解剖学者と放射線科医、日本解剖学会総会に参加して

2014.04.09

解剖学者と放射線科医、日本解剖学会総会に参加して

煎本正博
イリモトメディカル

2014年3月27日栃木県自治医大において第116回日本解剖学会総会が開催され、“人体解剖学および画像解剖学の包括的医学教育:CT・MRIデジタル画像データを利用した解剖学教育システムの構築”と題したシンポジウムがもたれた。
本シンポジウムは放射線科専門医である国際医療福祉大学三田病院の奥田逸子先生がオーガナイザー・司会を努められ、放射線科医・解剖学者・医学教育学者による講演・討論が行われた。
(本学会は明治26年に第1回が開催され、本邦においても最も歴史と権威のある学会であり、ここで放射線科医がシンポジウムオーガナイザーを努めるのは画期的なことであり、放射線科医でありながら放射線科の枠を越えて活躍される奥田先生ならではの快挙である。)

シンポジウムはそれぞれの専門家から解剖学の学生教育にはたす画像診断の役割について講演され、最新の3D画像による教育の有用性も提示され、興味深いものとなった。
講演後の討論では最初は、新しい画像診断法を学生教育に用いる具体的な方法などを論じていた。しかし、質疑応答の時間にフロアの解剖学のA先生から“これだけ画像診断が進歩したら、肉眼解剖はもう必要ないのではないか?”という発言が飛び出してから、場の雰囲気が一変した。
実は現役放射線科医の多くは“肉眼解剖をもう一度勉強したい”と考えている。骨や造影された消化管や血管を見ていた以前とことなり、現在の放射線科医はCTやMRIの3D画像を日常的に扱い、より肉眼解剖に近いものを見るようになってきた。しかし、それは近づけば近づくほど、実際のものとは異なることが疑問になり、肉眼解剖と対比する欲求が強くなっている。
フロアの放射線科医からも、“透過光の画像と反射光の解剖は異なる”とか“大学の放射線科医は肉眼解剖と対比できる機会があってめぐまれているが、多くの放射線科医はその機会がなく、渇望している”との発言がなされた。これに対し解剖学者側からは”外科などからは解剖を勉強したいという希望はよく聴くが、放射線科医は解剖は我々以上に理解していると思っていた、こんなに希望が多いとは思わなかった。”という発言があった。
さらには、医学生に対する肉眼解剖実習は“生の尊厳”などの”精神教育”にすぎなく、実際に”解剖教育が必要なのは卒後教育ではないか”というような、突飛ではあるが、実践的な意見も飛び出し、予想外にホットな討論になり、予定を大幅に延長することになった。
さらに当夜は、宇都宮市内に場所を移し当シンポジウムの懇親会が行われ、学際的に放射線科医、解剖学者が集まり、忌憚のない意見を交換する本邦初の懇親会で盛り上がった。
宇都宮の夜は長く、宇都宮餃子店さらにはおしゃれなワインバーと場を移しながらお互いの理解と友情を深めあった。
CTやMRI、PETなどの高度な画像診断は名実ともに本邦の医療の質を支えている。画像診断は基礎の解剖や生理、生化学の知識なしにはありえない。しかし、多忙な日常の教育・研修ではともすれば忘れがちで、薄っぺらな知識でのレポートや研究報告をしがちである。
今回の解剖学会に参加して、画像診断の健全な発展のためには、解剖学者を始め基礎研究者と日常的に交流し、意見を交換し、教えを請うことが大切なこととあらためて認識した。

CandRofA Press より転載


 

奥田逸子氏
会場風景