SIR 2014報告 ~さらばSIR~

2014.04.03

SIR 2014報告
~さらばSIR~

 
IVRコンサルタンツ
林 信成

学会場入り口

 

Registration

 

講演会場

 

オープニングセッション

 

人通りまばらな展示場

 

利用者少ないインターネットコーナー

 

ティータイム

 

おかしなFilm Panel
総会

 

ポスター展示

 

ホテルのプールで泳ぐ鴨

 

新製品展示
 
 2014年3月22日~27日まで、サンディエゴで開催されたSIR 2014に参加した。SIRは昨年、日医放総会と日程が重なっていて私は1回お休みしたので、2年ぶりの参加であった。私事で恐縮だが、サンディエゴは約27年前に留学して1年近くを過ごした美しい都市である。会場は海辺に面し、多くのヨットに加えて軍艦も停泊している(サンディエゴには軍港があり、軍と観光が主たる産業)。対岸には美しいループを描く橋でつながれたコロナド島が見える。大会前日は、朝夕は寒いくらいだけど昼間は燦々と太陽が輝き、ホテルのプールでは子どもたちが歓声を上げるという、カリフォルニアらしい気候であった。ただその後の会期中は少し曇った日が続いて残念だった。
 部屋のホテルでCNNを観ると、CMの多くが製薬会社のもので、一般人に向けて血糖降下剤や高脂血症治療薬などを次々に宣伝していた。それが終わったと思ったら今度は、「このような製剤でこんな有害事象があるとFDAが公表しています。身に覚えのある人はご連絡ください。賠償金が取れます」という弁護士事務所の広告だった。やっぱりこの国はどうかしていると思う。
 大会自体は相変わらずバブリーな雰囲気を残しており、レポーターみたいなタレントを起用してテレビ中継もどきを流していた。壇上の作りもオシャレで、TEDのスーパープレゼンテーションをぱくっていた。しかしこれは画像診断関連の学会としては明らかに失敗で、スクリーンは横に広い会場でもたった1面だけ。さらにその中でプレゼン画面はごく一部だけということで、スライドが見辛いこと甚だしかった。
 大会の内容も昔に比べて貧弱で、Plenaryあるいはこれに準ずるセッションが激減していた。何と末梢動脈疾患や腫瘍IVRについて正面から取り上げているセッションがほぼ皆無だったのである。もちろんScientific Sessionではそれなりに報告があるのだが、これらは多数が平行して走るし、会場が小さいし(Radioembolizationはいつも満員で、入室を拒否されたこともある)、内容も玉石混交である。いったいどうしちゃったのだろう?という印象である。最終日になって、あれっ、もうおしまい?と思ってしまった。面白くてそう思ったのではなく、まだ何も聞いていない、話し合われていないだろう、という感じが強かった。
 ということで、今回は病態ごとにまとめて報告するのが難しく、様々なイベントごとに、理解できた範囲内で、印象を述べる。

M&Mセッション
 私の記憶では、土曜日はいつも2つの教育的シンポジウムが平行して走っていた(1室では末梢動脈疾患、別の部屋では肝細胞癌とか)。ところが今回の土曜日は、今まで最終日に多かったM&Mセッションがメインであったのみである。内容はInterventional Oncology、動脈疾患、Embolizationの3つのセクションに分けて、それぞれ5例ずつくらい、合併症が生じた例や「やっちまった」例が提示された。いつもに比べると、比較的深刻度の低い症例が多かったと思うが、大物たちが大勢の前でこのような合併症を正直に話してくれるのはありがたいことではある。日本だとそういう合併症を発表すると、ジイサンが立ち上がって烈火のごとく叱りつけたり、中堅クラスがボロクソにこきおろしたりした例が過去に何度もあった。私はいつも、「お前は失敗したことないんか」と違和感を抱いていた。日本でもこのように、「失敗を正直に発表するセッション」が必要だろう。もちろん日本IVR学会でも数年前からM&Mセッションは始まり、今年も最終日に予定されているが、少しまだ敷居が高い。日米ともに、もっとコンパクトに失敗例ばかりをまとめたセッションがあっても良さそうな気がする。
 腫瘍の関連では、塞栓後の腫瘍破裂やRadioembolizationによる肝障害などが呈示されていたが、そもそも治療適応に少し疑問を感じる症例がいくつかあった。日米ともにIVRは良い意味でも悪い意味でもLast Resortである。塞栓術では、右胃動脈へのnon-target embolizationや薬剤溶出性ビーズによるBiloma、鎌状靭帯動脈へのY-90流入による皮膚障害(昨年のJVIRにアイスパックで防ぐという報告が出ていたのが紹介された)、リピオドールによる肺動脈塞栓(考察で20mL以下を推奨)、UAEによる陰唇潰瘍(エストラジオール軟膏で軽快)などが呈示された。
 動脈系では、ステントグラフト内挿術での大動脈破裂の症例が、素直に「この部分は私のミスだった」と認めて発表されて好感を持った。また鎖骨下動脈PTA後に生じた右中大脳動脈領域の広範な脳梗塞も呈示された。日本では鎖骨下からのリザーバー動注で時に生じる痛い合併症だが、検査室の予定など諸般の理由で生じてからの対処が遅かった。これも日米共通の課題だろう。また浅大腿動脈に長いステントを挿入した際に、デバイスの不具合でステントが展開できなかった症例が提示されていたが、セッション後に会場を出たら目の前にそのデバイスの大きな宣伝広告が出てきて思わず吹いてしまった。FDAでも開示されている不具合だそうである。

Dotter LectureおよびIVRの将来?
 今年のDotter Lectureでは、James Benenati先生が講演された。第二次世界大戦時の日米フィリピン沖海戦(サマール沖やレイテ島など)における米国海軍の戦略を解説しながら、「非伝統的な戦略で、この逆境を切り抜けよう」という内容だったと思うが、そのための具体的な戦略の提示はほとんどなく、正直言って日米海戦といったいどういう関係があるのかよくわからなかった。「IVRは念願かなって全米医学会からSubspecialityの臨床医として認知されたが、最近は収入が減り、ポストが少なくなり、規制が強化され、治験が海外に逃げているという現状を正直に述べ、トレーニングの重要性や外科医とのコラボの大切さなどを強調し、細分化を防ぎながらもっともっとデータを出してPublishし、新たな臨床モデルを構築しよう」といったことを話されたが、そういうのは普通に伝統的な従来型の戦略だろう。「IVRは医療の効率化や転帰の改善に貢献する」と今さら主張されても、それだけでは何か空念仏に聞こえる。画像診断やIVRの症例数自体は伸びていること、特に塞栓術が成長分野であることは確かなようだが(スライドのデータでは下肢静脈瘤が伸び率トップだったと思う)、IVR医の独立開業は困難になっている。そして今では何と、米国のIVR医の多くが、後期研修を血管外科医や循環器内科医から受けているとのことであった。状況は極めて厳しい。
 引き続いては、NIHなどの研究予算の削減にどう対処するかとか、今後の展望(あるデータによると米国放射線医の収入は42%も減少したらしい)とかの話もあったが、もともと研究費に乏しく収入が高くない日本の放射線科医には、ナンノコッチャだったような気がする。FDAと企業(COOK社副社長)もそれぞれ講演したのだが、ともに掲げている理念や目標と現実が乖離していて、司会者ともまったく噛み合っていなかった。FDAは、「こんなにお金はかかるけど努力している。審査に要する時間はどんどん短くなる予定だ」「事前相談を活用してほしい」と、日本のPMDAとほとんど変わらない発言ばかりだった。また企業トップは終始一貫して物凄く怖い顔で講演していたのが印象的だった。「こんなに今、企業の収支は圧迫され、当局の規制は厳しくなっている」と強調するばかりで、「我々だって米国内で治験したい」などと恨み言を述べて終わった感じである。「治験の60%は間接経費、医師は移り気?」といった愚痴もあったようだが、細かいことはよくわからなかった。

Women’s Health
 子宮筋腫に対する動脈塞栓術、腺筋症への適応、周産期出血、骨盤うっ血症候群の治療、卵管再開通術などが取り上げられたが、どれもみな教科書的な内容で、10年前と内容はほとんど変わっていない。これらの手技が開発された当時の熱気を知っている私たちの世代は、一時期楽しい夢を見られて幸せだったのだろう。いわゆる骨盤うっ血症候群では、慢性骨盤痛を訴える女性が全女性の30%以上もいることや骨盤静脈瘤は15%の女性が有していること、手術の30%は無効に終わることなどが話された。そんなによくある病態なら、ますます侵襲的治療の対象にはなりがたいと思うし、シャム手術とのランダム化比較試験を行って勝てる見込みはほとんどゼロであろう。絶対に施行されることはないだろうけど。

門脈圧亢進症
 SIRのPlenaryプログラムでタイトルにPortal Hypertension/BRTOと、BRTOの名前が入ったセッションは初めてではないだろうか。そのセッションはOncologyの学術講演と重なってしまって一部しか聞けなかったが、UCLAからのDistinguished Abstractでは、BRTO変法と称してゼラチンスポンジに加えて手前をコイルやAVPで塞栓していた。28人の患者に施行し(うち胃静脈瘤は21人)、技術的にも臨床的にも全員で成功したとのことである。またDr.Haskalは難治性腹水に対して早期にカバードステントでTIPSを施行することの有用性を強調していたが、保存的治療(増えてきたら穿刺廃液)とのランダム化比較試験は企画されたものの、症例登録が進まずに終了を余儀なくされたそうである。
 火曜日にはBRTOだけにしぼったワークショップにも参加したが、少し狭い会場ながら満員に近い人気だった。日本からも小泉先生と渡邊先生が講演され、本手技が米国でも急速に普及しつつあるのを実感した。Dr.Saadなどの啓蒙活動に加え、米国でも内視鏡医の技術が向上して積極的な治療が増え、ようやく胃静脈瘤が問題視される頻度が増えているのだろう。薬剤もEOIやハプトグロビンが使えないだけで、ストラデコールやポリドカノールは使える(下肢静脈瘤用ではあるが、ポリドカノールのFoam製剤が市販されていた)。デバイスの問題や入院加療ができないせいもあろうが、マイクロカテーテルやAmplatz Vascular Plugを併用した変法も、日本よりむしろ自由な発想で行われている印象がある。数年後にはもう彼らは、日本で蓄積された知見を必要としなくなるかもしれない。

肝細胞癌
 スロンケタリングがんセンターから、薬剤なしのBeadBlockとDEBDOX(LCB)を比較した第Ⅱ相ランダム化比較試験の報告がなされた。使用した塞栓剤の大きさはいずれも100~300μmで、Child分類はAあるいはB。後者で使われたアドリアマイシンの量は150mg(4~6mL)だから、十分すぎる量である。102人と92人に割り付けられたが、RECIST・mRECIST・LPFS・OS・合併症のいずれをとっても、両群間でほとんど差がなかったという結果であった。以前にギリシャから同様の研究で有意差があったと報告があったが、それを覆すデータである。なぜかDistinguished Abstractに選ばれてはいなかったが、重要な内容であった。またスタンフォード大学からはRetrospectiveな研究で、「できるだけ選択的に行われた」TACE症例を、時期別に比較検討していた。第一期はいわゆる従来型TACEで対象は159人、第二期はDEBDOXで47人、第三期はQuadrasphereで26人が対象だったが、奏効率も局所制御率も合併症も、いずれも3群間で差がないという結果であった。それぞれの必要経費は288ドル、1531ドル、1443ドルだったそうである。彼らは「大切なのは、どの塞栓剤を使うかではなく、どのように塞栓するかである」と結論づけていた。まったくその通りである。
 ビリルビン値が3以上の症例に対するDEBDOXを用いた選択的TACEについて、Retrospectiveに検討した演題もあった。956人のうち38人が該当し、30日死亡が1人、90日死亡が2人だったという結果である。平均腫瘍径が5.4(1.8~12)cmだったということで、まあそんなものかもしれないが、画像がほとんどなくて実態は不明だった。

Next Big Thing in IR
 「次に来る大きな話題」といったタイトルのセッションだったが、正直言って目新しいものはほとんどなかった。最初は前立腺肥大症に対する動脈塞栓術で、相変わらずブラジルとポルトガルがほとんどの症例を占めている。ようやく欧米で経尿道手術とのランダム化比較試験が始まるようだが、「そんなのやって大丈夫かしら」と心配してしまう。将来的な方向として前立腺癌の治療やダ・ヴィンチ手術の術前処置への応用が挙げられていたが、現実的には疑問だろう。
 Roboticsの話は少し面白かった。CTガイド下手技のロボットは今までにもたくさん見てきたが、いよいよダ・ヴィンチのように別室でカテーテルを操作する時代が来るのかもしれない。これについては夕方の企業主催のシンポジウムにも出席して詳細を聞いたが、「術者の被曝を減らし、成功率を上げ、所要時間を短くする」という理想を達成できるまでには、まだかなりの時間を要しそうに思う。当面は被曝軽減に重きが置かれるかもしれない。
 アブレーションの話は術前プラニングの話が中心で、あとはRFAワクチンとかHeat Deployed Nanoparticleとか、かなり前から話題に出ているけど実現していない話ばかりだった。
 高度肥満の患者を対象とした減量目的の左胃動脈塞栓術は、前日のScientific Sessionでも講演があったが、2年前にサンフランシスコで聞いた動物実験の内容とほとんど同じだった。ただ最近、循環器の学会で5人を対象にBeadBlockで塞栓し、1か月後に平均体重が128キロから114キロに減ったという報告があったそうである。もっとも平均BMIはまだ37.9もある。近々FDAに承認された臨床試験が始まるというアナウンスがあったのは良かった。逆流防止能を有するSurefireカテーテルを用いてコーンビームCTガイド下で行われるとのことであった(BEAT Obesity Trial)。肥満人口は米国では1億人以上(35.7%)ということなので、肝細胞癌の33000人や末梢動脈疾患の860万人と比べてもダントツに多い。ただ、そこまでしないと減量できない国民性が問題なのかもしれない。
 大動脈ステントはDr.Dakeの講演で、未来のことというよりは、身近で具体的な内容で、かえって一番充実していた。A型解離を含めた上行大動脈を、ついに今は治療し始めているという話で、心拍や呼吸運動に追随するステントグラフトや窓付き・枝付きステントグラフト、また昨年のCIRSE2013でも報告した瘤自体も充填するバッグ付きデバイスなどが紹介され、他のいつ実現するのかわからない夢の話よりずっと楽しかった。将来展望としては、大動脈壁への薬剤投与その他の根治的な治療付加の可能性が示唆されていた。
 分子レベルでの抗腫瘍治療というタイトルでDr.Geschwindの講演もあったが、その内容は3年前とほとんど変わっていないと思う。違うのは分子標的薬の種類が増えているだけである。Oncolytic Virusや併用療法についても、新たな具体的データは皆無だった。
 イメージングでは三次元表示への取り組みが紹介され、術前のCTやMRI画像をFusionで表示してカテーテル操作を容易化する方法が呈示されていたが、これはもうほとんど市販商品化されたレベルのものがあるので、斬新な印象はない。
 生体吸収性ステントに関してはDr.Lammerが過去の歴史から紹介されたが、Igaki-Tamaiステントの最初の報告が2000年であったことをあらためて思い出し、この20年でほんの少ししか進歩していないことに愕然とした。さすがにここ数年で次々と新しいデバイスが臨床治験に入っているが、まだ結果は不明である(ReZolve, DE Solve, STANZA、Esprit BVS)。どのステントグラフトも2年くらいで消失するそうで、最近の製品は殆どが薬剤を溶出する。
ビッグデータをどうハンドリングするかという演題もあったが、新味はない。またRenal Denervationでは「Beyond Hypertension」として肺動脈高血圧の治療や睡眠時無呼吸症候群、Polycystic Ovary Syndrome、2型糖尿病などへの適応が話されたが、古い文献データばかりだし、そもそもHypertensionの治療自体の有効性に疑問が呈されているのにどうするのかという印象であった。

前立腺動脈塞栓術
 前立腺肥大症に対する動脈塞栓術は、最近新しい治療法が少なく、暗いニュースが多い中で、数少ない期待がかけられている話題である。前述のNex Big Thingにも組み入れられていたし、塞栓剤関連企業のサテライトシンポジウムに参加して、ブラジルの先生から詳しい話が聞けた。患者の平均年齢が高いこと以外は、当たり前だが子宮筋腫と似ていることが多いが、相違もたくさんある。確実に虚血を生じさせるために、血流が停滞してからさらに同じくらいの塞栓剤を圧入しているとのことであった。小さくするだけでなく、柔らかくすることも狙っているそうだ。24時間後のPSA上昇が、虚血の良い指標となるようである。経過観察期間はまだ最長でも6年だが、やはり15%くらいがすでに再発している。一番興味があったのは「どのような患者が対象か」だったので質問したら、逆行性射精を理由にしている患者は少なく、併存疾患のために手術できない患者が主体で、あとは「手術は絶対にイヤ」「尿失禁を生じるのが怖い」といったことが理由であった。これらの患者は、泌尿器科医が上手であればTUR-Pを受けるのではないだろうか。ただ人口が多くて手術の順番が回ってこないとか、輸血用血液が不足して手術を受けられないといった、サンパウロならではの特殊な理由も混在しているようであった。治療後には便秘が大敵となることなどはTUR-Pと同じである。TUR-Pは子宮筋腫のように開腹や腹腔鏡を必要としないし、麻酔の侵襲も少ない。熟練した医師が多い日本では、なかなか普及は難しいように私は思う。

Film Panel
 今年のFilm Panelは、今までとは全く異なるものであった。もともとRSNAのFilm Reading Sessionに倣って始まり、クイズ形式でチーム対決や全員参加勝ち残りなど色々と趣向をこらしてきたのだが、今回は「正解のない実臨床での悩み」を対象に、4人が雑談を繰り広げるというものであった。「縦隔腫瘍を生検したら大動脈を損傷し、患者は死亡した。裁判ではどちら側につく?」とか「下大静脈フィルターが肺動脈に逸脱した。どうする?」といった症例もあれば、「VIPが来ました。誰が手技を行いますか?」といったのものもあった。英語力の問題でよくわからない発言が多かったし、日本とは背景がかなり異なるので参考にならない話が多かった。こういう「教科書にできない裏話」の公開にはそれなりの意味があるのだろうが、Film Panelの名前にはふさわしくないと思う。

Renal Denervation
 本年の1月9日、シャム手技とのランダム化比較試験であるHTN-3がエンドポイントをクリアできずに中断されたことを受け、会場はお通夜のような雰囲気で、そもそも出席者はとても少なかった。1年前の熱狂がウソのようである。詳細は3月29日の循環器学会で発表があるようで、それまでは失意のまま呆然と時を過ごしているといったところだろうか?他社も当然、試験を中断しているし、Covidien社のように撤退を決めた企業もある。本デバイスを最初に開発したArdian社はHTN-2試験の成績が発表された1週間後にMedtronic社に約800億円で買収されたそうだから、関連する企業にとっては大打撃だろう。帰国後にそのACCにおける発表内容を知ったが、結果は予想以上に深刻である。
 興味深いのはやはり、パイロット試験や他社の臨床試験を含めて、いずれにおいても薬剤治療に比べて全て有意に下がっていた血圧が、なぜシャム手術とのランダム化比較試験ではまったく勝てなかったのかということである。経皮的椎体形成術ではその理由を主に適応のせいにしていたが、やはりIVR医を含めてすべての医師たちは、プラセボ効果をなめてきたのではないだろうか?医者ができることにはおのずと限界があり、痛みはもちろんのこと、自律神経が関連するほとんどの疾患は、患者自身の身体が治してくれるのかもしれない。そのきっかけを作るぐらいが、私たち医師ができるせいぜいのことなのだろう。今回の悲しい結果を受けて、疑問はますます深まるばかりだが、これらに陰謀が隠されていないことを祈るばかりである。

Controversy Session
 今年のDebateセッションは、IVRを取り巻く環境がテーマだった。昨年は腎動脈狭窄とCCSVIが取り上げられたそうだが、前者はランダム化比較試験(CORAL)で勝てず、後者は露と消えたのだから、IVR自体の有効性については討論を避けたのかもしれない。
 最初のテーマは医療保険改革(いわゆるオバマケア)に対する賛否を問うものであった。オバマケアによって、彼らのほとんどは仕事が増え、平均して25%くらい収入が減ったらしい。したがって参加者の54%がこれに反対であったが、逆に54%しか反対していないのが私には印象的であった。普通は忙しくなって収入が減れば、ほとんどの者は反対するだろう。オバマケアの導入で、全米医師会の開業医比率は低下し(おおよそ半分)、プライマリケア医が重用され、病院は大手病院グループに飲み込まれているというが、まさに日本と似たような状況だと思われる。
 良かったと感じたのは、結果として必ずしも全面対決のディベートとはならず、それぞれの問題点や意義が強調されたことである。オバマケア反対論者の1人の主張は以下のようである;「IVRのグループは、医師全体の中ではすごく小さい非力なものである。またIVRの手技は多岐にわたる。にもかかわらず、IVRの世界では、その効率性や費用対効果に関するデータは皆無に等しい。外科学会はすべてのデータをレジストリで登録している。SIRのファンド(SIRPAC)は全額がこのために使われるから、どうか寄付をしてほしい。現状ではSIR会員のわずか12%しか寄付をしていない」。以上のような内容は、色々な示唆に富んでいるのではないだろうか?ちなみに大会2日目の夜に行われたGalaディナーでは、一晩で4000万円近い寄付が集められたそうである(あまりに高額で、私は参加したことがない)。
 ではオバマケア擁護派はなぜ容認するのだろうか?「腸骨動脈PTA、ステントグラフト、腎動脈狭窄、透析シャントPTA、、、。みんな取られちゃった」という歴史の回顧で始まったプレゼンは興味深かった。航空業界におけるローコストキャリア(LCC)と比較し、「米国内の平均航空運賃は低くなったが、収益は上がった」ことを指摘し、付加価値の必要性について述べたのである。つまり、従来型の出来高払い制が限界にあることを指摘し、「安全性・効率性・費用対効果・転帰を改善させるIVRに未来がある」と主張したのである。なるほど逆張りの発想で、とても愉快だった。オバマケアの導入で、仕事が増えて収入が減ることは確実だが、これを前向きにとらえてIVRが見直されるきっかけにしようとしているのだと思う。
 もう一つのテーマは教育であった。半分くらいの人は「今の研修医たちは教育面で昔に比べて恵まれていない」と感じている。上級医の管理下でないと何もできないし、大腿動脈穿刺も全例が超音波ガイド下で前壁穿刺になっている。それってどうなの?という内容だが、ここでDr. Ernest Ringが登場されたのにはとても驚いた。実は最初からずっと壇上で座っておられたのだが、「あの見たことのあるオジイサン誰だっけ?」と、彼が紹介されるまでわからなかった自分が恥ずかしい。今やレジェンドと思われる超大物(1997年にDotter Lectureをされている)の1人で、UCSFを退かれた後、今はプエルトリコで若い放射線科医の育成に余生を捧げられているようで、感動して胸がつまりそうであった。彼は自分がレジデントの頃に犯したミス(上部消化管出血で、下横隔膜動脈を左胃動脈と間違って塞栓した)を古き良き時代として語り、今の教育制度を批判する立場での発言を要請されたためにCMS(公的保険)を大嫌いと正直に述べながらも、最後は「私の思いは半々である。今の教育制度を作られた人たちに敬意を評したい」と、Debateの趣旨を逸脱して述べられたのである。正直言って、私たち中高年のIVR医のほとんどは、「昔は良かった」体験を共有しているだろう。ただ時代が変わったのも確かである。医療の安全性は何よりも優先するし、医療訴訟も激増している。時代に合わせなければ許されないのも確かである。
 教育問題の後半は、「IVR医のトレーニングの中でInterventional Oncologyは別枠にすべきである」というものだった。このテーマ自体はもちろん無理筋だが、興味のあるデータがたくさんあった。主張の根本は、「Interventional Oncologyを習得するには最低1年以上かかる」というもので、間違ってはいないだろう。米国の後期研修医は一般に年間1200~1500例を経験するそうで(IVR医として認定されるためには年間最低500例が必要)、施設全体で100例あれば研修指定病院になれる日本とは大違いである。また最近15年あまりの間にInterventional Oncologyの比率が急増しており、JVIRにおいても今や32%がInterventional Oncology関連の論文だそうである。昔の日本において学会発表が肝細胞癌のTACEだらけだったのと比べると、まだまだ少ないかもしれない。
 印象的だったのは最後の投票である。「IVR医になるには卒後6年間のうちどのくらいの期間が必要か?」という問いに、60%の聴衆は2年間と答えた。そしてIVRが放射線治療のようにRadiologyから独立分離することに対し、65%がNoと答えたのである。後述のように会員総会で報告された方針を、多くのIVR医は許容していないことがよくわかる(参加者は非会員が多いこともあるが)。IVRの分離独立は、彼らの長年の夢であった。それがようやく叶おうとしているのだが、その間に放射線科IVRのシェアが低下し、画像診断バブルもはじけた。その時代でもなお、分離独立を貫けるのかどうか、展望は開けていないように感じられる。

下大静脈フィルター・静脈血栓症
 米国における下大静脈フィルター留置数は、欧州の25倍にも上るそうである。聞くたびに増加しており、明らかに出来高払い制の弊害だろう。解析をすると、保険償還のある患者では、有意に留置率が高いらしい。日本において「交通事故で保険金が支払われる例では、医療費が高い」のと似ている。にも関わらず、本治療法の有効性について、実は質の高いエビデンスは皆無である。ようやくPRESERVE試験が始まり、企業もこれに資金提供することに同意した(今までは、ネガティブデータが出ると困るので渋っていたのだろう)。これはランダム化比較試験ではないので、企業もまだ協力できたのかもしれない。なお学術講演では、「回収可能型フィルターの合併症は永久留置型に較べて有意に高い」ことが報告されていた。当たり前のことだと思うが、それでも回収率は依然として必ずしも高くない。
 なお下肢静脈血栓症については言及がなかった。ATTRACT試験の結果を固唾を呑んで見守っているというところだろう。門脈・腸間膜血栓症の講演は、呈示されたいずれの例もTIPS経路で治療されていた。TIPSが身近に施行できるところが少し羨ましい。
 透析シャント関連ではDr. Haskalが最優秀抄録賞を受けていたが、これは以前に6ヶ月成績がNEJMに報告された「透析シャントに対するステントグラフトとPTAのランダム化比較試験:RENOVA」の24ヶ月成績である。24ヶ月後もステントグラフトはPTAより有意に高い開存率を示したが、それでも10%であった(PTAは6%)。治療した部位の開存率が27%であることも含め、疾患自体の治療の難しさを痛感する。なお米国での透析患者数は約85000人で、うち動静脈瘻は61%にとどまるということである。

総会
 いつものように会員総会に出席した。Interventional Radiologistは、念願かなって2012年に、全米医学会から「独立した臨床医」として承認された。実は2008年には拒否された過去があるので(患者を診るなということ)、その後も地道な活動を続けたのだろう。ただあくまでも、「周術期ケアはIVR臨床の一部である」といった形のようなので、いくらIVRを行った患者だといっても、高血圧や腎不全の患者を継続的に診られるわけではない(保険償還されない)。ただ独立への方向性は明確で、2017年にはIVRに特化したレジデント研修が始まり、2022年には米国放射線学会が画像診断とは別個の認定証を発行するようになるらしい(今までは放射線専門医の上の2階部分)。放射線科のIVRが全体に落ち目になっている中で、背水の陣とも言える決断だと思う。私はSCVRがInterventional Radiologyを加えてSCVIRになった頃からずっと参加してきているし、そのSCVIRがCVをはずしてSIRとなった歴史的な瞬間にも立ち会っていたので、深い感慨がある。「患者を診るかどうか」というテーマは日本ではずっと神学論争のようになっているが、SIRはもうルビコン川を渡ったのである。「道無き道を切り開いていく以外に放射線科IVRの未来はない」と会員を鼓舞していた。ただ当日の午後にIVR独立開業関連のセッションが幾つかあったが、どの会場もけっこう閑古鳥が鳴いていて、将来は明るくない。Dotter Lectureでも「最近数年はトレーニングを終えて開業する者が絶えている」ように言っていた。また企業のシンポジウムで隣にいたインド人の医師は、「13年間勤めてセクションチーフなのに、グリーンカードも持っているのに、オバマのおかげで解雇された」と話していた。今後もイバラの道は続くのだろうが、やはり生き残るにはInnovationに突き進むよりなかろう。
 今回は同時に年会費の値上げも決定された。米国の正会員の年会費は750ドルが840ドルに、私たちCorresponding Memberは320ドルが375ドルになる。日本の学会に比べるとすごく高いが、医師会並みの活動をしているのだから仕方なかろう。Member-in-trainingは50ドルに据え置かれているし、学生は当然無料のままである。出席していた1人の女学生が発言を求め、「皆さんがすごい値上げになるのに、私たちを無料のままにしてくれてありがとう」と謝辞を述べて拍手喝采であった。こういうのも日本ではなかなか考えづらいシーンである。

その他
 Dr. Ziv HaskalがLeaders Innnovation Awardを、Dr. Michael DakeがGold Medalを受賞された。このお2人は、もう心の底から尊敬しているので、とても嬉しかった。両者とも受賞スピーチで妻への謝辞を述べていたが、特にDr. HaskalはMy beautiful wifeと発言していた。日本ではありえないこういう米国の文化は大好きである。日本は妬みの文化が強く、成功者を称えることより足を引っ張ることのほうが目立つ。彼らがどれだけ超人的に働いてきたか、今も働き続けているか、私たち凡人の想像を絶するものがある。またDr. Haskalは以下のようにも語った;私は今でも、IRに進もうと決めた日のことをよく覚えている。レジデントとして救急で喀血患者を治療したところ、気管支動脈にコイルが入った途端に患者がマスクをはずし、「先生ありがとう、血は止まった」と答えた。私をはじめ、多くのIVR医はそういった「患者さんに心から感謝される」という劇的な経験を何回もしていると思うし、それがIVRを愛する理由である。
 Extreme IRは、CIRSEのAmazing IRのパクリで、凄い症例報告のオンパレードであった。確かに興味深い症例ばかりだし、この時代に症例報告は貴重なのだが、何か内向き志向の自慢大会に思えた。
なお最終決戦と位置づけていたCORAL試験に関して、少なくともPlenary sessionで言及は全くなかった。過去に勝てなかった試験の主任研究者たちをボロクソに批判していた人たちは責任をとるべきだと思うが、そういう配慮はまるでないようである。多発性硬化症に対するCCSVIの治療も完全に消失してしまっている。彼らの逃げ足の早さにはある意味感服する。

 SIRは創立40周年を迎えて、また大きな曲がり角にさしかかっている。独立した診療医として進むことを決めた彼らがどのように今後10年を乗り切っていくのか、それはひとえに今の30代40代のIVR医たちにかかっているのだろう。現状での収入はまだ日本と大きな格差があるが、抱えている問題や課題は驚くほど似ている。これからSIRやJSIRがどのように変貌していくのか、陰ながら応援しつつ見守りたいと思う。
 以上、学術的な面では不満の多かったSIRだが、IVRの将来を考える上では興味ある変化が多かったSIRでもあった。私はそろそろ時差ボケに耐えるのが辛くなったので、今回でSIRの参加は終わりにしようと思っている。いつの日か遠くない将来、またすごく新しいIVR手技がいっぱい現れ、やはり参加したいと思うようになることを密かに願いながら、大好きなサンディエゴに別れを告げた。サヨウナラSIR、またいつか会う日まで。