CIRSE 2014~新しい知見には乏しかったが、日本人のプレゼンスは向上していた~

2014.10.01
City Center前の独立賛成派集会
会場正面
Registration
電子ポスター閲覧コーナー
日本人だらけのポスター受賞者
日刊新聞の配布
CIRSE 2014
~新しい知見には乏しかったが、日本人のプレゼンスは向上していた~

IVRコンサルタンツ
林 信成

 2014年9月13日から17日まで、英国グラスゴーにて開催されたCIRSE 2014に参加した。スコットランドは既に秋で、朝夕は10度を切る寒さであった。初日こそ温かくて気持ちよかったが、3日目には小雨も降り、念の為に持参したダウンジャケットが役だったほどである。ニュースではもちろんスコットランドの独立を問う住民投票に関するニュースが繰り返し流され、土日には中心街から離れた場所にある学会場周辺でも、「賛成」を呼びかける小規模なデモ行進を見かけた。
 学会場は、「メインの2会場が機器展示会場を挟んでいる」という理想的な配置だったが、それぞれの会場は6,000人以上が参加するCIRSEにとっては少し小さく、特にメインの会場は時に立ち見が出る状態となっていた。またフリーペーパーの会場はさらにいずれもとても小さく、「大切にされてない」感に溢れていた。
 今回最も嬉しかったのは、日本人のプレゼンスが目立っていたことだろう。ポスター発表ではMagna Cum Laudeの2つのうち1つ、Cum Laudeでは4つのうち3つが日本人による演題という快挙である。さらにはCertificate of Merrittの受賞者も数人いた。口演発表が虐げられ、夕方に多数平行して小さな部屋で行われていることを考えると、ポスター発表でもう少しコミュニケーションをとれるようにする形に進むのが正しい進化なのかもしれない。またSpecial Sessionでも複数の日本人講演があったし、毎日配られる学会新聞(IR Congress News)では、初日は奈良医大の田中利洋先生、2日目は大分大学の清末一路先生と、2日連続で日本人演者の講演予定要旨が全面に掲載されていた。この調子でますます多くの日本人IVR医が国際学会で活躍されることを願っている。
 いつものように、聴くことができて印象に残ったことを中心に報告する。これもいつもながら、聞き間違えや勘違いがあればご容赦下さい。ご批判は大歓迎です。
塞栓剤
 CIRSEでは初学者向けの教育的コースをFundamental Courseとして区別しており、最先端の知見についての講演はSpecial Sessionと名付けられている。ところが最近のSpecial Sessionは、初歩的・教育的なものが少なくない。塞栓剤のセッションもまさにその通りで、Special Sessionとされている割にレベルは驚くほど初心者向けで、一般のIVR医にすれば学ぶことはほとんど無かったろう。コイル、ゼラチンスポンジ、エタノール、硬化剤、液体塞栓剤などについて、それぞれ教科書的な紹介がされたのみである。興味深かったのは、硬化療法に使われる各種薬剤の項で、懐かしいピシバニールが「日本発」として紹介されていたことくらいである。ゼラチンスポンジの講演では、メスで作成した細片とポンピングで作成した細片の大きさの分布を比較した勝盛哲也先生の報告が紹介されていたのだが、演者がメスで作成してシリンジに充填していたゼラチンスポンジのあまりの大きさには思わず笑ってしまった。球状塞栓剤の成績が日本式のゼラチンスポンジによる従来型TACEに比べて少しも優れていないことが明らかになりつつある今、小さな細片を作成することが困難な欧米では、ジェルパートのような安価な球状ゼラチンスポンジが、今後は注目されるかもしれない。日本でさえも、ジェルパート以降の世代は、もうスポンゼルを細かく切る機会は激減しているのだから。
 Hepasphereに関する企業シンポジウムにも出席した。イリノテカンを含浸させた製剤について、最初にウサギでの動物実験の詳細を大阪大学の前田登先生が報告された後、欧州での臨床成績が報告された。29人の化学療法抵抗性大腸癌肝転移患者を対象に50~150μmの製剤で治療されていた。3ヶ月後では24%がCR、48%がPRであったが、6ヶ月にはこれらがいずれも0%になり、12ヶ月後にはほとんどの患者がPDであった。生存期間の中央値は8ヶ月だから、やはり厳しい。30~60μmの小さな製剤も使われていたが、効果は高いものの有害事象も多く、生存期間の中央値も5.8(3~8)ヶ月と期待はずれであった。予兆因子を後分析して「腫瘍占拠率が25%未満のものや血管の豊富な症例において予後が優れていた」というのは、当たり前すぎる結果だろう。肝細胞癌に対するアドリアマイシン溶出性Hepasphereの成績も報告があったが、50人の患者を対象としてCR率51.6%と、やはり高くはなかった。平均腫瘍径が42.5mmというから、かなり大きいものが含まれているからかもしれない。日本のIGTからの成績が、1年73.7%、2年59.0%と紹介されていた。技術や経験の差もあるだろうが、対象である腫瘍径の違いが一番大きいのかもしれない。

薬剤溶出性ビーズ
 BTG主催のシンポジウムに参加したが、やはり新しいデータはほとんどなかった。DEBDOXに関し、いまだにPRECISION Vの成績をレベル1エビデンスであるかのように紹介しており、どうかと思う。繰り返すが、この試験は一次エンドポイントでは有意差が無かったのである。困った企業がサブ解析をして「より進行度の高い群では有意に優れていた」というデータをひねり出しただけなので、そういう結果にはせめて有意水準を厳しくしないと、有意なデータとは言えない。移植前の肝細胞癌に施行して、「Bland Embolizationに比べて完全壊死例が多く、病理学的にも壊死率が高かった」という報告があったが、ランダム化されたものではない。結局、演者は最後に「DEB-TACEと従来型リピオドールTACEのランダム化比較試験が必要」と結んだ。まさにその通りで、それをいよいよJIVROSGが行うのである。
 イリノテカン溶出性ビーズについても、残念ながら新しいデータはほとんどなかった。色々とデータは繰り出されたが、ほとんどは既知のものである。標準的化学療法をやりつくした患者を対象にゼローダと併用して無進行生存期間が4ヶ月、生存期間が8ヶ月といった成績が報告されていたが、過去の報告と比べても悪かった。肝外病変を有する患者が半数以上含まれているなど、「進行度の高い患者が対象だから」と演者は言い訳をしていた。結局はあくまでもまだ最後の手段としての位置づけであり、せめてセカンドラインの選択肢になれるような工夫がまだ必要である。予後予兆因子で有意なものはなかったようだが、症例数が少ないので当然だろう。メラノーマの肝転移に用いた報告がフリーペーパーセッションであったが、効果は従来の報告と比較して優れず(生存期間の中央値9.4ヶ月)、重篤な合併症が多かった(1例はDICで死亡)。
 70~150μmと小さいサイズのM1というビーズを用いたDEB-TACEの報告があったが、CR率はたった23%と驚くべき低さであった。外側区域の小さな肝細胞癌を超選択的に塞栓してCRが得られた症例を自慢そうに見せていたが、それよりも「小さいけどCRが得られなかった」例を見せてほしかった。やはり、「DEB-TACEは小さい腫瘍が苦手」なのだろう。胆道系の合併症は幸いなかったようだが、別の発表では通常の大きさのDEBDOXを用いたコーンビームCT下TACEで、肝膿瘍が1例生じていた。

リピオドールTACE
 これは私にとって、今大会の中で最も愉快なセッションの1つであった。重なっていたRosch記念講演を断念してこちらを聴いて良かった。最初は肝細胞癌の病期分類の話で、GIDEONのデータからもBCLC分類には問題が多いこと、香港から提唱されている分類(HKLC)のほうが現実に則している(進行例でもかなりがTACEされている、門脈塞栓も程度によるなど)ことなどが話された。BCLC分類の問題点は先日の日本IVR学会の総会でも報告した通りであり、近い将来に改定されるだろう。
 引き続いて「私は従来型TACEをどのように行っているか」という演題があったが、演者の個人的な経験ではなく、日本の荒井保明先生を含む日米欧の専門家会議でのコンセンサスともいえる内容が述べられた。以前からずっと問題になってきたことだが、「従来型TACE」をきちんと標準化して定義することは極めて重要で、それなしではいかなる研究も比較が困難だし、良質な多施設共同試験などできない。画像診断から治療の実際に至るまで、かなり細かい点まで話し合われてコンセンサスが得られたのは、素晴らしいことだと思う。抗癌剤はWater-in-Oilの状態とするべきことやリピオドールだけでなくゼラチンスポンジによる塞栓が必須であること、ゼラチンスポンジは基本的にポンピングではなくハンドカットとすべきこと(ここでも勝盛先生の論文が何度も引用されていた)、可能な限り超選択的に、しかしフリーフローで(B-TACEはエキスパートの施設に限るべき)流すべきこと、TACEは1回で効かなくても少なくとも2回はやったほうが良いこと、再TACEは定期的に繰り返すのではなく、悪化や他部位再発が見られた時に行うべきこと、効果判定にはmRECISTが有用なことなどである。細かいことを言い出すときりがないが、「アジアの特殊な手技」と一部の米国IVR医らから誇大広告者のように揶揄されてきた時代を知っている者としては、実に感慨深い。
 最後は荒井先生が登壇され、リピオドールTACEの長い歴史を振り返り、膨大な文献がある一方でレベルの高い報告は少ないこと、そのためには手技の標準化だけでなく患者の層別化も必要なことなどを話された。前述のように、ゼラチンスポンジ細片の作成にあたっては、ポンピングではなくハンドカットということでコンセンサスが得られた一方、日本の伝統芸ともいえる細片作成はいまだに欧米人からは特殊技術のように見られており、その方法の紹介ではやはり会場からため息が漏れた。そしてすぐに「日本ではこれを使っている」とジェルパートの紹介があったので、興味をいだいた参加者が多かったようである。この製剤が早く世界中で使われるようになると良いと思う。

前立腺肥大症に対するTAE
 何度か書いているように、私個人は本治療法の将来にあまり期待していない。初日には経尿道的手術(TURP)とのControversyセッションがあった。私はMoss先生の講演を聞くために前半の反対者の講演は聞けなかったが、本法の支持者は、英国でUK-ROPEという18施設が参加したコホート研究が行われ、非劣性という結果が示されたように述べられた。会場の反応も、半数以上が「TURPに劣らない」と支持していたが、ランダム化されていないコホート研究で非劣性を真に証明することは困難だろう。「差がないということは、同等であることを意味しない」のである。TURPの欠点として、死亡率をはじめとする多くの有害事象データが示されていたが、おそらくかなり以前の悪い成績を引用しているのだと思う。300人に1人は死亡するとか、ちょっと考えづらいデータであった。Controversyセッションは面白いセッションではあるが、双方が一方的に講演するだけで、Debateのような討論が一切ない。少しは討論時間を設けないと、自分の主張にとって都合の良いデータだけがつまみ食い的に示されて聴衆が勘違いしそうで心配である。実際、後攻で講演した演者に有利な結果が出ることが圧倒的に多かった。

減量目的の塞栓術
 これもControversyセッションで取り上げられた。聴衆の約6割が支持していたが、臨床成績はまだ2013年のACCで報告されたわずか5症例のみである。FDAに承認されたBEAT Obesity試験が始まる予定ではあるが、最後には6割以上の聴衆が支持できない側に回った。まともな反応だろう。食欲ホルモンであるグレリン分泌を抑制するような薬剤が開発される方が早くなるような気がするし、食欲を抑制する薬剤はすでに市販されている。IVRが役立つとしたら、シャム効果が主体だろうと、私は思っている。

Radioembolization
 かなり普及は進んでいるようだが、レベルの高い新たなエビデンスは何もなかった。相変わらずセカンドライン以下の位置づけである。Controversyセッションでは、「RadioembolizationによるLobectomyを拡大右葉切除前の左葉代償性腫大に用いる」という命題で討論が行われた。私はRadioembolization自体には、あまりに高価であることと日本での承認が難し過ぎることで、さほど興味がないのだが、このような大胆な発想は、なかなか面白いと思う。米国の成績では、本法で術前塞栓術を行っても結局手術ができなかった症例がかなりの割合に上っており、そもそも本治療法の適応に問題があったのかもしれない。聴衆の反応は約7割が否定的で、私の想像よりさらに悲観的反応が多かった。

骨盤うっ血症候群
 骨盤うっ血症候群の講演を拝聴した。今までに色々なところでこれについて書いているが、この病気は「そもそも存在するのか」を含めて、とても難しい。原因不明の骨盤痛に悩む女性は多いが、それは実は女性に限ったことではなく、男性でも慢性前立腺炎や間質性膀胱炎の類縁疾患ともいえるProstatodyniaと呼ばれる病態があるし、最近はこれらに対するCTガイド下の陰部神経ブロックの試みも報告されている。骨盤うっ血症候群は、男性における精索静脈瘤と同じで、逆流による静脈瘤状態が女性に見られ、それが症状を伴った場合に診断される頻度が増えている。しかし、両者に本当に因果関係があるのかどうか、つまり静脈瘤が痛みの原因かどうかは解明されていない。確かに塞栓術を行うと多くの患者で症状が緩和することは確かであるが、その奏効率は施設によってかなりのばらつきがある。経皮的椎体形成術と同様に、プラセボ効果である可能性が除外できないのである。これについて、シャム手技をコントロール群としたランダム化比較試験まで行うかどうかは、症例数がさほど多くないことや適応および手技の標準化が難しいことを考えると疑問だが、「痛み」という主観的な主訴の軽減をエンドポイントとしているのだから、少なくとも痛みの程度は第三者が客観的に評価する必要があるだろうし、できれば多施設共同でプロスペクティブな試験を組んでほしいと思う。塞栓の位置や塞栓剤・硬化剤についてもフロアから質問や異論が出されたが、数十年の歴史を有している精索静脈瘤でさえいまだにそうだし、レベルの高いエビデンスは出ていないのだから、仕方がないのかもしれない。私個人の意見は従来と同様、「保険外診療で行われる限り、結果オーライ」である。海外では保険が通っている国もあるようだが、鎮痛剤の使用が減って患者が社会復帰することのコストベネフィットも勘案してのことだろう。

アブレーション
 これに関するContorversy sessionにも出席したが、これはDebate形式ではなく通常の講演であった。小型肝転移と手術に関する講演は他との重なりで聞けなかったが、抄録などを見る限り、エビデンス的には十分対抗できる状態になっている。問題は、いつレベルの高いランダム化比較試験が施行されるかどうかだけという段階にあるが、外科医・IVR医の技術レベルの標準化が一番問題な気がする。頸動脈ステンティング(CAS)の当初の試験はCASの惨敗だったが、これは熟練の血管外科医と初心者を多く含むCASの戦いであった。そこでレベルの高いIVR医を揃えて戦ったCREST試験でCASは手術に負けない結果を叩き出したのだが、血管外科医の一部は「あれは特別上手なIVR医たちだけのデータだ」と主張するに至っている。「技術レベルに差があると結果が大きく変わる」治療では、エビデンスを出すのが常に難しい。
 話を元に戻して、2題目は「Microwave ablation(MWA)はRFAに取って代わるか」という演題であった。ポテンシャルには確かにそうである。凝固範囲は大きいし、短時間で終わる。またレトロなデータながら、RFAと比較して成績が良かったとする論文も増えてきている。しかしながら、MWAもRFAも、ともに製品によってかなりの違いがあるし、前述のような術者のレベル差もあろう。両者をガチンコ対決させたランダム化比較試験はないし、どちらの方法でも上手な術者が行えばCR率は高いのだから、有意差を出すためには膨大な症例数が必要である。それで結果が出る頃には、おそらくいずれの装置も、試験当初に比べると改良されているであろう。つまり、ランダム化比較試験を施行することは、理論的には必要でも現実的に意味がなさそうなのである。そんなことより、もっと装置が普及し、より球形に近いアブレーション領域が得られるよう企業に努力してもらったほうが、現実的なベネフィットは大きいだろう。
 Irreversible Electroporation(IRE)は苦戦しているようだ。ほとんど新しい成績が出てこない。理論的には極めて魅力的なのだが、小規模な症例集積の報告が散発的に見られるのみである。対抗するような製品が出てこない限り、もう未来はないような気がする。
 集束超音波も、肝臓への適応が取り上げられていた。究極の非侵襲性を有する治療法ではあるが、成績はまだまだ論じるほどに至っていない。私個人は何度か書いているように、画像を用いるだけでガイドワイヤーもカテーテルも針さえも用いない本手技をIVRの範疇に入れることには抵抗がある。放射線腫瘍医に扱ってもらえばよいと思っている。

清末先生の講演
BRTO
 他のセッションと重なってほとんど聞けなかったが、欧州でもBRTOに対する興味はかなり高まっている。Fundamental Courseでは清末先生が講演され、日本IVR学会で行われたレジストリー試験の結果が報告された。集積されたのは314例で、約2割が破裂例である。78.4%で静脈瘤は消失し、再出血は2例(0.9%)しかなく、破裂例でも5年で3%にとどまっている。手技に関連した合併症はわずか11例(3.5%)で、死亡例は1ヶ月後に肝不全で死亡した1例(0.3%)のみとのことである。ただこれはRetrospectiveな症例集積研究なので、日本の現状を世界に示す意味はあるが、少し成績が良すぎて海外の人たちに信用されないかもしれない。再発頻度が少ないのは確かにその通りだと思うが、出血症例が2割もあるわりに合併症の頻度がかなり低く、不幸な転帰の症例が参加施設から漏れていたり登録されていなかったりしている可能性が残る。やはり何とかして多施設共同の前向き試験が必要だろう。そのためには手技の標準化が必要だが、硬化剤から閉塞時間まで施設間でかなり手技の実際が異なる現状では、なかなか試験の企画立案が難しそうである。その他、欧米や韓国などで行われているAVPなどを併用する変法や十二指腸などに生じた異所性静脈瘤などについても紹介され、質の高い教育講演であった。
腎動脈PTA
 Moss先生の話だけはどうしても聞きたくて、彼が担当したFundamental Courseの最初の講演だけを聞いた。本法の有効性を検証したランダム化比較試験の歴史をよく知っている人は少ないかもしれないが、彼はIVRのコミュニティーで悪評高かったASTRAL試験の主任研究者の1人である。この試験で「腎動脈PTAは薬物療法と比べ、メリットは何もなく、有害事象は有意に多い」という結果が出たために、彼は米国を中心に多くのIVR医や関連団体から総スカンをくらい、様々な商業誌で「欠点だらけの試験、こんな下手くそな術者が主導した試験の結果など信じられるか」とボロクソにこきおろされてきたのである。しかしながら、その批判の先頭に立っていた人たちが主任研究者に加わって主導した最終決戦とも言えるCORAL試験の成績もまた、ASTRAL試験と全く同じ結論に至ったのである。後に行われた2,139人の患者を含む7本の論文のメタアナリシスの結果でも、腎動脈PTAのメリットを示唆する結果は皆無であった。彼が2011年のCIRSEでGruenzig記念講演を行った時、多くの聴衆が抗議の意志を示すかのように退場していったのを思い出す(私の考えすぎかもしれないが)。彼はその講演の中で、自らが起こしてしまった有害事象の症例について詳細を報告するとともに、「CORAL試験もきっと同じ結果になる」と予言していたが、まさにその通りになったのである。動脈硬化性腎動脈狭窄をIVR治療するのは、Flash Pulmonary Edemaをはじめとする極めて限られた症例にのみ適応を限るべきであり、一時期一部の循環器科医が行っていたような、「狭かったから広げておきました」といった治療は、もはや犯罪的なのである。

Renal Denervation
 SIR2014で報告したように、本治療法の未来は風前の灯である。薬物療法と比べたランダム化比較試験では圧倒的な優位性を誇ってきた本治療法だが、シャム手技との比較では全く差がなかった。両者とも有意に血圧が下がったからであり、この治療法がプラセボ効果やホーソン効果であることが示唆されている。多くの試験がいまだに進行中だが、シャム手技とのランダム化比較試験が出たからには、これを覆すのはかなり難しそうである。心不全や不整脈、慢性腎疾患や睡眠時無呼吸などに関する臨床試験も進んではいないようだ。

浅大腿動脈
 Controversyセッションでは3つの命題が取り上げられた。1つ目は薬剤溶出性ステントの可否である。Zilver PTXの圧倒的な成績が示された今、これに反対する立場の演者はさぞ苦しかろうと思ったが、討論前は26%しかいなかった反対派を、討論後は59%と過半数にまで増やしたのは見事だった(この命題に限らず、前述のように、討論の行われないDebateでは後半の演者が得である)。勝利したポイントは、「大切なのは二次開存率、もっと大切なのは臨床的有効性」という主張で、1年後からは薬剤溶出性ステントとPOBAの開存率が平行になることを指摘していた。浅大腿動脈に関する臨床試験では、臨床的な有効性を一次エンドポイントとするのが困難である。以前に報告したように、IVRによる合併症や再狭窄の頻度が圧倒的に低い腸骨動脈でさえ、歩行可能距離はIVR治療群と運動療法群で有意差が無いのだから。その点を巧みについた戦略が奏功したのかもしれない。
 2つ目は浅大腿動脈における薬剤コーテッドバルーンの可否を問うものであった。この領域では10本のランダム化比較試験を含む24本(対象は合計約4,200人)の試験成績が報告されており、1年初期開存率は77.6%と高く、ほぼすべてのランダム化比較試験で有意な優位性が認められている。それでもなお、70%の聴衆がNOという反応であった。もちろんコストが高いこともあるのだろうが、すでに市販されてからしばらく時が経っていることを思うと、実感としてみんながさほど利点を感じていないのかもしれない。反対の立場の演者は、報告されているいずれの試験もあまりに小規模であること、脱落症例が多いこと、経過観察期間が短いこと、一次エンドポイントが臨床的有効性ではなくLate luminal lossであること、企業のサポートを受けていること、そして完全な二重盲検ではないことなどを問題点として挙げていた。症例数が多かった膝窩部以下では有意差を出せなかっただけに、聴衆が懐疑的になるのはよくわかる。
 3つ目は「生体吸収性ステントに未来はあるのか?」であった。これは難しい命題である。生体吸収性ステントはアイデアが出てからすでに四半世紀が過ぎている。誰もがその未来を信じて熱望してきたし、ようやく近年になって製品が出てきたのだが、残念ながらいまだに臨床的に成功を収めた製品はない。浅大腿動脈では、あまりにも捻れなどの外力の影響が大きいため、壊れやすい生体吸収性ステントは確かに不利かもしれない。私個人はそれでもやはり、「未来はある」と信じて企業がさらなる開発を続けてくれることを願っている。そのテクノロジーの進歩は、非血管領域でも役立つはずだから。

膝窩以下動脈
 膝窩以下動脈に関するControversy sessionでは3つの話題が取り上げられた。1つ目は遠位塞栓防止の必要性に関するもので、予想通り90%の聴衆が反対であった。理論的には魅力があるものの、頸動脈でさえもいまだに懐疑的な意見は少なくないし、逆の結果であったとの報告もある。腎動脈でも、CORAL試験のサブ分析において、遠位塞栓防止デバイスを使用した群と使用しなかった群で、全く差はみられていない。余計な合併症を増やしてコストを高めるだけだろう。
 2つ目は薬剤溶出性ステントに関するもので、これも討論前には8割近くが反対、討論後は実に86%が反対という結果であった。数多くの臨床試験が行われ、有意差が示されたこともあるが、そもそもBTKへのステント挿入に対して多くは懐疑的であろう。臨床試験はほぼすべてが、その製品を販売している企業のサポートで行われたものである。多くのIVR医が冷静な判断をしているのを嬉しく思う。
 3つ目はAngiosomeの概念に従うべきかどうかという命題で、最初は74%が賛成していたが、討論後は55%に減っていた。これも後攻の演者が有利であったためもあるが、やはりこれはケースバイケースだろう。この概念が強調されるようになったのは最近10年くらいのことだと思うが、基本的にそれに従うことに何の問題もないと、両者とも意見は一致している。ただ例外は必ずあるし、最近は「必ずしもそのようになってはいない」という報告も増えている。あくまでも「原則」ということで良いのではないか。

急性下肢虚血
 このセッションでは背景や治療法が概説された。定義としては2週間以内の重症下肢虚血を意味し、頻度は0.2%くらいだが、下肢切断率も死亡率も10~30%にのぼる。65歳を超えると心房細動の頻度が上がるので、高齢化にともなって今後はさらに増えるかもしれないが、現状では心房細動のケアが浸透してきたことで全体の頻度は少し減っており、血管内治療される頻度が増えてきている。再灌流症候群や出血性合併症についても紹介され、重篤な出血が生じる頻度は5~8%、脳出血は2~3%と報告されているが、いずれにせよレベルの高いエビデンスは少ない。線溶療法と外科手術を比較した試験は5本くらいあるものの、冠状動脈領域に比べると症例数が100分の1のオーダーで少ないことが強調された。また治療に関しては、単純な吸引でかなりの臨床的成功率が得られることが示されたが、これについてもランダム化比較試験はまだ存在しない。

透析
 このセッションも教育セッションのような内容であった。最初は未成熟シャントの治療に関するもので、IVRによる成功率が高いことが示され、「手術前にゴムボールを握るトレーニングをして動脈の発達を促すことが推奨される」と紹介されていた。
 AVグラフトの症例においては、複数のランダム化比較試験でステントグラフトがPTAより有意に優れていると証明されているのだが、そのわりに普及はさほどしていないと思う。米国以外ではAVグラフトの症例が比較的少ないことも大きな原因であろうが、コストや異物を残すことへの抵抗感がきっとまだ大きいのだろう。興味のある人はFLAIR、RENOVA、REVISE、RESCUEなどの試験の詳細を検索されれば良いと思うが、いずれの試験も、その製品を販売している企業のサポートで行われていることには、少し注意が必要である。
 薬剤コーテッドバルーンに関しても、すでに3本のランダム化比較試験が報告されており、いずれも「有意差をもって薬剤コーテッドバルーンが優れていた」という結果である。しかし末梢動脈と同様に、それをすんなりと臨床現場が受け入れている印象はない。これもまたすべてが企業サポートの研究であるためと、コストがかなり高いためだろう。さらに、いずれのランダム化比較試験も、症例数はかなり少ない。「小規模なランダム化比較試験」というのもまた、落とし穴の1つかもしれない。

ランダム化比較試験のフリーペーパーセッション
 フリーペーパーのセッションの1つは、すべてがランダム化比較試験に関する演題であった。楽しみにしていたのだが、内容は玉石混淆といっても石ころだらけのような印象だった。FREERIDE試験は浅大腿動脈を対象に薬剤コーテッドバルーンと従来型バルーンを比較した試験で、6ヶ月後では優れていたものの、有意差はなかった。BIOLUX P-IIは、浅大腿動脈で有意に優れていた同I試験の膝窩部以下版で、72人を対象にランダム割付されていた。ラザフォード分類が改善し、切断術の頻度が低かったものの、一次エンドポイントで有意差はなかったようである。リアルワールドを知るためのIIIも企画されているが、これはどんな症例でもOKのレジストリー試験である。
 骨盤うっ血症候群に対する静脈塞栓術で、ファイバー付きコイル(Nester)とAVP IIを比較した試験もあった。透視時間、所要時間、被曝量のいずれもAVPが優っていたが、コストは高く、1年後のVASの改善頻度に両群間で有意差は無かった。静脈系なので80%もオーバーサイズのAVPを使っているそうである。この疾患は前述したように、そもそも診断基準が曖昧だし、主観的愁訴が治療対象なので、評価が難しい。
 子宮筋腫に対するUAEで、PVAとEmbozeneを比較した試験もあった。Embozeneの方が少し優れていたのだが、今さらPVAと比較する意味がよくわからなかった。またEmbozeneで壊死を起こして子宮全摘になった症例が1例あったのに隠されていた(フロアからの質問で判明)。せこいにもほどがある。
 UAE前にルチーンでOxcodoneを付加投与することで痛みを軽減できるか検討した試験もあったが、コントロール群にプラセボは与えられていない。麻薬を追加して痛みが和らぐのは当たり前だろう。  
 DENER-HTNというフランス政府公認のRenal Denervationに関するランダム化比較試験の報告もあった。血圧の低下はわずか6mmHgで、演者は「統計学的に有意だし、5mmHg下がれば脳卒中は25%減る」と強弁していたが、そういうのは製薬会社が宣伝に使っているデータであろう。また患者が服用していた降圧剤の数は全く減っていなかった。やはりこの治療法はもうダメなのかもしれない。
HickmanカテーテルとPort-a-cathのランダム化比較試験もあった。Hickmanの方が有害事象が多く、コストがずっと高いのだが、内容の違う両者を比較する意味がよくわからなかった。医療費の削減に取り組む必要性から無理に企画するよう圧力がかかっていたような印象だが、そのあたりは早口でよくわからなかった。
 以上、このセッションを全体として振り返ると、企業丸抱えの試験、とりあえず前向きにランダム化して研究しているようだが統計学的に本当に必要なサンプルサイズを設定しているのかどうか疑問であった試験、結果が臨床現場に与えるインパクトが不明な試験などが多く、せっかく狭い会場に遅くまで残った甲斐がなくガッカリだった。

肺動脈塞栓症および深部静脈血栓症
 Hot Topic セッションとして取り上げられたが、会場は驚くほど超満員の盛況だった。肺動脈塞栓症に関しては、PEITHO試験で抗凝固剤の有効性が示された一方で、出血性合併症の頻度が高かったことから、経カテーテル治療の付加によって「少ない抗凝固剤で早期に循環動態を改善する」ことの利点が強調された。それに関する臨床試験も進行中だが、緊急症例を対象としたランダム化比較試験は施行しづらいので、どのくらいのインパクトがあるのかはわからない。
 深部静脈血栓症に対する積極的な線溶療法の研究は少ない。これはいわゆる静脈血栓後症候群(PTS)の頻度がさほど高くなく、重篤な問題を生じる症例が少ない上に遅くに生じることにもよるのだろう。弾性ストッキングの有効性については、そもそもランダム化比較試験で否定されているのだが、これも頻度が低すぎて有意差を出せなかった可能性がかなりある(差を小さく見積もって、大規模で長期の試験とするべきだった?)。以前の報告で何度も書いているように、結局はATTRACT試験の結果を待っている状態だが、本試験の登録症例は9月最初の時点でようやく660例であり、目標症例数である692例にまだ到達していない。また症例数は十分かもしれないが、経過観察期間は2年しかないので、相当数のPTS患者が拾い上げられない可能性がある。それでも試験の終了は早くて2016年の末だから、科学はつくづく時間のかかるものである。
 下大静脈フィルターに関しては、特に目新しい知見はなかった。解剖学的背景や永久留置型に比べての回収可能型フィルターにおける際立った合併症の多さ(それでも現在は、ほとんどの術者が回収可能型を選んでいる)、通常の方法で回収できなかった時に有用なテクニックなどが紹介された。逆さまに入れてしまった例や、なぜか大動脈や脊柱管にフィルターが挿入されている例なども呈示され、いったいどうしたらこんなところに入れられるのか不思議なくらいだった。

Gruenzig記念講演
今年はPereira先生 がStandard clinical guidelines for interventional oncology: where are we at present?というタイトルで話された。世界中に夥しい数の臨床ガイドラインが存在するが、その中でIVRが言及されている例は多くない。それは何故なのか、どうすべきなのかを、わかりやすく示された。実際、薬剤溶出性ビーズによるTACEやRadioembolizationは、「ランダム化比較試験がない」として推奨の対象になってはいない。また面白いことに日本の泌尿器科学会の英文ガイドラインが示され、小型腎細胞癌に対するRFAは推奨レベルがC1で、「エビデンスが不十分」とされていることが紹介されていた。「RFAと部分切除と全摘出術の間には差がない」というレベル1のエビデンスは無視されているのである。また米国ではいまだに、圧倒的に全摘出術が多いことも示された。なぜこのような状態になっているのか?その一番の理由は、IVR領域ではエビデンスレベルの低い論文が多いことである。現状は「強固なデータを示すよりもPublishすることが優先されている」と批判していた。しかし同時に重要な事は、ガイドラインを作成する委員会に放射線科IVR医がほとんど入っていないことである。放射線腫瘍医が数多く入っているガイドラインでは、新規の放射線治療が速やかにガイドラインに採用されている。IVR医も他科医と連携して、そのようなパネルに加わるようにしなければならないし、エビデンスレベルの高いデータをもっと出す必要がある、そのためには学会や企業の協力が不可欠である、といった内容である。日本の現状にもそっくりそのまま当てはまるだろう。

Film Panel
CIRSEラウンジ
学生ラウンジ
Film Panel
 CIRSEでは数年前から、この種のセッションは全員参加の二択クイズ制になっている。入場するときに帽子を渡され、質問には着帽か脱帽かで答え、最後に残った数人が決勝戦を行うというものである。質問は簡単なものから珍しいものまで、日常診療に役立つものも多く含まれていて楽しかった。ただせっかく勝ち残った6人の決勝戦の問題は、グラスゴーの観光に関するものばかりで、そこはガッカリだった。スタンフォード大学のDake先生が、忙しいであろうに前の方で熱心に参加しておられたのには敬服した。
その他
 Morbidity and Mortality Sessionは、ちょっと期待はずれだった。CIRSEのこのセッションはいつも最終日で、私は当日の帰国便が取れなかったこともあって実は初めて参加した。残念ながら今回は、けっこうありふれた症例ばかりで、大きなミスがきっかけというわけでもないし、治療の選択肢がそれほど多かったり意見が分かれたりするわけでもないという症例が多かった。最終日は企業展示も片付けが始まっており、残っている参加者も少なく、気合いの入りように問題があったのかもしれない。
 CIRSEのメンバーズラウンジは、比較的人が少なくて、ひと休みするのに重宝した。今年は昼食まで振る舞われていたが、ラウンジ自体はかなり狭いので、ピーク時には長い列ができ、多くの人が立ちながら食べていた。一部のランチョンセミナーで配られるサンドイッチセットよりは圧倒的に美味しい。
 メンバーズラウンジの隣にはStudent Loungeがあり、ここにも常時ソフトドリンクやスナックが置かれているし、昼食もある。日本では毎日ランチョンセミナーで美味しいお弁当が配られることが多いので不要だが、このように正会員や学生を大切にしようとする姿勢は大事だと思う。
 テルモ社からRoadsaverというメッシュが密な頸動脈用ステントが発売されていた。メッシュを密にすることで、プラークを抑えて遠位塞栓の頻度を下げることが期待されるそうであるが、同じコンセプトで脳動脈内でPipelineのようにFlow diverting stentとして使う製品もあるらしい。頸動脈はともかくとして、メッシュの密なステントが総肝動脈破綻のような症例で、カバードステント代わりに使えると良いと思う。現実にどの程度の症例まで止血機能を有するのかは不明だが。
 AngiodynamicsからAngioVacという、先端が開いてものすごく血栓を吸引できるカテーテルシステムが発表されていた。1回のセッションで深部静脈血栓症を治療できるかもしれない優れものだが、当然のことながらシステムが太く、価格も驚くほど高価らしい。

 以上、具体的な数字を伴う新しい知見は少なかったものの、SIRと比べれば断然元気だし、新しい発見も少なくなかった。来年はリスボン、再来年はバルセロナと、数年前に開催されたばかりの会場が続いてしまうが、やはりまだ当分は、最新のIVRを総合的に知るためにはCIRSEが最高の場所であり続けるだろう。今回のように、今後もますます多くの日本人にどんどん活躍してほしい。とりあえずは年末のGEST ASIA、そして来年のIVR学会総会に併せて開催される国際シンポジウムにおいて、多くの日本人IVR医が世界にその実力を見せてくれることを願っている。