IVRコンサルタンツ 林 信成
平成23年6月18日に、奈良県文化会館で開催された日本IVR学会第30回関西地方会(第51回関西IVR)に参加した。鬼の霍乱ではないが、当日は少し風邪気味だったので、午後は失礼させていただいた。ランチョンまでの報告となることをお断りしておく。
小雨の中、奈良で始まった本会だが、参加者は少なめに思った。前回があまりにも充実していたことや、京都で救急関連の講演会があったことを差し引いても、少し寂しかった。でもよく考えれば、IVR学会総会の1ヶ月後という日程そのものに、多少の無理があるのではないかと思う。始まってみれば、それなりに面白い演題も多かったし、討論の層も厚かった。とはいえ、いつもほどではない気がするし、不毛で非科学的な議論もあった(詳細はバカバカしくて書けない)。
サブタイトルから愚痴で申し訳ない。学会・研究会報告でこれまでにも何度も書いているが、今回もまた、所定の口演時間を全く無視してダラダラと話し続ける演者が何人もいた。若い人ならともかく、中堅指導者クラスである。こんなことで若い人たちの指導ができるのだろうか?地方会だからといって馬鹿にして準備に手を抜いているように思えて不愉快だった。私は先日の青森でのIVR学会総会の際には、話すべき内容が多くて困った。そこで少しでも多くのことを話せるよう、原稿を全て書き下ろし、時間を計測しながら30回以上はリハーサルを繰り返し、原稿を修正・短縮していった。そこまでせよとは言わないが、もう少し「常識」というものがあるだろう。私のような非常識・無節操をウリに生きていた人間に、このような感想を書かせないで欲しい。ちなみに名優アンソニーホプキンスは、映画出演の際には全てのセリフを徹底して暗記し、最低500回は練習するそうである。
ランチョンセミナーは、放射線科IVR医として長期間救急に従事され、先日聖マリアンナ医大の「心臓血管外科」の教授になられた西巻博先生の「緊急ステントグラフト内装術の経験」という講演だった。失礼ながら決して流暢で整然としたものではないのだが、最近拝聴したIVR関連の講演の中で、最も心に染み入る素晴らしい内容だった。他を圧倒するような優れたデータが大量に繰り出されるのではなく、本当に救急の現場の最前線でずっと働いて来られた方の「戦記」ともいうべき内容だったと思う。自らの浅学を一番思い知らされたのは、静脈損傷の症例であった。内腸骨静脈から造影剤がダダ漏れしている例が、外科的に腹壁下パッキングされていたのだが、そのCT画像が美しくて印象的だった。あとの質疑応答でも出た腎動脈損傷の話など、まさに「命を救うか腎臓の温存も考えるか」といった修羅場を無数に経験され、その正直な本音が淡々と語られていた。最近のホワイトカラー志向の放射線科医にはとてもついていけない分野かもしれないし、私のような老骨にはもはや無理な話だが、若い人たちには是非、たとえ数年でも、IVR医としてこのような救急の第一線を経験してもらいたいと思う。
前置癒着胎盤の帝王切開に際し、総腸骨動脈をバルーン閉塞した1例が報告された。これは1例報告の形だが、多数の経験と豊富な文献考察に裏打ちされていて、とても聞きごたえがあった。これまでにも何度かこの話題は取り上げているが、手術時の出血量軽減を企図したIVRとしては、塞栓術・内腸骨動脈バルーン留置・総腸骨動脈バルーン留置のそれぞれの報告があり、その成績も少しばらついている。ランダム化比較試験がないのはもちろん、きちんとした臨床試験も存在しない(と思う)。問題は、それらのいずれが良いのか、その議論がほとんど進まないままに少なくとも15年以上が経過していることである(持続勃起症に最適な塞栓剤の問題と同じ)。厳しい病態ではあるが、待機症例に限れば、多施設共同の前向き臨床試験ができないほどではない。また多施設でないと、どの施設もそれほど症例数は多くないだろう。さらには臨床試験でなくても、同様の手技をされている施設が症例を全例登録するようなシステムがあれば、その転帰がすべて明らかになり、いずれの方法が優れているのか、推定しやすくなる。周産期出血は、致死的であれば今なお訴訟頻度の高い疾患である。欲しいのは、科学的なデータである。
両側総腸骨動脈に留置したバルーン拡張型ステントが、患者の自己指圧マッサージで「へしゃげて」しまい、Fractureを生じた例が報告された。実際、やせ形の患者でかなり強烈に押されていたようである。奈良医大は外来を開いて自ら患者を診察しておられるが、さすがにそこまではわからなかったようである。これは仕方なかろう。ただ最近、アスリートや特殊な職業で、「極端な運動をしたり体位を取ったりされることでステントが破損した」との報告を、年に1回くらい目にする。ステントを留置する際には、その部分に異常な負荷がかかるような生活習慣がないか、今後は確かめる必要があるだろう。
高度肺機能障害のために手術不能で、窓つきZenithステントグラフトで4本の分枝を確保した症例が報告された。極めて難度の高い症例だし、大変なご苦労だったと思うが、6時間以上かかって患者の被曝線量は7Gyだったそうである。これは原発事故と違って「やむを得ない」被曝であったとは思うが、やはり今後は、難しい症例・長時間に及ぶ症例に関しては、被曝のリスクに関して十分な術前の説明が必要だろう。なお他の演題で、「被曝」に「被爆」がコンタミしている演題があった。これは私も含めて放射線科医全員が、十分に注意すべき問題である。入力の際の誤変換はどうしても一定確率で生じうるミスである。被曝という言葉の読み方を変えられないものかと、最近はいつもニュースをみていて思う。
経路の無いところに経皮的に経路を造る手技の代表はTIPSだが、透析シャントや十二指腸胆道間などでも、症例報告はいくつかある。これを積極的に応用するため、その手技を簡便にしようとする動物実験の報告があった。硬いワイヤーに沿わせて押し進めるのではなく、引っ張り込むので、きっと手技的に楽だろう。
以上、中途半端な報告で申し訳ありませんでした。繰り返しになりますが、総会1ヶ月後の地方会というのは、辛いです。定められた時間を守れない人がいると、余計にモチベーションが落ちます。