平成27年2月7日(土)~8日(日)に東京ビッグサイトで開催された第21回肝血流動態・機能イメージ研究会を吹田徳洲会病院腫瘍内科の関 明彦先生にご執筆頂きました!
第21回肝血流動態・機能イメージ研究会を振り返って
―混沌とした経動脈的肝癌治療―
吹田徳洲会病院腫瘍内科
関 明彦
はじめに
平成27年2月7日から2日間、東京ビックサイトの国際会議場にて第21回肝血流動態・機能イメージ研究会が開催された。放射線科医や消化器医にとって、メジャーな学会と同等以上に人気の高い研究会である。東京の主会場以外に大阪にサテライト会場が設置され、全体で1000名を超える参加者がいたそうだ。名称の如く、画像診断や病理診断をメインとした研究会であり、超音波造影剤やEOBなどの放射線診断学に関する演題、病理所見と対比された示唆に富む症例報告などが例年通り発表された中、今回の目玉は「B-TACE」と「肝内胆管癌」であった。後者は最新の知見を病理と画像の見地からその筋のスペシャリストが解説され大変勉強になったが、IVRistである小生からは大したコメントが出来ず、割愛する。さて今回の原稿の話は、研究会終了後に突如舞い込んできた。聴講に没頭し、貴重なデータをほとんどメモすることが出来なかった。故に、この記事も勘違いや聞き間違えが含まれているかもしれない、学術内容の乏しい「B-TACEに関する私的感想文」であることをお許し願いたい。
B-TACEに関する関心
B-TACEは、「バルーン閉塞下でのリピオドールTACE」として約7年前に入江先生が開発した手技である。安全性と一定の治療効果は、既に多数の施設から報告されている。ただし現在、B-TACEは全国で均等に普及していないようだ。最初に告白するが、私はB-TACEを1例もしたことがない。B-TACEに関する知識は講演やIVR学会誌1)から得たものだけであり、今回の研究会が楽しみだった。B-TACEに関しては、初日の「TACE(バルーン閉塞、ビーズ)」のセッションと、2日目のシンポジウム「肝動脈閉塞下での血行動態の変化B-TACEから得られる知見」に分けられ、共に会場は大入りだった。
シンポジウム
シンポジウム前半の演題、有井先生の「肝二重血行支配再考」、竹内先生の「肝外側副路の振る舞い」は、解剖学的知見と臨床経験を踏まえた濃厚な内容であり、肝血流に関する自身の知識の再構築のために非常に有用だった。途中フロアからは、初日セッションで発表された平川先生からも活発なご意見があった。平川先生の御講演は、たまたま本研究会の数日前に別件で拝聴していた。本研究会初日の発表は、通常の注入法ではミリプラが集積しにくかった低血流HCCが、バルーン閉塞すると集積したという症例報告だった。conventional、ビーズで制御困難な乏血性腫瘍に対し、こういう単純な「押し込みパワー型」的な使い方は理解しやすいと思った。また今回の発表内容とは逸れるが、平川先生が別研究会の中で、バルーン閉塞することで逆に肝動脈から染まりにくくなる腫瘍(低血流化)が少なからずあると発表されていた。肝血流が如何に複雑であるかを痛感する。また、このようにバルーン閉塞がマイナスに働く場合は、非閉塞状態で先にミリプラを注入し、その後通常のB-TACEで仕上げるといった方針についても伺い、興味深く感じた。
■シンポジウムの各論と感想
B-TACEのコンセプトに関して。小生はB-TACEを「リピオドールを上手く加圧注入する手法、そしてこれにより側副路で栄養されている部分にも肝動脈から無理やり押し込むことが出来る手法」、そう思っていた。しかし、閉塞時の血流動態に関して勘違いしていた。ここからの記述内容に不安があるが、勇気を持って続けたい。「リピオドールは排出路である門脈枝まで流出しない」そうだ。小生は、細径マイクロカテーテルを末梢肝動脈にウエッジさせて行うultra-selective TACEの「中枢版」で、圧入により門脈への流出が多くなるとばかり思っていたため、これは意外だった。実際の概念は「押すのではなく、血流動態を変更することが主目的」であった。肝動脈がバルーン閉塞されると、正常肝実質の動脈圧は低下し門脈圧と拮抗、その結果正常肝実質の動脈血流が緩徐となり、逆に腫瘍血管の動脈血流が相対的に優位となって、腫瘍目がけてリピオドールが入っていく、そのような概念と感じた。
Corona像に関して。バルーン閉塞のオンオフでCTAの画像がどう変化するか、浅山先生が発表されていた。これによると、A群:閉塞により腫瘍が高度濃染しcorona像が減弱欠損、B群:腫瘍が高度濃染しcorona像あり、C群:腫瘍濃染が減弱、この3群で局所奏功を比較されていた。話を聞きながら、通常の感覚で、これはB群で一番成績がいいでだろう、と単純に考えた。しかし結果は、A群>B群>C群の順だった。Corona像がでない方が奏功する? ここでしばらくフリーズした。この理由について、記憶が薄いが、B群はperibiliary plexusなどの細かな流入血流がバルーンより遠位の栄養血管に途中で入り込み、血流遮断はその手前で行われているため、腫瘍の閉塞状態が完全に出来ていないと考察されていた。A群は他の流入路を超えて閉塞された理想的な閉塞状態(corona像が出ない)、C群は様々な側副血行路が直接腫瘍に入り込むため、肝動脈栄養血管を塞栓しても側副路から容易に血流が入り込み、肝動脈からの腫瘍濃染はむしろ低下してしまう状態、このような概念だったと受け止めた。理解出来るようで、でも難しい。A群とB群とを、実臨床で適切に区別出来るのだろうか? また、HCCは比較的早期から主病巣周囲に副病巣(衛星病変)を形成することはよく知られており、それ故に手術は系統的に行われ、従来型のTACEも門脈枝が描出されるまで入れきった方が局所制御と生存が良いという話は周知の如くである2、3)。ではB-TACEの場合、衛星病変はどうやって制御するのだろう?
抗癌剤とリピオドールの使い方に関して。B-TACEの開発当初はアントラサイクリンとマイトマイシンとリピオドールのエマルジョンが使用されていたと記憶している。諸先生の御講演を伺うと、現在の主流はミリプラらしい。その理由の根幹は、ミリプラの「塞栓血管に対する優しさ」が前面に出ていた。現在B-TACEは、腫瘍に十分に集積した後、リピオドールを中枢に止めたまま洗い流さない状態でさらにGSを追加する先生が多いようだ。塞栓血管中枢に溜まった薬剤による血管障害のリスクが懸念される。ミリプラは、アントラサイクリンやプラチナよりも血管へのダメージが少なそうだ。これがB-TACEにとってはいいとのこと。また、ミリプラ全般で常に挙がるテーマが、加温。これも物性の話だ。ミリプラのHCCに対する殺細胞性効果について十分な討論はされなかった。液体塞栓物質としての、塞栓効果の方に着眼した話が多かった。それであれば、ミリプラと同等の物性を持った、さらにHCCに対して殺細胞性効果の高い薬剤が開発されれば良いのに、と感じた。過去のconventional TACEにおける抗癌剤の比較試験で、ミリプラの成績がアントラサイクリンよりも今ひとつだったことを忘れてはならない。B-TACEとミリプラのカップリングは、ミリプラの物性上の相性で選択されているような気がする。
(続きはRadFan2015年4月号にてご高覧ください!)