平成23年5月19日~21日の3日間、青森文化会館およびホテル青森にて開催された第40回日本IVR学会総会に参加した。例年通り、メタリックステント & グラフト研究会、血管腫・血管奇形IVR研究会、肝動脈塞栓療法研究会が併催されている。
今回の学会は、大震災・大津波によって大きく影響を受けた東北地方での開催である。依然として原発事故に終息の目処がつかず、いまだに日々のニュースの半分を震災関連が占めている中での開催には、賛否両論多くの意見があったことと思う。私個人は、できるだけ普段通りの生活をするのが被災地支援になると考えていたし、東北地方の開催ならいっそう素晴らしいと思っていたので、開催を決断された淀野会長には深く敬意を表したい。日医放の中止は、あまりにも直後で仕方なかったろうが、震災後に生じた自粛によって横浜は大きな経済的打撃を受けたに違いない。青森にしても、1000人以上の参加者が急にいなくなれば、極めて甚大な打撃であろう。延期は1つの案だったろうが、東北電力が発電所の多くを失ってしまった今、学会予定の少ない夏期の開催も、停電のリスクを考えれば選択しなくて良かったと思う。
結果として総会は、全体として大成功ではなかったろうか?盛りだくさんな内容で、聞きたい演題がいっぱいあった。難を言えば、CIRSEやSIRに参加したときのように、聞きたい演題が平行して多くありすぎて、聞けずに残念に終わったセッションがいっぱいあったことだろう。わずか1ブロックとはいえ、会場が2つの建物に分かれていたので、移動時間を考えると、行き来はかなり大変であった。でもそれは、プログラムが魅力的だからだろう。それから何度も書いているが、シンポジウムで制限時間を守らない演者が多すぎる。ちょっとやそっとの延長ではなく、平気で止め処なく倍くらい話す演者が多数いる。本人は一生懸命やっているのだろうが、他の演者に失礼であるし、何よりも討論の時間が失われるのが辛い。教育講演ではないのだから、質疑応答がなければ論議が熟成しない。以下、いくつか各論を報告するが、私自身が重要な発表を抱えていたので、いつも以上に総論的であることをお許しいただきたい。
「最近のTACEの話題」と名付けられた教育講演では、宮山先生がコーンビームCTについて、大須賀先生がビーズについて、それぞれ講演された。もちろんどちらも素晴らしかった。宮山先生はランチョンセミナーでもマニアックな技術について紹介されたが、中規模の会場が入りきれないほどの聴衆で溢れかえっていた。肝細胞癌TACEがこれほど熱いのは何十年ぶりだろう。心配なのは、彼らのような中堅が少しオーバーワークになっているように見えることである。くれぐれも無理せぬよう、健康にはじゅうぶん留意していただきたい。
その後でMortality & Morbidityセッションがあった。1題目は腫瘍崩壊症候群の1例であり、まさにこのセッションにふさわしい演題であった。あと2題は、TACE併用RFAにおける合併症の報告とリピオドール・シスプラチンのエマルジョン・サスペンションに関する基礎的データ中心の講演であった。いずれも興味深い優れた内容だったのだが、このMortality & Morbidityというセッションにふさわしかったのかどうか、ちょっと疑問に思った。そして何よりも、討論の時間が全くなかったのが残念である。
肝癌治療に関する達人のセッションは、ハイレベルな講演もあって面白かったのだが、これもまたフロアとの討論の時間が全くなくて残念であった。85歳以上の超高齢者を対象としたTACEに関する演題について、「85歳以上だからといって禁忌ではない」という結論には誰も異を唱えないであろう。実際、90歳を超えた患者にTACEをしている施設は多くあるし、最近では90歳以上を対象とした血管内ステントグラフトの症例シリーズ報告もある。問題は、適応である。日本は先進国で唯一皆保険制であり、それ自体は素晴らしいのだが、超高齢化時代を迎えてほころびがかなり目立ってきている。禁忌でないのは確かだが、認知症や寝たきりの高齢者にTACEを施す医療費があれば、HPVワクチン接種の無料化などにあてた方がよいのではないかと思う。マスコミと現在の無能政権は、「命の重さを年齢で区切るのは不当だ」と主張しまくった。しかし、これだけ高齢者が増えている現在、限りある医療資源の効率的分配については、批判を恐れずにもっと若年者を優遇する必要があるのではないだろうか?他のほとんどの先進国では、超高齢者への介入治療は公的保険の償還対象とはならない。
門脈圧亢進症の達人セッションも、ちょっと消化不良だった。どちらかというと一般口演セッションと同じような感じで進められた(実際、一部の講演は、一般で応募したらシンポジウムに組み入れられたとのことであった)。そのこと自体は別に問題ではないと思うが、Foam Sclerotherapyの是非、薬剤の選択、オーバーナイト法の適応を含めた留置時間の検討、NBCAの可否や適応範囲、脾腎シャント閉塞の適応などといった数多くの臨床的疑問が、ほとんど議論がかみ合わないうちに終わってしまった感がある。すでに20年の歴史を持ち、ついに欧米へ広がろうとしているこの治療手技の標準化が、これほど遅れていてはまずいのではないかと思う。下手をすると10年後には、日本発であることを忘れられてしまいかねない。
末梢動脈のセッションは、まあまあの人の入りだった。腸骨動脈領域がほぼ完全に血管内治療へと移行しているのは納得だが、浅大腿動脈領域では施設間で積極性に大きな差がある。放射線科では比較的保守的な立場をとる施設が多いし、文献的・科学的に考えても、現時点においては、私はその方が正しい判断だと思う。ただ今後、最新世代のステントが日本でも徐々に使用可能となる。そうなれば、外科的バイパス術に匹敵するデータが得られるかもしれないし、患者の高齢化を考えれば、そのように進む可能性が高いと思う。
今回の目玉の1つとして、JIVROSGにおけるエビデンスづくりの現況を解説するセッションが、3日連続で午前中に一番大きな会場で行われた。特に初日は、全員に聞いてもらいたい素晴らしく充実した内容であった。初日の初っぱなで、参加者数が少なかったのが残念でならない。臨床試験の方法論やそのインフラ、世界の現況などが網羅的にわかりやすく解説された。またQOLの解説も見事で、QALYという言葉の意味を知らずして、他の診療科や医療経済学者と話すことは、もはやできまい。さらには水沼先生が、薬事承認や保険承認の仕組みについて、極めてクリアカットに解説された。一番のキーポイントは、「他の多くの学会は、生死をかけて症例のデータベース化に取り組んでいる」という言葉であった。自分たちが何者で、どのような手技を、どれだけの数やっているのか、それらが明らかにされなければ、もはや保険診療から外されかねないのである。その重要性・危機感をしっかりと認識して欲しい。本年SIRのDotter Lectureで講演されたのと全く同じ主旨である。ただでさえIVRは、一般の方にはまったく馴染みのない言葉なのだから、くれぐれもその必要性を肝に銘じて欲しい。
韓国IVR医の講演が2題あった。TACEの標準化に関する演題と、最新の末梢動脈疾患治療に関する演題であった。韓国もまたTACEの標準化に悩んでいることが非常によくわかった。また末梢動脈では、私個人にとってはさほど目新しいものはなかったものの、お隣の国でこれほど最先端の医療デバイスが自由に(保険償還には制限がある)使われているのは、本当にうらやましい。これも残念だったのは、聴衆がとても少なかったことである。日本が今後の世界展開を考えるときに、韓国との連携は特に真剣に重要視しなければならない。そのことを認識している人は少ないし、その対処策も不十分ではないかと思う。
看護のセッションに初めて参加した。帰りの飛行機の都合で最後の方は聞けなかったが、実に素晴らしかった。常により高いレベルを目指し、きちんとした計画を立てて日々「カイゼン」に努めておられる看護師の方々には敬服するばかりである。冠動脈CTのIV認定ナースというのが非常に興味深かった。造影剤の副作用や緊急時の対処方法などをきちんと学んだナースが病院から認定され、その方たちが、忙しい病棟勤務の合間を縫ってCTの造影を担当しておられる。もちろん、医師が雑用(失礼だが多くの放射線科医はそう思っている)から解放される意義が大きいのだが、それは医師がCTのIVを主たる業務だと思っていないし、今後も思うようになる可能性がないからである。ナースプラクティショナーの件もそうだが、高いプロ意識を持ったコメディカルの方を活用しないのはもったいなさ過ぎる。認定されたナースの方々も、ほとんどがそれに満足して高いモチベーションを持っておられる。そういう気持ちがなければ良い医療はできない。なお米国の主要な施設では、各病院が独自に認定システムを有しており、心臓手術にしてもTACEにしても、その病院が「この医者ならやらせてもよい」と認定しなければ、施行できないようになっている。それによって質を保っているのである。それから尿道バルーン挿入時の痛み軽減に関する発表も感心した。本人が痛い思いをしたのがきっかけだそうだが、それだけに実に真剣に詳細に検討されていた。今回の学会で演題評価の一般投票があれば、私はこの演題に最高の一票を投じたと思う。
「言いたい放談」については、当事者の1人なので詳細は述べない。現状認識に差はあれど、とにかくIVRを愛する思いは同じなのだから、建設的に前を向いて欲しいと思う。個人的に一番ショックだったのはむしろ、「某大学の新任教授が、IVRを縮小するよう言った」という話だった。事実ならばIVR学会は、日医放を通じて強く抗議していただきたい。それこそが、日医放におけるIVR学会のプレゼンスを示すことではなかろうか?