第44回日本IVR学会報告
~真にGlobalな学会へと脱皮できるか?~
IVRコンサルタンツ
林 信成
はじめに
平成27年5月28日から30日まで、宮崎のシーガイアコンベンションセンターにて開催された第44回日本IVR学会総会に参加した。この会は数年に一度の第12回国際シンポジウムを併催するだけでなく、第4回アジア太平洋インターべショナルオンコロジー学会との併催でもあった。国際学会なので参加費は高くなったが(事前登録で36000円)、まあ海外の学会と比べれば仕方のない範囲かもしれない。宮崎での学会ということで交通の便は苦労した方がおられたかもしれない。大阪や東京などからは宮崎便が多数あるので、そんなに困らないのだが。会場は大きなホテルと学会場が孤立して存在し、歩ける範囲には何もないに等しい。海が目の前なのにそこで泳げるわけでもない。国の大規模リゾート法の第一号に選ばれながら、昔のお役所感覚で経営破綻してしまった理由が何となくわかる。でもおかげで学会場の環境としてはかなり秀逸である。かなり豪華な作りのホテルに東京に比べて格安で泊まれるし、友人同士でコテージを利用することもできる。学会場も手頃な大きさのものがたくさん確保できていた。無線LANは会議場内では残念ながら使えなかったが、室外では問題ないレベルで使えた。ただエレベーターを乗り継いで上がる際に喫煙所の近くを通らねばならなかったのは、国際会議場とは思えない酷さであった。
参加者の大半はもちろん日本人だったが、ほとんどのセッションは英語で行われた。どうしても英語が苦手な人のために、多くのセッションでは同時通訳が用意されていた。もちろん、そんなものを必要としなくなるのが理想なのだが、現状では仕方なかろう。私も質疑応答の際には、「しまった借りておくべきだった」と反省したことが何度もあった。昨年末にGEST ASIAが開催されたばかりなので、講演の内容は当然ながらそれほどは変わっておらず、新しい知見は多くなかったが、大きな違いはスケジュールが比較的ゆったりと組まれ、討論の時間がしっかり確保されていたことだろう。さらにはフロアから質問に立つ若手や中堅の方が少なくなく、これが一番嬉しい予想外であった。色んな所で色んな人たちがコツコツやってきたことが、ようやく実を結び始めているのかもしれない。この調子でますます多くのIVR医たちが、英語でもどんどん積極的に質疑応答に参戦するようになれば、それでこそ日本のIVRが真にGlobal化を果たす日が来るのだと思う。
緩和のIVR
「緩和」はIVRの最も大きな役割だと言っても過言でないかもしれない。定義にもよるが、いわゆる「姑息的」治療のほとんどは症状緩和のために施行されるし、日本におけるIVRの礎となった肝細胞癌に対するTAEも、そもそもは手術不能患者に対する「姑息的」治療であった。根治できるかどうかは別として、「緩和医療」は、ずっと行われてきたのだと思う。最近になって大きく脚光を浴びるようになったのは、末期患者さんの苦痛のケアが重要視されるようになったのと、癌と共存しながら社会生活を送る患者さんが増えてきたためだろう。
最初の講演は消化管ステントに関するもので、外はカバード・内はベアーのステントについて講演された。私たちはステントの黎明期からIVRに関わってきたので、現在の形になるまでの彼らの苦労の歴史もまたよく知っている。消化管と尿路は、当初は金属ステントが役に立たない筆頭として挙げられていたものである。消化管ステントがこんなにも改善されたのは、やはりSong先生たちはじめ韓国IVR医の功績だろう。残念ながら世界中で日本と米国でだけ、薬事の問題で使えないそうである。市場規模が小さいために競合製品に乏しく、進化も血管用ステントに比べて緩徐だと思う。薬事と市場規模の2つはずっと、ステントの進歩の前に立ちはだかる大きな壁である。
整形外科領域では、恥骨骨折や骨盤輪骨折に対してCTガイド下で骨釘を挿入してセメントを付加する治療が紹介されていた。私自身は雑誌で何度も読んで知っていたが、読むたびに整形外科医と放射線IVR医が正しくコラボしているのに唸ったものである。
ついで緩和医療全般に対するIVR医の立場からの講演があり、静脈ステントはじめ薬事承認の問題が取り上げられた。そこでは日本の保険が疾患ごとの承認を基本にしている問題も指摘された。例えば凍結療法は、腎腫瘍では保険適応だが肝腫瘍では償還されない。この問題はJIVROSGでもずっと戦い続けていることである。根本的な解決に向けて、扉は少しだけ開き始めたが、道はまだまだ遠い。
ついで腫瘍内科医の立場からの講演があった。IVRの有効性を知ったおかげで患者さんのQOLを改善できた例を挙げながら、ガイドラインやエビデンスの面でIVR医のさらなる努力を促すとともに、IVRができることの素晴らしさをもっと社会に周知すべきことを述べられた。全くその通りで、私たちにとっては常識的なことでも、一般人はもちろん医師であっても、少し専門が違うと「えっ、そんなことできるの?」と驚嘆されることがまだまだ少なくない。実はJIVROSGの前身である班会議も最初は、「IVRでこんなこともできますよ」と、研究費を配分している巨頭たちに披瀝することが最も大きな仕事の1つであった。
最後に、この領域におけるエビデンスの問題が取り上げられた。JIVROSGで始めた第I/II相試験は世界にきちんとした前例があったわけではなく、薬の世界を参考にしてIVRに転用したものであるが、今やその方法が世界中のIVR医から参考にされている。緩和の領域で第III相ランダム化比較試験を行うことは、比較対象である標準治療が確立されていないためにずっと困難とされてきたが、「当該IVR以外のすべての治療」を対照群とすることで、克服する目処がついている。効果判定にしても、Area Under Curveを用いることで、かなり客観的な数値化が可能になっている。ともかくエビデンスをどんどん作る必要があるし、それをガイドラインという形で臨床の現場に見える化していく必要がある。特に緩和の領域では、いまだにエビデンスのあるガイドラインはほとんどないので、IVRが参入する余地はかなり大きい。そしてエビデンスをきちんと作れば、保険償還も勝ち取れる道が開ける。
ディスカッションでは、QALYを含むコストの問題やエビデンスの限界(この問題は別セッションで紹介)、薬事承認と保険償還のずれなどが取り上げられた。またエビデンスを作るために費やされるコストについても議論があった。JIVROSGやTAE研究会などで行っている臨床研究にかかる費用は、新薬の有効性を証明するために費やされるコストに比べると、桁違いに格安である。欧米のIVR医からみると、少額の公的研究費で数十本の臨床試験を走らせている日本の姿は、驚異に映るのだろう。実際、米国の臨床試験はほとんど、日本の10~100倍以上のコストがかかっており、このためにレベルの高いエビデンスのほぼ全ては、何らかの形で企業が金銭的なサポートを行っている。
肝腫瘍
今回の学会は肝細胞癌の治療に関するシンポジウムで幕を開けた。まず最初にDr.Lencioniが演壇に立ち、世界における肝細胞癌治療の現況について調査したGIDEONの成績を紹介された。これはまあアンケート調査だし、たかだか3200人あまりのデータなので、科学的な意義はほとんどないのだが、世界規模で行われた実態調査という意味では興味深い数字がいくつもある。ただRadioembolizationやDCBが普及する前なので、現在の数字とは随分変わっていると思われる。TACEの成績は欧米とアジアでかなり異なっているが、RFAの成績は大差ないのが面白い。「欧米でさえも良好」と述べていたのが、正直なのか皮肉なのか不明である。外科治療とIVR治療を「Coplimentaryな関係であってCompetitiveな関係ではない」というのは、まったくその通りである。
その後も楽しい講演が続いたが、まとめて述べる。いわゆるIntermediateの肝細胞癌に対する戦略が混沌としているのは従来通りで、やはり後述するようにBCLCのStage Bが早く整理される必要があるだろう。でも整理が進んだとしても、結局は多くの症例では「個別化医療」の名の下にエビデンスなき試行錯誤が続くと思われる。進行癌に対する臨床試験では確かにソラフェニブの有効性が「統計学的に」証明されたものの、ソラフェニブをTACEなどと組み合わせた多くの研究は、ほとんどが優位性を示せずにいる。またその後にトライされた新たな抗癌剤も、今のところ軒並み討ち死に状態である。ただ今後も数種類の新薬が出るようで、いくつかはPreliminaryで良い成績を出しているようではある。肝動注にしても、「ソラフェニブと併用するから臨床試験が行えるだけ」といった状態に等しい。ゲームチェンジャーのような画期的有効性を示す抗癌剤はいまだに現れない。
余談になるが、C型肝炎に対して抜群の有効性が証明されている新薬ソバルディが日本でも保険承認された。薬価では米国の半額で入手できるのだが、それでも治療1人あたり500万円以上の薬代になる。補助により自己負担は8万円程度なので、結局ほとんどは私たち一般保険加入者が負担することになる。これで肝硬変や肝癌になるリスクが減るのだから、全体として医療費が減少する可能性はあるのだが、患者数と薬代を掛け合わせると最大兆円単位の恐ろしい額である。
山門先生から「肝動脈塞栓療法研究会からの提案」という形で、BCLC-Bの細分化に関する試案が提示された。まず4個/7㎝以内でChild-Pughスコア5-6を、TACEなど局所治療の有効性が期待できることからB1群とする。そしてChild-Pughスコア9を、TACE治療の生命予後が保存的治療に比べてむしろ劣るためにB3群とする。最後に残ったその他をB2群とするのである。三重大学における過去のデータをこの分類に当てはめたところ、良好な予後の層別化が見られたので、是非多くの施設でその有用性を確かめてほしいとのことであった。この分類はすっきりして使いやすく、治療方針の選択や患者さんへの説明にとても有用だと思う。あまりにも様々な病態が含まれていて成績の優劣を比較することが困難だったBCLC-Bから、TACEが期待できる群とTACEは禁忌かもしれない群を切り分けられるのだから。レトロスペクティブとはいえ、かなり質の良いデータを基にして割り出したものだし、今後のエビデンスづくりにもきっと役立つだろう。B2群には「かなり進んでいるけど、治療の価値はありそうな」症例が残るが、これは多くがBeyond the Evidenceの領域である。是非とも多くの施設で考慮してもらいたいと思う。その上でB1やB2それぞれに対照群を絞って、従来型TACEやビーズ、Radioembolization、動注などが競い合えば、より多くのIVR医が納得しやすい比較評価ができるだろう。
Radioembolizationについては、基礎から丁寧に解説されて非常にわかりやすかった。私はコストその他の理由で全体としてこの治療法には懐疑的だが、有効な選択肢の1つであることは間違いない。進行例を対象とすれば、TACEに匹敵する治療効果が得られているのも確かだろう。ただレベルの高いエビデンスはまだないし、演者が「メタアナリシスでTACEに比べて有意に優れている」と紹介したのは明らかにミスリーディングである。JVIRには、この種の「なんちゃってメタアナリシス・系統的レビュー」をタイトルで謳った論文が少なからず掲載されている。真のメタアナリシスは、質の揃ったレベルの高い臨床試験のデータを個別に統合するものであり、それでこそレベルIaエビデンスの価値がある。PCの得意な医学生やレジデントが研究室で、文献のデータを勝手な基準で統合して統計学的に分析したたぐいの研究は、メタアナリシスという言葉で語られるべきではない。用語の定義(一般用語と統計学的用語)が問題なのだろう。1回数百万円かかるコストについての質問には、「自分の施設では放射線治療医が定位放射線治療をどんどん押し進めて儲けている」とか「平均1.6回で外来治療だから、全体としては安い」とか答えてはぐらかされていた。日本の入院期間の長さは欧米から見ると驚異なのだが、とても安価に提供されて手厚いことも確かであり、これ以上極端に短縮することがよいのかどうか不明である。「なんちゃら会議」で単純に欧米との入院期間の大きな差を指摘されても困る。
DCBをはじめとするビーズの話題は驚くほど少なかった。市販されて1年たつのだから、本当なら総会全体がこの話題で持ちきりになってよいくらいの大きな変化だったのだが、多くの施設で使用して、結局は適応が決まらず、合併症の報告が予想外に多いという現状なのだろう。かなりの症例数を経験している施設同士のデータを聞き比べても、いったいどのような症例によく効くのか全くわからないままだった。結局は前述のB2群に対して「従来型より副作用の少ないTACE」として用いられていくだけなのかもしれない。いわゆるvascular lakeに関しても、従来型TACEより頻度が高いのは確かだが、やはり出現頻度が施設間でかなり異なり、細かな技術の差が大きいのかもしれない。破裂を防ぐために「vascular lakeは塞栓すべき」という点ではコンセンサスが得られているようだ。ただその際、「ゼラチンスポンジに切り替える前にできるだけビーズを追加した方が、近位塞栓を防げて予後が改善されるかもしれない」と関先生が報告されていた。
B-TACEは何度か報告しているように、評価が定まらず、きちんとしたデータが出ないままに、各施設で様々な独自の手技改変が加えられ、さらには開発者である入江先生ご自身の手技も変遷してきているようで、従来型TACEと同様、「標準的なB-TACE」とはいったい何なのかがまったくわからない状態になっている。エビデンスがないし、エビデンスを超えて治療を必要とする患者さんがいっぱいいるのはわかるが、もう少し整理しないと、もう実験的医療に近い状態に感じる。
なお転移に関しては、肝動脈塞栓療法研究会の臨床試験を含め、ビーズを用いたTAEの試みが模索されているくらいで、新しい知見は特になかったと思う。以前から報告しているように、肝動脈塞栓療法研究会では、BCLC-Cに対するソラフェニブ併用TACE、従来型TACE不応例に対するDEB-TACE、治療抵抗性多血性肝転移に対するTAEといった第II相試験が進行中や準備中である。TACE不応例の定義は徐々にコンセンサスが得られつつあるが、治療抵抗性多血性肝転移の適格条件の中に「手術拒否」が入っていたのには違和感が残る(フロアからも指摘されていた)。除外するか試験の名称を少し変えた方が良いと思う。
BRTO
日本発の本手技が欧米でも急速に認知され、普及しつつあることは以前から何度も報告したとおりである。彼らの経験が増えるにつれて、有効性についての理解も深まっている。ただ日本以外では、コスト面などから患者さんを長時間病院に置いておけない(オーバーナイトはとんでもない)ことを大きな理由の1つにして、最後にコイルやプラグで出口を塞いで終了する例が多く、これが逆にModified BRTOという名前で標準手技となりそうな勢いである。ところが今回ビックリしたのは、韓国からのやはりModified BRTOと称する講演で、液体塞栓剤や硬化剤を使わず、「手前にプラグを挿入した後に、単純に2㎜角程度のゼラチンスポンジだけをひたすら注入する」というものであった。こんなことで静脈瘤全体が塞栓できるのかどうか不明だし、肺塞栓などの合併症の不安もある。十分に高い成功率(95%)と低い合併症率が示されていたのだが、多くの日本人IVR医は唖然としたのではないだろうか?演者の施設で学んだIVR医がUCLAで施行した成績というのも同時に示され、「成功率100%で合併症無し」とか、とても信じ難い成績であった。こういう手技が同じModified BRTOの言葉で語られるのは恐ろしい気がする。
なお脾動脈塞栓術を付加するかどうかについては、まだ適応にコンセンサスが得られていないし、海外ではまったく施行していない施設も多いようだ。また内視鏡医の技術の向上と腹水を治療する新薬の登場で、海外におけるTIPSの症例はかなり減少しているようである。
Featured Abstract
評価の高かった学術口演発表を毎日取り上げ、通常の倍の講演時間を与え、海外から主体のコメンテーターがまず質問やコメントをするというセッションである。昨年の奈良では大成功だったと思うし、今回も充実した発表が多くとても楽しかった。他セッションとの重なりや分野が少しバラバラなためだろうか、聴衆がそれほど多くなかったのがとても残念だった。
演者たちの講演を聴いていると、昔と比べて英語プレゼンのレベルが飛躍的に向上したのを実感する。個人の努力もあるだろうし、グループで勉強会を開いて切磋琢磨している人たちもいる。フロアからの発言も、以前よりは少し増えた。この動きがますます加速化していくとよい。
残念ながら、質問が聞き取れずに演者が立ち往生する場面も少しあった。もっと座長や同僚・上司が助けてあげればよいのにと口惜しかった。ずっと前の方に座って教えようかとも思ったのだが、共同演者でもないのにおかしいのでずっと後ろの方で唇をかんでいた。自信がないのなら、せっかく同時通訳が用意されているのだから、なぜ堂々と使わないのかとも思う。
この頃は学会の規模が大きくなって、色々なセッションが平行して走るため、私のようにシンポジウムなどを中心に聴いて全体のトレンドを見ようとしている者は、一般学術口演を聴く機会が激減している(学会が発足した頃は、ずっと1部屋だった)。その意味でもこういったセッションはありがたい。
1日目は静脈奇形に対する塞栓療法の報告が2題あった。頸部の静脈奇形が睡眠時無呼吸症候群の原因になることなど、私は恥ずかしながらまったく知らなかった。またこの分野では、IVR治療が保険適応にならないことに困っていることも、改めて認識した。稀少疾患だからなかなか保険承認にむけた治験ができないのだろう(薬剤ではいわゆるOrphan Drugについての規定があるが、IVR治療には適応しがたい)。術後尿管損傷の治療(ランデブーテクニック)やリンパ瘻の治療(2題)、腹膜病変の経皮的生検なども、いずれもハイレベルで誇らしかった。
2日目はミセル状にしたナノパーティクルをイリノテカンの代謝物であるSN-38のDDSとして用いるためのウサギ実験、肉腫肺転移に対するRFA(予後を左右するのは組織型と肺外病変)、原発性アルドステロン症に対する副腎RFA、BRTO後の肝臓のElasticity、骨盤骨折に対して内腸骨動脈を両側塞栓することの正当性の検証などが報告された。特に原発性アルドステロン症に対する副腎RFAの報告は、アイデアとしては昔からあったものの(経動脈的治療も報告されている)、症例の少なさやテクニックの問題などから実現してこなかった。今回の報告では8人を対象に治療が施行され、画像上は6人がCR、2人がPRとなり、服薬数は全員で減少していた(2人は投薬不要となった)。この結果を受けて、PMDAが承認した多施設共同臨床試験も始まっているとのことである。Dr.Johonsonが「何十年も副腎静脈サンプリングをやってきて、こんな素晴らしい方法に気づかなかった自分に怒りを感じる」とコメントしていたのが印象的である。
3日目は閉塞性脳血管障害に対する血栓除去、硬膜AVFの治療、弓部大動脈瘤やA型解離に対する開窓術を併用したステントグラフト治療、NLE(NBCA/リピオドール/エタノール混合液)を用いたⅡ型リークの塞栓、浅大腿動脈完全閉塞に対する超音波ガイド下でのガイドワイヤー操作による再開通術、分娩後出血に対するTAE後の再出血といった演題が講演された。いずれも充実した内容で、ずっと楽しく聞いていた。NLEは海外からのコメンテーターもかなり興味を持って聞いておられたように思う。ずっと基礎から研究をされてきたし、論文も出ているので、臨床面での今後の成功を心から祈っている。
Beyond the Evidence
今回の学会の統一テーマのタイトルがついたこのセッションも楽しかった。「エビデンスはないけど患者さんのために頑張って良い結果が得られた症例」という感じで、SIRのAmazing Interventionに少し似ているけど、それよりももっと、それをきちんと深掘りしようというセッションだったと思う。進行肝細胞癌をTACEと肝動注で治療した2例、Vipomaの肝転移にRadioembolizationが著効した症例、NBCAを用いたTAEや経皮的大腸瘻、良いエビデンスが出ないままに日本では市販製品が底をついた気管ステントや、エビデンスでは否定されながらも多くの施設で続けられている経皮的椎体形成術、小児肝芽腫の多発性肺転移をRFAで治療した症例などが議論された。最後の小児の多発肺腫瘍に対するRFAは、Beyond the Evidenceの典型例かもしれないし、一般病院ならDO NO HARMの原則に反するCrazyに近い治療法かもしれない。100個以上の肝転移を外科切除される幕内先生と同様、特殊な技術を持つ者だけに許容される治療法であり、臨床試験で有効性を証明することが症例数の規模や資金面などから不可能な領域でもある。曽根先生は講演の中で、提示した治療法それぞれについて臨床試験を行うとすれば、その際に必要な症例数やエンドポイントを示されたが、たとえ施行されても予定登録症例数に達するのに最低5年はかかりそうな試験ばかりである。ちなみに米国で異常なまでに多数留置されている下大静脈フィルターは、その有効性を証明する試験に5年の歳月と15億円ものお金が費やされたそうである。エビデンスの道はかくも険しい。
特別講演
ノーベル賞受賞者である江崎玲於奈先生がHonorary Lectureをされたのだが、これがもう凄いの一語だった。90歳で多少呂律も乱れているので最初は少し心配したのだが、のっかからずっと感動的な発言のオンパレードであった。「Judicious mindとCreative mindのバランス」「Phyical ScienceとLife Scienceの接近」「必要性とチャンス」「チャンスはそれを迎える準備が出来ている者にだけ訪れる」「ノーベル賞を獲るためにしてはならない5箇条」「温故知新を超えて未来から学べ」などであったが、個人的に一番ジンと来たのは「貴方の人生のシナリオは貴方自身が描きなさい」だった。本当にこれを聞いただけでも、宮崎に行ったかいがあった。
教育講演
学習院女子大学の萱先生が、英語でプレゼンする際の注意点について5つの項目で話された。文語ではいけないこと(まったくの口語もくだけすぎなので、実際は中間)、起承転結は欧米人には理解しづらいので直線的に結論に向かうべきこと、パワーポイントの使い方(内容を詰め込み過ぎない、アニメーションを使い過ぎない、読みやすいフォントを使うなど)、プレゼンスキルを磨くこと(アイコンタクト、ジェスチャー、ポーズの入れ方など)、質疑応答のスキル(自信を持て、わからないことは素直に謝れ)などであった。当たり前のこともけっこうあるのだが、そのつもりでその後の多くの講演を聴いていると、現実には全く守られていない発表が数えきれないほどあることに驚かされる(特に読みづらい、読めるわけのないギッシリ書かれたスライドが少なからずある)。こういう基本的な教育は大切だと、私たちのようにパワーポイントが生まれる前に大人になってしまった中年以降の人間は、特にそう思う。
キーノートレクチャー
荒井先生が今回の学会のテーマでもある「Beyond the Evidence:IVRの真のゴール」というタイトルで話された。ECIOのHonorary Lectureでスタンディングオベーションを受けた内容を日本でも聴けて本当に良かった。彼は欧米ではMr.Evidenceと呼ばれているようで、IVRにおけるエビデンスづくりには世界の誰よりも努力してきたと言っても過言ではないだろう。しかしながら、いまだにIVRの領域で確固たるエビデンスのある手技は数えるほどしかないに等しい。一方で、しょせんエビデンスは確率の話である。アクロバチックな凄い症例を次々と呈示し、エビデンスのない治療でも患者さんのために果敢にチャレンジしていくことの重要性を強調された。エビデンスの重要性はじゅうぶんに知りつつ、そのさらに向こうを目指さないと、真に患者さんのための医療はできないからである。さらにはコストの問題にも触れられた。がん治療のための薬剤やデバイスの多くは、発展途上国ではとても使えない高価なものである。そういう状況では安価な手製ゼラチンスポンジ細片でも役立つし、高性能のカテーテルでなくてもスキルが高ければ、ベストでなくてもベターな治療を提供できる場面はたくさんある。その恩恵を受けられるかもしれない人の数は、数百万円かかる新規抗癌剤やRadioembolizationなど高額の治療で助けられる人数に比べると、世界的にはきっと遥かに多いだろう。
以上、今まで何度もIVR学会の国際シンポジウムに出席してきたが、真に「国際シンポジウム」と呼べるくらいきちんと討論があった会は初めてだった気がする。先日、NHK番組「プロエッショナル」で観たが、渡辺謙さんは映画「ラストサムライ」のオーディションに合格した時は、ほとんど英語が話せなかったとのことである。今でも決して流暢な英語ではないが、55歳にしてミュージカル「王様と私」でやり直しのきかない初めての舞台に挑戦し、素晴らしい演技で大評判となっている。みんなきっと頑張ればできるのである。今回の学会をきっかけに、次回からもますます日本のIVRの世界が国際化され、日本の優れたIVRが世界に正しく普及することを祈ってやまない。