平成26年12月11日(木)~13日(土)にパシフィコ横浜会議センターで開催された日本放射線腫瘍学会第27回学術大会(JASTRO2014)を、 北里大学大学院医療系研究科の余語克紀先生にご執筆頂きました!
日本放射線腫瘍学会第27回学術大会(JASTRO2014)
北里大学大学院医療系研究科
余語克紀
はじめに
日本放射線腫瘍学会第27回学術大会(JASTRO2014)が平成26年12月11日(木)~13日(土)の日程で開催された。パシフィコ横浜会議センターという広い会場を埋める2,800名という過去最高の参加者を得て、放射線治療分野の勢いを感じる学術大会となった。ちょうどクリスマスシーズンにあたり、港町横浜の華やかな雰囲気も感じられた(図1)。
本大会のメインテーマは、「臨床腫瘍学に基づく放射線療法の標準化から個別最適化へ」である。ESTROとのジョイントシンポジウムやASTRO会長講演があり、同時通訳も入って国際色豊かな学術大会であった。口頭発表やポスター発表では熱心な議論が交わされていた(図2)。本稿では、医学物理士というコメディカルの視点から、また大会運営の裏方として、大会で印象に残ったことを報告させていただく。
患者参加の開かれた学会へ
JASTRO2014では、学術大会として初めての試みとして、がん患者・支援者の参加を可能にした(ペイシェントアドボケイトプログラム)。会場は小さめであまり目立つ存在ではなかったかもしれないが、学会として大きな一歩ではなかったか。ランチョンセミナーでは大会長早川先生からがん患者・支援者へメッセージがあった。「治癒力を高めるには:心豊かに過ごす」と題して、治療とは別に、心の持ち方について講演があり、会場は涙と笑いに包まれた。患者・支援者の方の気持ちに、身近に接する機会として貴重であった。
本プログラムの参加者には、治療機器展示ツアーの案内があり、実際の治療のイメージがわいて好評であったと聞く。企業ブースに実機展示を取り入れたのも今学術大会が初である。また、本プログラム参加者へのサポートや看護セッションの充実などで、看護師の方々の活躍が目立ったように思う。同じコメディカルとして刺激になり、チーム医療として放射線治療の総合力を再認識した。
デジタル化に対応;スマートフォンやタブレットが活躍
今学術大会は、デジタル化の時代を意識した大会であった。スマートフォン(スマホ)やタブレットが活躍した。スマホなどに専用のアプリケーションを入れることで、デジタル報文集が見られた(図3)。会場で重い報文集を持ち歩く必要がなくなったことに加え、検索可能になった。気になる先生の講演を登録して、マイスケジュールを作成できるのは便利であった。
新たな試みとして、スマホなどからツイッターによる意見の投稿が可能であった。またシンポジウムなどの途中に設問が用意され、参加者はスマホなどをアンサーパッドとして用いて回答できた。回答は即座に集計されて、会場のスクリーンへ映し出される(図4)。こういった工夫で、フロアの聴衆も議論に参加している一体感があったように思う。筆者も一年前に購入してから手付かずであったiPad miniを持参し活用した。
関連学会との合同シンポジウム・パネルディスカッション;各種臓器がんごとに個別最適化への議論
今大会では、関連学会との連携による合同シンポジウム等が多数開催された。前立腺、肺、食道、リンパ腫など各種臓器がんごとに、大会テーマである「個別最適化」治療への議論がなされた。
放射線治療が進歩する一方で、外科では内視鏡手術やロボット手術、また薬物療法では分子標的薬が登場している。この中で、集学療法としての放射線治療のあり方も変わってくる。この点を直接、放射線腫瘍医、外科、腫瘍内科医の先生が議論する場を得たのはよかったのではないか。
一例として「悪性リンパ腫に対する放射線療法の進歩」を拝聴した。リンパ腫の病理、PET診断、薬物療法、それぞれの進歩が紹介された後、新しい放射線療法の概念として、ISRT(involved-site radiation therapy)が紹介された。ISRTでは、病巣の的確な診断のもと、治療体積と照射線量を科学的にかつ適切に小さくできると紹介があった。新しい放射線療法を日本にも広めていこうとする放射線腫瘍医の先生方の熱意を感じた。
生物学の進展と個別最適化;バイオマーカー、放射線生物学の可能性
大会のテーマである放射線治療の「個別最適化」について、腫瘍学や生物学の進歩を取り入れた研究成果の発表がなされ興味深かった。一例として、中咽頭がんのヒトパピローマウイルス(HPV)関連腫瘍は、本邦でも放射線治療の予後が良好であり、QOLを重視した治療方法が望ましいとの報告があった。またバイオマーカーを治療予後予測に利用する試みとして、子宮頸がんに対する血清バイオマーカー、中咽頭がんに対するがん幹細胞マーカーの可能性について発表があった。
基礎の放射線生物学からは、ミトコンドリア機能計測による早期治療効果予測、放射線治療誘導による抗腫瘍免疫と治療効果についての発表があった。従来の高精度放射線治療は、物理的・放射線照射技術やコンピュータの向上によるところが大きいように思うが、さらにその先を目指して、今後、「生物学的な」高精度放射線治療の萌芽とならないだろうか。
(続きはRadFan2015年2月号にてご高覧ください!)