以上前から行われている治療法だそうで、認識の遅れを恥じた。
CIRSEはやはり楽しいし面白い。強がりばかりで負け犬の遠吠えのような感じがするSIRとは大きな違いである。来年のSIRは日医放総会と重なるために参加できないが、それを悔しいとも何とも思わないほどCIRSEの方が圧倒している。来年はバルセロナでの開催だが、それまでに欧州の金融危機が落ち着いていることを祈るばかりである。