CIRSE 2013報告 ~企業のシンポジウムに乗っ取られた?~

2013.10.03

CIRSE 2013報告
~企業のシンポジウムに乗っ取られた?~

IVRコンサルタンツ
林 信成

 2013年9月14~18日、バルセロナにて開催されたCIRSE2013に参加した。バルセロナは朝晩は少し肌寒いものの、晴れた日中は真夏のような太陽が照りつけるという地中海的な気候で、観光シーズンでもあり、街は学会関係者を含めて観光客でごったがえしていた。残念ながら会期中に何度か雨が降ってしまったし、学会場は中心部から少し離れたところに位置していたが、街中に網羅された地下鉄など公共交通機関が発達しているため、参加者の多くはちょっとした空き時間でも観光やサッカー観戦などを楽しめたかと思う。私も最終日は失礼して近郊の観光地へ足を伸ばした。

カサ・ミラ
グエル公園
CIRSEメイン会場
入口ロビー・その1
入口ロビー・その2
学生用ラウンジ
一番大きな会場
展示会場
ハンズオン会場
E-Poster会場
CIRSEディナー会場

 CIRSEそのものは、いつも通り6,500人を超える多くの参加者で賑わっていた。ただ数年前に参加者が6,000人を超え、SIRを抜いてIVRに関する世界一の学会となってから、「大きすぎる」弊害に苦しんでいるような気がする。今回は学会場の位置的制約からか、最近数年続いていた「入り口近くの展示場を中心に、そこから四方へと各種ミーティングルームに向かう」というパターンを踏襲できなかったし、展示場は1ヶ所に集中していたものの全体に小規模な印象があった。そのとばっちりかどうかは不明だが、大会プログラムの中に「サテライトシンポジウムという名の、企業がスポンサーとなっているシンポジウム」がものすごく多かった(35セッション)。とにかく朝から昼から夕方まで、さらにはGrunzigレクチャーやFilm Panelなど、当然Plenary sessionだろうと思われるセッションにまで重なって、膨大な数のスポンサードシンポジウムが並行して進行していた。日本で言えば、ランチョンセミナーが朝・昼・夕方にいっぱい、特別講演などと並行して開催されるようなものである。その影響で、様々な重要なテーマについて企業の思惑とは関係なく講演が行われるSpecial session・Evidence Forum・Hot topic symposium・Controversy in IRといったセッションが、お互いに重なった時間に並行して行われる頻度が高まり、「あちらを聞いたらこちらが聞けない」状態が頻発していた。これだけの学会を成功させるには多大な資金が必要だから、仕方がない面もあるのはわかる。しかしながら、欧米のスポンサードシンポジウムは日本のランチョンセミナーなどと比べても、かなり企業色が強い。サテライトシンポジウムの講演を聞いていると、「そのデバイスこそ最高」と、マインドコントロールに陥ってしまうことが多い。どうもこれは、やりすぎに感じられてならない。
 日本からも大勢の参加者があったようだ。ただ学会場で参加者に遭遇する頻度は、いつものCIRSEよりは少なかったような気がする。まあサグラダファミリアやFCバルセロナを抱えている都市だからある程度は仕方なかろう。それに前述のような会場の構造のため、主たるセッションには入り口から直接行けるので、会場を移動する途中で会うチャンスが少なくなったこともあるだろう。日本からの講演や座長は相変わらず数えるほどにとどまっていたが、E-Posterで久しぶりに日本人がMagna Cum Laudeに輝いた(Retinoblastomaに対する動注療法)。長年にわたってずっと積み上げられてきた仕事がこのように脚光を浴びて嬉しく思った。
 以下、いつものように聴講できて印象に残ったセッションを中心に報告する。手書きメモが元なので、細かい数字や内容には間違いも含まれている可能性があることをご了解ください。CIRSEもSIRほど厳しくはないが「スライド撮影は厳禁」と明示されている。もっとも現実には頻繁に撮影している参加者が、特にアジア人で多く見られたし、iPadやiPhoneで動画撮影している人も少なからず見かけた。おかしかったのは、細かいスライドが見づらい時にiPadのデジタルズームを利用している人が少なくなかったことである。

Renal Denervation(RDN)
 好成績を維持して多くの関係者の注目を浴び続けている本手技だが、ここへ来て少し落ち着き、問題点も少しずつ明らかになってきている。現時点でメジャーな製品がすでに7種類もあり、それぞれが専用のジェネレータを必要とするため、「一定数のカテーテルを購入すれば、装置は無償貸与」となる例が多いようである。放射線科医のシェアを確保するため、「外来や再来で患者を診よ」という傾向にあるのはSIRと同様である。ただ高血圧患者の中には糖尿病などの併存疾患を有する方が少なくなく、これらを放射線科医がきちんと診られるのかどうかは少し不安である。欧州の調査では、腎臓内科医の66.3%、循環器科医でも41.6%が、症例があれば放射線科医に紹介したい意向だそうである。
 7種類もあるデバイスの選択だが、9割は「使いやすさ」で決めているとのことである。演者が「再狭窄率や有効率に関して、企業の言うことを信じるな」と強調していたのが印象的である。こういう発言は、企業がスポンサーであるサテライトシンポジウムでは決して聞けない。その演者はいくつもの企業のサテライトシンポジウムで講師を務めていたが、もちろんその際にはそういう発言はしていない。
 7種類のうち、6つはRFで1つは超音波である。またRFでも5つは単極電極だが1つは双極である。セルフセンタリング機能もあるものとないものがあるし、クーリング機構も違えば所要時間も2~24分とかなり異なる。これらのうちどのデバイスが優れているのかについて、データは全く無いし、これらを比較するランダム化比較試験が行われる可能性は皆無に等しい(そういう資金を企業は出さない)。先発品であるSimplicityも、先端に4つの電極がついて4ヶ所同時にRFAできるSpyralという新製品が出ていた。座長が「結局どのデバイスが一番よいのか?」と演者Dr.Sapovalに何度も執拗に迫ったが、「全部使ったわけではないから知らない、客観的な比較データはほとんどないからわからない」と断固として答えなかったのが面白かった。座長も最後は「やはり貴方はエキスパート」と匙を投げた。
 アブレーションすべき交感神経の大半は内腔から1.0~1.5mmの距離にあるが、一部は少し離れた場所にあり、これらを内膜損傷なくアブレーションできるかどうかが問題となるようである。実際に全く無効であるNonresponderも少なくない。腎動脈から針を突き刺して外膜周囲にエタノールを注入する試みも、動物実験ではなされている。
現在までの文献報告は、ほとんどがMedtronic社のSimplicityによるもので、180人の患者のメタアナリシスによれば合併症は1.1%(4例)、うち3例が偽動脈瘤で1例が解離であった。6ヶ月後に狭窄が生じた1人にはステントが留置されている。スパスム防止のためにニトロの動注がされているようである。
 フロアから「この治療法はもう、一般病院がどんどん推進して良いものなのか?」という質問があったが、演者は即座に「NO」と答えていた。前述のような問題があるし、まずきちんとした薬物療法を行い、生活習慣の改善を行うのが圧倒的に重要と明言していた。素晴らしい見識である。
 本治療の適応は「利尿剤を含む3種類の降圧剤が奏功しない難治性高血圧」とされ、全高血圧患者の10~20%程度が適応になると考えられている。しかし、この「難治性高血圧」というのが曲者で、偽性高血圧ともいうべき患者が少なくない。白衣高血圧はもちろんだが、実はきちんと薬剤を服用していない患者や血圧測定を真面目にしていない患者も、相当数は含まれているようである。現在までにピアレビューが行われた論文は9本で、ランダム化比較試験は2本しかない。そしてそれぞれの症例数は27人と106人である。また論文ごとに患者の重複もあるので、結局のところ論文になっている対象患者数はたかだか650人程度にすぎない。高血圧患者という膨大な患者数を考えれば、あまりに小規模かもしれない。さらには本治療法が奏功しない、いわゆるNon-responderの率が、論文によって0~45%と大きくばらついている。またランダム化比較試験における6ヶ月後の収縮期血圧が、診察室では27mmHgも下がっているのに対し、家庭で自己測定した血圧は13mmHgしか下がっていない。Non-responderの治療前平均血圧が148/83であること、またHTN試験における降圧効果は収縮期血圧180mmHg以上の患者の方が160mmHg以下の患者より高かったことから、対象は収縮期血圧180mmHg以上となるようである。現在、HTN3試験をはじめシャム手技とのランダム化比較試験が3本走っているので、その36ヶ月成績が出るまで、最終的な決着はつかないのかもしれない。
 なおHTN試験は、その1が3年、その2が2年経過しており、シャム手技とのランダム化比較試験であるその3は、症例登録が終了したところである。その1で3年後の経過がわかっているのは153人中88人で、その降圧効果は診察室で-32/-14mmHgと良好である。eGFRは徐々に下がる傾向を見せているが、有意差はない。その2は106人が対象の薬物療法群とのランダム化比較試験であり、30ヶ月後の成績は、RDN群では-32/12mmHgだったのに対し、薬物療法群は1/0mmHgであった。しかしながら、RDN群でも家庭での血圧は-20/12mmHgしか下がっておらず、さらに24時間血圧測定した症例では-11/7mmHgの低下にとどまっていた。シャム手技とのランダム化比較試験が必要とされるわけである。Global Symplicity Registryという登録試験でも同様の結果で、収縮期血圧180mmHg以上の患者は3ヶ月後に-29/16mmHg低下しているが、24時間血圧は少ししか下がっていないとのことであった。なおシャム手技とのランダム化比較試験であるその3は、530人が本年の5月で登録を終了している。
 残念ながら今回、睡眠時無呼吸をはじめとする、他の疾患に関する話はほぼ皆無であった。

血管形成術(以下、薬剤コーティッドバルーンはDCBと略します)
 欧州ではいまだに本領域における放射線科のシェアはかなり高いようで、企業のサテライトシンポジウムは夥しい数が平行して走っていた。その一方で、Evidence Forumのような利益相反によるバイアスがないセッションの多くは空席が目立った。
 一番大規模に行われたのはやはりCOOK社のシンポジウムで、Zilver-PTXの過去の秀逸な成績があらためて誇らしく発表された。今回新しく呈示されたデータは4年成績で、無TLR率はまだ83.2%を保っていた。ただこういう話は企業主導のシンポジウムなので、さほど驚きはない。それより面白かったのは、デンマークのPESETA試験の話であった。これはRutherford分類で2~4の間欠性跛行患者を対象としたランダム化比較試験で、運動療法および薬物療法にPTXによるステント治療をON/OFFして有効性を比較すべく企画された。対象患者は90人で、うち70人が3cm以上の狭窄だったのだが、何と対象患者の80%もが、ステント導入前の3ヶ月間の運動療法および薬物療法で満足し、もはやステント治療を望まなかったという結果であった。運動療法とIVRのガチンコ対決は過去に何度か行われているが、いずれもIVRは優位性を示せていない。今回もその結果を支持するものであったと思う。なお運動療法は、専門家の監督下で行われないと効果がないと言われて来たが、この試験では、運動プログラムの指示書が渡されるだけである。
 TASC分類C/Dの患者を対象としたバイパス手術とステント治療のガチンコ対決であるZilver PASSも始まるようだ。220人の患者が対象で、12ヶ月の初期開存率がエンドポイントになっている。この結果が出れば、世の中はさらに血管内治療へと向かうかもしれない。なおCOOK社はDCBとDESを比較するランダム化試験も進行中とのことである。

 BIOTRONIK社のシンポジウムでは、バルーンの表面に刃を装着したScoring BalloonであるAngioSculptに関するPANTHERというレジストリー試験の結果が報告された。初期開存率は大腿動脈で84.8%ということだが、こういうのはやはりCoreLabできちんと客観評価せねばならないだろう。
 このデバイスで一番期待される石灰化の程度では、高度と中等度で差がなかったとのことである。
 またこのシンポジウムでは、Passeo-18という4Fr対応のDCBに関するランダム化比較試験の成績も発表されていた。DCBに関するランダム化比較試験は呆れるほどどれも綺麗に有意差が出ている。
 Gore社のシンポジウムでは、TIGRISというナイチノールステントをポリマー線でつないだステントに関する報告があった。ヨガやガーデニングなどで膝を強く曲げる機会の多い患者では、通常のステントは損傷しやすい。膝に留置しても、「ポリマーで繋がれているために柔らかく対応できる」というコンセプトである。実際、X線透視下に膝を屈伸させている様子が動画で示されたが、なかなか良さそうであった。ただ成績はまだRetrospectiveで短期のものしかなかった。
 Medtronic社のDCBに関するシンポジウムでは、Real World Fem-Pop Registryの中間報告があり、260人の288下肢が対象であった。ステント併用率がかなり高いが、1年後の無TLR率は85.0%、初期開存率は77.6%であった。アテレクトミーのようなデバルキングをDCBに併用する方法は、理論的にはリーズナブルと考えられるが、Rotarexを併用した臨床試験では残念ながら、両者に差は出なかったようである。なお「DCBとDESのHead to head look」という演題があったので期待して聴いたのだが、Propensity score分析を用いてretrospectiveに両者の成績を比較し、差がないと言い張っただけで、まったくもって詐欺のような講演内容であった。
 Abbott社のシンポジウムでは、生体吸収性ステントが取り上げられていた。これはPLLA骨格にEvelorimusをコーティングしたもので、ブタでは3年後に完全に消失することが確認されている。ESPRIT I試験は6ヶ月後成績しかなく、まあまあといったところで、長期成績が待たれる。
 なお以前から何度も書いているが、私が個人的に期待しているのは、重症下肢虚血患者に対する骨髄幹細胞注入療法である。現在までに45本の臨床試験が報告されているし、うち7本はランダム化比較試験のようであるが、成績にはばらつきが多く、いまだに決定的な成績は得られていない。テルモ社のシンポジウムで聴いた講演では、15分で細胞分離が可能だというHarvest SmartPrep2という装置が、チェコなどで新たな臨床試験を開始しているようである。私はIVRが大好きだが、高度な技術を持つ者のみが、高額なデバイスを多数使用し、長時間かかって糸のような細い血管を開けるより、このような誰にでもできる治療の方に、より大きな未来があると思う。

透析シャントインターベンション
 特に目新しいものは無かった。Dr.Haskalらがランダム化比較試験で証明したように、ステントグラフトの成績はベアーステントより有意に優れているが、それでも再狭窄は少なくない。ただ浅大腿動脈用ステントの改良がめざましいため、そのテクノロジーが応用され、最近の初期開存率は6ヶ月82%くらいまで改善しているようである。とはいえ12ヶ月になると、やはり32%しかない。

頸動脈ステンティングおよび脳卒中治療
 欧州ではもともと一般IVR医のかなり多くが頭頸部も手がけており、それなりにセッションも多かったが、今回のCIRSEでは特に、急性脳梗塞に対して多くのセッションが組まれ、多数の聴衆が参加していた。私は他のセッションと重なってほとんど聞けなかったが、「一般のIVR医がこの領域にどのように関わるか」が大きなテーマの1つだったようである。個人的には「一般IVR医は、安易に関わるべきではない」と思っているので、少し複雑な思いであった。
 頸動脈ステンティングでは、無症候性狭窄に対する適応について語られたが、予想通り現状では、「そこに狭窄があるから」という症例がかなり多いようである。本治療法は内膜摘除術とのランダム化比較試験が数多く組まれ、その歴史的経過は臨床試験の問題点や限界を知るのにとても役立った。CREST試験のおかげで結局のところ、「両者の成績には有意差がない」という結論は出ていると思うが、この試験では参加するIVR医の腕が厳しく選別されており、上手な術者しか含まれていないことに注意する必要がある。つまり、一般のIVR医にその成績を外挿するのは極めて危険なことだと思う。
 サテライトシンポジウムでは、5Frのラピッドエクスチェンジタイプで、位置調整が可能な二層構造の柔軟なステントや、Roadsaverという血栓除去デバイスが紹介されていた。
 頭蓋内動脈へのステント留置に関するランダム化比較試験は、薬物療法群に比べてステント群で、はるかに高い30日脳卒中/死亡率が出たため、早期中止に追い込まれた。これは初期デバイスであったWingspanステントの問題なのかもしれないが、穿通枝の出るM1を避けるなど適応の問題もあるだろう。そして拡張用バルーンにせよステントにせよ、大きな問題の1つは、まだ脳動脈専用のデバイスがないことであろう。比較的小さな市場だが、専用のステントが増えるのはもちろんのこと、専用の薬剤コーテッドバルーンも必要かもしれない。繰り返すが、今までに薬物療法と対決した3本のランダム化比較試験は、いずれもIVRの惨敗に終わっている。一般IVR医が安易に手を出す領域ではなかろう。

腹部大動脈瘤
 これはGrunzig記念講演でしか聞いていないが、II型リークがテーマであった。そこではNellixというステント周囲のバッグが膨らんで瘤嚢を充填するデバイスが紹介された。54例を対象に施行して、技術的成功率100%、死亡率0%、II型リークなしというのが印象的であった。瘤自体にFoamなどを注入する治療についても紹介があった。II型リークの治療適応についてはいまだに多少の議論があるが、そもそもII型リークが生じなければ議論も終わる。

Oncology全般
 経動脈的治療にせよ経皮的アブレーションにせよ、イメージング装置の著しい進歩が印象的だった。コーンビームCTが当たり前のように使われているのはもちろんだが、栄養枝や灌流領域も、三次元カラー表示で示している演題がかなり多く見られた。コンピュータ技術の発達には脱帽である。もちろん宮山士朗先生の論文が高頻度に引用されている。
 さらにはFusion画像も今やお遊びではない領域だし、局所アブレーションではRoboticsもかなり現実のものとなっている。カテーテルや薬剤を電磁誘導する技術だけは、残念ながら10年以上は足踏みしている感がある。

肝細胞癌
 何が何だか訳がわからないくらい膨大な数の臨床試験が進行中だが、何か新しい決定的なエビデンスが出たわけでは全然ない。ECOGが主導したTACEにソラフェニブをON/OFFする第III相ランダム化比較試験は、患者登録が進まずに中止になっている。日韓が参加した試験でも両国間の感受性の差が問題になったが、アジアと欧州との間でも、ソラフェニブに対する耐容性はかなり違いがあるようだ。TACEとRFAの併用療法は、ほとんどの聴衆に正しいと支持されてはいるが、現実に施行されている施設はまだ比較的限られているようである。成績にはばらつきもあるが、これはTACE一般に言えることで、主に対象病変の大きさの違いによるものだろう。
 Evidence Forumでは、外科手術・エタノール・RFA・MW・TACE・IREが、それぞれの立場から述べられた。会場はけっこうガラガラで、エビデンスというものに多くのIVR医が関心を持っているわけではないことがあからさまになった。
 外科手術は一般的な話で、2㎝以下の小型では依然として第一選択だが、近年では手術件数が減って技術の伝承が難しくなっていると思う。エタノール注入は一世を風靡したものの、safety marginがとれない上に転移に弱いため、RFAなどより強力なものに取って代わられた。酢酸や加熱生食(造影剤)なども試みられたが、今ではごく一部の施設でごく限られた部位にしか用いられていないようである。
 TACEに関しては荒井保明先生が担当され、RFAとTACEの適応や併用、超進行症例に対する治療、肝機能と生存期間の相関などに触れた後、DEBDOXと日韓共同試験の成績を紹介して、多くの成績のばらつきがあまりにも大きく、結局は「TACEは全く標準化されていない」ことを強調された。まさにその通りで、TACEという同じ言葉で多くの施設がかなり異なる治療を行っているのが現状である。
 IREは少しデータが増えたが、それでもまだ小規模な成績しかない。26人を対象とした前向き試験では、CR77%/PR15%だから、少し不満が残る。510Kで承認された後の49人(76病変;うち33人が肝細胞癌、16人が大腸癌肝転移)を対象としたprospectiveな分析でも、CRは41%に過ぎなかったし、無進行生存期間の中央値は11.3ヶ月にとどまった。
 今回、驚いたことの1つは、薬剤溶出性ビーズも含むBeadBlock(製造会社は元Biocompatible)とRadioembolization製剤であるTherasphereが、いずれもBTG Internationalという同じ会社の傘下に入っていたことである。これで両者のガチンコ対決は、どちらが勝っても製造企業にとっては一勝一敗の構造となるだろう。だからではないが、おそらく有意差のない結果ばかりが出てきそうな気がする。
 このBTG International社のサテライトシンポジウムにも参加した。アドリアマイシン溶出性ビーズであるDEBDOXは欧米でTACEのスタンダードとしての地位を固めつつあるように見えるが、講演では相変わらず、4週間ごとの定期的な塞栓が行われていたし、内容もサイズの小さい製剤の方が奏効率が高いとか、mRECISTと生存期間に相関が見られたとか、Child Aの患者の方がBよりも生存期間が長いとか、陳腐な話が主体であった。いずれにせよ3年62%、5年22.5%だから、画期的な成績ではない。昨年も報告した小さいサイズのM1(70~150μm)の話もあったが、昨年からほとんど進歩がないように思う。演者は「PRECISIONで勝てなかったのは、500~700μmの製剤が主体だったから」と強弁し、転移も含めたサイズの小さな塞栓剤の有効性を強調していたが、いずれにせよ液体塞栓剤よりは大きい。臨床のデータは全く示されなかった。「PRECISIONで勝てなかった」事実こそ重要である。
 TherasphereによるRadioembolizationでは、門脈侵襲のある患者において、「30日後では画像にあまり変化がないものの、180日後に効果がみられることが多い」ことが述べられた。症例にもよるが、本当の超進行症例なら、180日持つかどうかが問題だろう。大きな腫瘍での生存期間中央値は15ヶ月、門脈塞栓のある症例よりない症例の方が予後良好というのも、インパクトはあまりない。TACEとのランダム化比較試験では、生存期間中央値がRadioembolizationで20ヶ月、TACEで17.4ヶ月と有意差はなかった。ただ進行までの期間が長いこと、毒性が低いことを強調していた。対象症例にもよるが、いずれにせよ、突出した成績ではない。興味深かったのはむしろ、ダウンステージに用いたり、集中投与によってRadiation lobectomyを目指す試みの方であった。大腸癌肝転移に対しても、Radioembolizationの効果発現は緩徐であり、判定には3ヶ月は待つ必要があるということであった。転移性肝腫瘍151人(大腸癌61人、神経内分泌腫瘍43人、その他47人)を対象とした第II相臨床試験では、生存期間の中央値が8.8ヶ月であった。薬物療法とのランダム化比較試験であるEPOCHなど数本の第III相試験が進行中だが、結果はまだ出ていない。
 Merrit Medical社のシンポジウムでは、薬剤溶出性Hepasphereの講演があった。50/100と30/60の薬剤溶出製剤を比べると、前者は薬剤を含んだ時に354±182μm、後者は178±27μmの大きさになるとのことで、動物実験による腫瘍の壊死率は50/100では58%だったのに対し、30/60では92%と高かった。これは当然のことだろう。実際の臨床では、生食20mLあたり25~50mgのアドリアマイシンを1時間かけて含ませた30/60製剤を用い、45人の患者に4~5週ごとにTACEを繰り返すプロトコールのようで、mRECISTによる効果判定では、標的病変のCRは22.2%、PRは46.6%、SDが22.2%、PDが8.8%という結果であった。さほど良好な結果ではないが、腫瘍径の中央値が約8cmなので、そんなものかもしれない。なお胆道系の合併症は経験していないとのことであった。
 昨年のCIRSEでSurefireという先端が広がるカテーテルのことを報告したが、今回はそのSurefire社のモーニングシンポジウムにも出席した。朝8時からだったが、小さな会場ながら満員の入りであった。このデバイスは塞栓剤の逆流防止のために開発されたものだが、私にとってむしろ印象的だったのは、ビーズによるTACEやRadioembolizationにこれを用いた講演で、「本デバイスを使うと血流動態が変わる」「圧格差によって治療効果が異なる」という発言であった。つまり彼らは、B-TACEと類似した血管造影像を見ており、入江先生がCVIR4月号に書かれたような圧の変化に気づいているのである。私は日本のB-TACEについて、入江先生の論文を紹介しながらコメントしたが、演者らは残念ながらその内容をまだ理解できていないようであった。これで3,000ドルは高かろう。

肝転移
 イリノテカン溶出性ビーズであるDEBILIを用いたTACEは、アバスチンとFOLFOXにON/OFFするランダム化比較試験が行われ、有害事象には差が無く、両群とも9サイクルの治療がされていた。全体としての奏効率はDEBILI群で有意に高く、全体の生存期間の中央値は22.1ヶ月(ハザード比1.7)ということであった(無進行生存期間ではハザード比1.3)。
 大腸癌肝転移に対し、全身化学療法にRFAをON/OFFするランダム化比較試験であるCLOCC試験では、無進行生存期間の中央値が単独群59人では10ヶ月だったのに対し、併用群では16.8ヶ月であった。しかしながら、全体としての生存期間には有意差が無かった。患者背景にも差があったようである。
 Radioembolizationでは、多施設共同の第II相臨床試験や全肝を照射する第I相臨床試験、複数の第III相ランダム化比較試験が同時進行しているようだが、どれがどれやら私にはよくわからない。区域に集中して大量投与するRadiation lobectomyは興味深いが、それなら体外照射でも良さそうな気がする。
 動注療法についても講演があった。オキサリプラチンや5-FUを用いて無進行生存期間中央値が20ヶ月、55%が手術可能になったと報告があった。「動注カテーテルを留置するために手術をする必要はない」「原発巣の手術をする際には右胃動脈などの結紮が勧められる」など日本では聞き飽きた文言が続いたが、最後に荒井先生と稲葉先生への謝辞がスライドとともに述べられて快感だった。

経皮的局所アブレーション
 今回、比較的注目度が高かったのは、マイクロウエーブだったような気がする。それほど画期的な新商品が出たわけではないのに、講演などで触れられることが多かった。その理由はどちらかというと、歴史的な背景によるものに思える。経皮的局所アブレーションのそもそもの歴史は、約30年前のエタノール注入にまでさかのぼる。本治療法は世界に衝撃を与えて瞬く間に広がったが、腫瘍辺縁や転移性腫瘍に弱いことが数年で明らかになった。そこで登場したのがマイクロウエーブとRFだったのだが、凝固できる範囲の大きさや装置の使い勝手、そして海外における企業のパワーバランスで、あっという間にマイクロウエーブは日本などアジアの一部の特殊技術になってしまい、しばらくして小さな肝細胞癌が圧倒的に多い日本では、クールチップが大きな市場シェアを有することになる。しかしながら、RFより早くて強力でHeat-sink-effectのないマイクロウエーブは海外でも細々と生き続けてきたし、1つのデバイス会社を大手企業(コビディエン)が傘下におさめたことで、最近はかなりシェアが伸びてきた。そこへ来て広く海外展開をしている日本の大手企業の欧州法人(テルモ)が販売提携でこの分野に参入したために、露出度が高まって注目度が増したのだと思う。最近数年間、私は海外の学会のレポートでほぼ毎回、「マイクロウエーブが復権しつつある」ことを報告してきた。それがより目立つようになったということだろう。マイクロウエーブの世界にはあまり競争がなかったので、多チャンネル化やクールシャフト型の開発、コントロール性能の改善といったデバイスの進化のペースが比較的遅かったように思う。今回、販売面で競合する企業が増加したことで、マイクロウエーブ装置の改良が加速化されるかもしれないのは喜ばしいことである。Evidence Forumで報告された肝細胞癌の生存率は、1年91.2%、3年72.5%、5年59.8%と良好であった。装置自体の価格はさほど変わらない。電極の価格には少し差があるようだが、そんなに大きなものではないだろう。
 なおマイクロウエーブとRFAと凍結療法のどれがいったい良いのか、多くのIVR医はよくわからないと思う。もちろんランダム化比較試験を望む声もあるだろう。しかしそれは、現実には極めて困難である。企業は資金を出さないだろうし、有意差を出そうと思えば膨大な症例数が必要になるからである。結局は歴史が判断することになるが、それが科学的に真実かどうかは定かでない。私個人の印象では、もう少しデバイス自体が洗練されれば、最後はマイクロウエーブが本命のようにずっと思っている。アブレーション領域が想定しやすく確実だし、根治にも緩和にも、もっと使われるようになると思う。
 IREで新しい画期的なデータは出ていない。4cm以下で、他のアブレーションでは困難な症例のみが対象となっているようである。治療後のCTではアブレーション領域が過大評価されやすいという情報は大事かもしれない。
 なお肺癌のセッションでは放射線腫瘍医が登場し、最先端の成績を報告してIVR医がアブレーション治療へと安易に走るのを戒めているようにも思われた。実際、IMRTの登場・普及により、肺の局所アブレーション治療の適応は、かなり限られていくように思う。

前立腺塞栓術(PAE)
 最近かなり注目を浴びている手技であるが、技術的には子宮筋腫に比べてかなり難度が高そうである。栄養動脈の解剖についてかなり詳細に解説する講演があり、聴衆も多かった。私はGrunzig講演と重なって聞けなかったのだが、同セッションでは泌尿器科医がその立場から講演し、「PAEがTUR-Pに優る点はほぼゼロ」という内容だったそうである。私も個人的にそのように思う。経尿道手術は仙骨麻酔でも可能だし、ブルーレーザーが普及すれば出血のリスクも激減する。唯一の利点はおそらく逆行性射精が生じづらいことであろう。これは体験者にはすごく辛い事象なのだが、それだけの理由でPAEが生き残るのは難しいかもしれない。いずれにせよ、手術を生業とする泌尿器科医の存在は、UAEにおける婦人科医に比べてもかなり高い壁である。

門脈圧亢進症
 これはControversyセッションにだけ、少し遅れて出席できた。1題目は「腹水治療の第一選択肢はTIPSである」というもので、なんと80%がこれに賛成であった。私にとってむしろ印象的だったのは、反対の立場の演者が紹介したALFApumpというデバイスだった。これは腹腔内と膀胱内にそれぞれカテーテルを入れて、それぞれをポンプにつなぎ、ポンプでは歯車が回転してフィブリンなどを砕きながら腹水を膀胱内へと送るのである。現在、40人の患者を対象にパイロット試験を施行中とのことであった。
 2題目は「高度の静脈瘤出血にはTIPSが第一選択である」というもので、最初は賛成反対が半々であったが、討論が終われば賛成が3分の1ちょっとに減っていた。早期のTIPSが再出血や生存率の面で優れていることは確かなようだが、出血中の緊急症例と状態が落ち着いた早期TIPSがごっちゃになっていて、現実には小規模な報告しかないことが原因かもしれない。
 3題目は「内視鏡治療が不成功に終わった食道静脈瘤の治療はBRTOかTIPSか」というもので、廣田省三先生がBRTOの立場から、Dr.HaskalがTIPSの立場から、それぞれ講演された。この2人の討論は今までに何度も聞いているので、さして目新しいことはなく、Dr.Haskalは相変わらず「日本のBRTOのほとんどは、出血したことのない症例を対象とした予防治療である」というのが主旨である。どうして彼のような優秀なIVR医がDr.Saadのように両者を対立軸でなく相補軸で捉えられないのか不思議だが、これはControversyセッションなので仕方ないかもしれない。会場の反応は、討論の前後でともに約4分の3がTIPSを支持したが、私にはむしろ、CIRSEという場所でも4分の1もの聴衆がBRTOを支持している、少なくともBRTOのことを知っているという事のほうが感慨深かった。

静脈系
 少ししか出られなかったが、数年前から何度か書いたように、静脈系のインターベンションは放射線科医にとってまだBlue Oceanである。ATTRACT試験の成績が出るまで動きづらいのは確かだが、Angiojetが主導したPEARL Regitryという多施設共同前向き臨床試験では、35施設から371人の患者が登録され、Scientific sessionで良好な転帰が報告されていた。Regitry試験ではあるが予想通りの期待が持てる報告で、小さな会場ながら超満員の聴衆を集め、発表後は大勢の質問者が列をなしていた。
 下肢静脈瘤は血管外科医の金城湯池かもしれないが、技術的にIVR医が活躍すべき場でもある筈だと思うし、そもそも良性疾患なので治療されていない患者がまだまだ多いと思う。不適切な過剰診療は問題だが、もう少し注目されても良いだろう。
 下大静脈フィルターに関してはCIRSE REGISTRYの報告があり、671人の患者が登録されていた。絶対適応は40%、相対的適応は31%、予防的適応は24%ということだから、米国よりはかなり健全だろう。挿入は右内頚静脈経由が多く、回収成功率は628例中576例(92%;平均留置期間14週)と高いが、9%で通常でない方法を必要としたとのことである。良好な回収率だが、CIRSEを挙げて671人という規模だから、統計学的信憑性には疑問が残る。
 なお下大静脈フィルターでは、ナイチノール製のステント構造の中に生体吸収性の糸を張ったフィルターの報告もあった。

その他
 これまでにも少し触れたが、今回はEvidence Forumという名のセッションがシリーズであり、PTAや肝細胞癌などの分野で、それぞれの治療法に関する最新のエビデンスが報告された。しかし、その内容は自らの治療を正当化するためだけの講演が多く、たいていは知っていることばかりでイマイチだった。荒井保明先生が肝細胞癌のセッションで、日韓共同臨床試験の成績を呈示しつつ、エビデンスと言ってもいかにデータがバラバラで、その前提となる手技の標準化がなされていないかを指摘されたのだけが記憶に残った。座長や聴衆が本当に理解したとは思えないが。
 Amazing Interventionというセッションも登場したが、これはまあ「苦労したけど最終的にはこうして治してやったぜ」という自慢大会で、レベルの高い症例報告会のようなセッションだった。
 胆道系では生体吸収性ステントのデータが蓄積されてきている。ただ期待されるのは良性狭窄なので、まだ大規模な長期成績が出る段階ではなかった。悪性狭窄に対しては、薬剤溶出性ステントで抗癌効果を高めたり、RFAで腫瘍を壊死させたりする試みもされている。
 ドラッグデリバリーシステム(DDS)のセッションでは、熱によって崩壊するアドリアマイシン溶出性リポソームの注入をRFAと併用したHEATという臨床試験の報告がなされ、単独群347人、併用群354人で、無進行生存率や局所再発率、生存率のいずれにも差はなかった。サブ解析で、45分未満のRFAではハザード比が1.34であったのに対し、90分以上では0.0508であったので、長時間のRFAが優れているかもしれないと述べられたが、あくまでもサブ解析だし、90分もの治療はお互い苦痛だろう。
 HIFUはそもそも何でIVRなのかわからない分野だが、MRガイド下のものがRosch記念講演で取り上げられていた。単に装置をコントロールできているからだけのように私は思っている。ただ前立腺癌よりも前立腺肥大症に有効ではないかと秘かに思っているし、超音波で破砕されるカプセルとの併用療法は面白いかもしれない。Osteoid osteomaや骨転移の他、BBBの破壊による脳腫瘍の治療にも期待が持たれているようである。
 Oncolytic Virusによる治療は、死亡の合併症が出て長らく停滞していたが、JX-594というワクチンウイルスの腫瘍内注入に関する第Ⅱ相臨床試験の成績が報告され、30人の肝細胞患者に2週間ごと3回注入し、生存期間は低用量では6.7ヶ月、高用量では14.1ヶ月ということであった。まだまだ実験的治療の域を出ないと思う。この領域に興味のある人は、JVIRの8月号に詳細なレビューが掲載されているので参考にされたい。
 NBCAの使用は欧州でも増加しており、Gluban 2が主に用いられているようだった。
 肝臓を体外循環するChemosaturationについては、依然としてランダム化比較試験が進行中だが、新しいデータは特に何もなかった。
 SIRと同様、CIRSEも学生の勧誘に熱心で、専用のラウンジを設け、ランチを供与したり、めぼしい講演のプログラムリストを渡したりしていた。日本でも参考にすべきかもしれない。

 以上、企業色があまりにも強くなって、少し残念な感じがした今回のCIRSEだったが、最近数年間の急成長のほうが異常事態だったと思うようにしたい。来年はグラスゴーでの開催なので、日本人参加者ももう少し多く学会場に長くいることを期待している。