日本放射線腫瘍学会 第29回学術大会 参加印象記

2017.01.19

日本放射線腫瘍学会第29回学術大会の参加レポートを神田 学先生(都立駒込病院放射線診療科)にご寄稿頂きました!

図1 JASTROとFAROの大会ポスター
はじめに
 日本放射線腫瘍学会第29回学術大会が、大会長である京都大学大学院医学研究科特命教授・名誉教授の平岡真寛先生の下、京都国際会館で行われた。2016年11月25~27日の大会期間で2,507名の参加という大盛況な大会であった。あの広い京都国際会館のフロアや会場が多くの人で賑わっており、会場によっては満席で立ち見の人や会場から溢れてしまう人がいるほどであった。
 今大会へ参加し、日頃放射線治療に携わる診療放射線技師という立場や目線で印象に残った内容や感じたことの一部を記したいと思う。
 
FAROとの共同開催と国際化の推進
 JASTROでは以前より国際化を推進しているが、今大会はアジア放射線腫瘍学会連合FARO(Federation of Asian Organizations for Radiation Oncology)の第1回学術大会との共同開催であり、国際化へのさらなる推進を感じられるものであった(図1)。FAROの会場では頭頸部、肝臓、子宮など多くの演題発表や教育セッションが行われており熱心な参加者が討論していた。インド、中国、タイ、インドネシア、フィリピン、韓国など多くの国からの発表であった。FAROの発足は昨年でありこれからさらに発展していくことが期待され、JASTROとの密な交流の始まりとなる学術大会であった。
 その他にもFARO-JASTRO Joint Symposium、ESTRO-JASTRO Joint Symposium、ASTRO会長講演、ESTRO会長講演など様々なセッションで世界各国の方々と情報交換が行われ、例年にも増して国際色豊かな学会であったのではないかと思う。
 FAROの会場はもちろんのこと学会場のどこにいても外国人の方が普通にいらして、国際化を実感できるものであった。筆者としてはもっとちゃんと英語を勉強しておけばよかったなと反省させられる場でもあった。
 
ワークショップ早期肺がん・手術かSBRTか
 今セッションでは、「早期非小細胞肺がんに対する治療の第1選択は手術かSBRT(体幹部定位放射線治療)か」という内容で討論が行われた。放射線腫瘍医の立場から山梨大学の大西 洋先生、呼吸器外科医の立場から順天堂大学の鈴木健司先生、腫瘍内科医の立場から国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生が話された。
 大西先生は、臨床試験よりSBRTの全生存率が手術に劣らずいい結果であることを示していた。また、SBRTは局所治療であるがそれよって免疫が活性化され、 離れた場所の転移巣も縮小や消滅するアブスコパル効果が見られる可能性があるとのことであった。肺線維症のある患者では重篤な合併症がおこる場合があるというデメリットについても話されていた。QOLの維持という観点からもSBRTはメリットがあり、腫瘍の性状や位置、PSが良好などの条件がそろい患者が希望すれば手術可能な初期の非小細胞肺がんについてもSBRTを提案してもいいのではな いかとのことであった。
 鈴木先生は次のような話をされていた。肺がんはバイオロジーが大事である。PETやCTなど画像上で見えないのに手術で見つかるリンパ節転移もあり、SBRTではこれらを治療することはできないとのことであった。マージンを少なくした縮小手術を行って、病理で見ると顔つきの悪いがんである場合がある。SBRTではマージンを縮小する傾向があり、このような顔つきの悪いがんに対しては再発の危険性がある。初期の肺がんに対しては手術をするべきであるが、様々な理由で手術ができないのであれば当然SBRTが勧められるとのことであった。
 大江先生は次のような話をされていた。2015年のLANCETOncologyで、SBRTと葉切除の比較試験が示されており、無再発生存率は差がない。3年生存率はSBRTがいいという結果となったが、症例数が少ないのとアブスコパル効果の可能性もあるとのことであった。また、SBRTの有用性を調べたJCOG0403とJCOG0201で葉切除を受けた患者を解析したJCOG1313Aがあり、対象年齢層が異なるという問題点があるが結果としては手術の方が良好となり、肺癌診療ガイドライン2015でも第1選択は手術となっている。 手術とSBRTの有効な比較を行うにはランダム化比較試験が必要であるという結論であった。さらに大江先生は、現在の肺癌診療ガイドライン2015で縮小手術を行ってもいい(グレードC1)とされている症例はSBRTもグレードC1として行ってもいいのではないかという個人的見解を持っているとのことであった。
 いずれの先生も臨床試験のデータや多くの治療経験からメリットだけでなくデメリットも混えて話をされており、それぞれ違ったアプローチではあるが初期肺癌のよりよい治療を患者本位に真剣に考えておられることが感じられる講演であった。筆者は日頃放射線腫瘍医と話をする機会はあっても他科医師の話を聞く機会はほとんどなく、自然と放射線科贔屓な考え方になっているかもしれないので、今セッションで他科医師がどのような考え方やデータや経験をもって治療を行っているのか一片を知ることができ、とても興味深く勉強になる内容であった。

★続きはRadFan2017年2月号にてご覧ください!