30年に渡り、多くのFFR evidenceに寄与し、発展を支えてきたPressureWire™ X。FFRによる機能的虚血評価は今や臨床に必要不可欠なツールとされ、また近年では、微小循環障害の測定意義についても注目が集まっており、”これからのPhysiology”として、患者様の予後を第一とした包括的治療判断を先導するツールの1つとして考えられている。今回、CVIT理事長である伊苅裕二先生と副理事長である横井宏佳先生に、”PhysiologyがPCI領域に果たしてきた役割と未来への期待“をテーマにお話を伺った。
先生方が初めてFFRを使用した時の製品に関する印象や当時のご感想をお聞かせいただけますか? また、初使用当時と比べて現在のPressure wireのテクノロジー進歩について、どう思われますか?
伊苅 最初はよくなかったですね。それに比べると、今はほぼ普通のワイヤーに近い形になり、選択性もありますしよくなりましたね。
横井 まったく同感です。初期のころのワイヤーは太くてこれを冠動脈に入れるのか、といった感じでした。特に最近10年の変化は大きいと思います。操作性もよくなり、ドリフトも少なくなっています。実際に使用する我々が色々な知識を得てきたということもありますが、デバイスとしても、会社の方々が大変な努力をされてきたと思います。 最近はワークホースワイヤーとしても使用が可能なので、 PCI後のFFRも測定しやすくなりました。
FFRに関する多くのエビデンスが蓄積されてきて、FFRガイドによる治療戦略が「診断やPCIを取り巻く環境」へ与えたインパクトとはどのようなものでしょうか?
伊苅 以前は造影で少しでも狭ければPCIをしていましたが、それが正しくないことをFFRガイドによるPCIが証明してくれました。有意な虚血が存在しないということが、FFR値という客観的なデータをもとにクリアになった場合に、安心して血行再建をDeferできるようになりました。FFRガイドPCIは、 論理に基づいた科学的な治療方針が決められるという意味で、非常にいいと思います。
横井 COURAGE試験の結果は我々インターベンション医にとっては喜ばしくないものでした。その後、FAME試験の結果が発表され、造影ガイドにするのではなく、PhysiologyガイドにすることでCOURAGE試験は全く異なる結果になるのではと思いました。先ほど伊苅先生のお話の中にもありました”Defer”というのは、PCIをしなくて大丈夫ということではなく、この病変に対して最も良い治療は、PCIではなく内科的治療であるということです。FAME-Ⅱ試験の結果が出たことによって、この判断は確信に変わりました。我々インターベンション医にとって、運動負荷試験、負荷心エコー、負荷シンチよりも、カテ室の中でできるFFRを使った虚血評価が最もやりやすいですよね。当初のRadi Medical Systems AB、 そ し てSt. Jude Medical Inc. は、 このPhysiologyの評価にすごく真剣に取り組んでいて、我々の質問に対しても丁寧かつ真摯に答えてくれました。プレッシャーワイヤーがメジャーではない頃でも、継続して情報提供を続けてくれたということは非常に大きかったと思い ます。現在はXIENCE™ステントという潮流の真ん中にあるステントを販売しているAbbottに引き継がれ、2018年の保険改定もあり、大きな波がきていると思います。
PCI算定要件における機能的虚血診断の重要性が増しておりますが、2018年以降、機能的虚血診断に対する関心や実施比率という観点で、全国の施設状況に変化は生じているのでしょうか?
伊苅 近年の診療報酬改定を受けて、どのくらいDeferしているかは調査中ですが、当院では、FFRは極力実施するようにしています。昨年1年間で実施したFFR症例のうち、Deferした症例を調べたところ50例以上ありました。やはり診療報酬で決められるとやらざるを得ないですよね。
横井 PCIの算定要件に機能的虚血評価を治療前に行うことが義務づけられました。その後の3年間で、CVITのJ-PCIの データが発表され、PCIの虚血評価の根拠にしている検査法として増えたのはFFRであることが示されました。FFRは病変の虚血重症度を評価した指標であり、負荷心電図は患者さんの虚血程度を評価すること、シンチは前壁、下壁、後壁といった場所の同定をすることを役割としています。負荷心電図やシンチの利点を包括するFFRは、病変の虚血評価に基づきPCIを行う我々にとって一番なじみやすいと思います。しかし、実際に虚血評価に基づいてDeferしているかに関しては、施設間によってばらつきがあると予測しています。 実際、JROADでも待機的PCIは2018年以降減少傾向ですが、FFRの使用比率と比べると減り方はまだ緩やかです。東京大学の田倉先生が調べられたデータでは、2018年の前後で症例数の多い施設ほど変化が少なく、症例数の少ない施設ではPCIの件数が減っています。この傾向を見ると、まだFFRガイドによるPCIの意義は完全に浸透しきっていないのではないでしょうか。虚血評価をして”Defer”することに対しても、適正な診療報酬がつかないとFFRガイドPCIの意味や意義の浸透は難しいと思っています。これまでのJ-PCIレジストリ ーでは、PCIを施行した人しか登録されていないので、Deferした患者が何人いるのかわかりません。今後はそのような傾向を調べるレジストリーやデータベース構築も必要だと思います。また、Deferした患者の予後に関するデータの調査も必要ですよね。
ISCHEMIA試験はインターベンション医に大きな衝撃を与えたかと思いますが、以下について教えてください。
a. 慢性冠症候群(CCS)に対するこれからの診断・治療は どのように変化していくとお考えでしょうか?
b.グラフのとおり2年次でクロスし、その後インターベンシ ョンに有利な結果になっていますが、そのあたりに対す る期待はいかがでしょうか?
c. 日本ではイメージングの使用率など異なる点があります が、日本で行った場合にはどのような結果になると思われますか?
伊苅 ISCHEMIA試験(図1)では、中等度~重度の虚血を認めるCCSにおいてPCIと内科的治療で死亡率に差が出ませんでした。狭心症や急性心筋梗塞に関して改善こそしましたが、虚血証明と予後が関係しないということで結果をかみ砕くのに時間がかかりました。ISCHEMIA試験で除外された群を見てみるとACSがあります。つまり、ACSに対するPCIは確立されているということです。さらに、同様に除外基準に該当する心不全患者に対するPCIも検討が必要だと思 います。そして、2年次のクロスに関しては、手技関連のMIがなければ、PCIによる合併症が下回るということなので、 PCIによる手技関連合併症をいかに引き起こさせないようにするかを我々インターベンション医は常に考えないといけ ません。また、死亡率は下がらなくても急性心筋梗塞を予防する手段と考えるのもいいと思います。糖尿病と一緒で、 糖尿病の治療は死亡率自体は下げません。そして日本への外挿性ですが、アメリカで、2010年からスタチンの高用量投与が頻繁に行われています。日本ではスタチンの高用量投与がないので、PCIに有利な結果となると思います。日本で同試験を実施した場合には、おそらく内科的治療の死亡率が10%、PCIとバイパス群の死亡率が8%と、差がつくのではないでしょうか。
横井 私にとっても衝撃でした。先ほど伊苅先生がおっし ゃっていたISCHEMIA試験の除外基準に入っている心不全は、症状が不安定な場合もあるので内科的治療では不十分な可能性はあると思います。症状が頻回で虚血が証明されている場合、PCIによって症状が劇的に軽減されることが改めて証明されています。CCS患者のゴールは、生涯にわたって、 死亡や心筋梗塞をいかに起こさないかということで、その視点でこのISCHEMIA試験をどう読み解くかということ、つ まりインターベンションの位置付けの捉え方ですよね。 ISCHEMIA試験では形態学的な情報はマスクされていて、解剖学的な所見を医師は知りません。何枝なのか、虚血の部位も、全く知りません。そのような臨床の現場ではありえない状況下においての検証であったがゆえに、PCIでも内科的治療でも差がなかったということだと解釈しています。 一方で、FFRは患者ではなく病変の虚血を見ています。解剖学的情報と虚血評価を組み合わせれば、CCS患者でも予後改善に直結する病変を見つけ出すことはできると思いますし、まさにそれがFAMEⅡ試験の結果なのではないかと考えています。解剖学的な所見と虚血評価、この2つの組み合わ せで最適な治療を考えることが、CCS患者に対するベストプラクティスだと思います。ISCHEMIA試験は、患者の虚血情報だけで登録した試験で、ベストプラクティスの試験ではないので、この結果だけに全てを引っ張られる必要はないと考えます。
伊苅 例えば頸動脈でも狭窄度が高いほど脳梗塞になりやすいんですよね。FFRで圧較差が出るような病変は乱流が起きていて何かが起きやすいということで、層流に整えてあ げることは大事ですよね。横井先生のおっしゃるように虚血を証明して狭窄部にPCIを実施することは間違いないと思います。
現在、微小循環障害(CMD)に対する診断が注目を浴びておりますが、実臨床におけるCMD診断意義をどのようにお考えでしょうか? 今後の機能的虚血診断のガイドラインにどのような期待をされますか?
伊苅 理由がわからない胸痛をお持ちの方、結構いらっしゃいます。アセチルコリンで負荷しても反応しないので微小循環なんだろうねといった話をしていますが…。INOCA (Ischemia with non-obstructive coronary artery)の症例が出てくると診断難しいですよね。造影やFFRの症例はその場で診断できるのでわかりやすいのですが、狭窄がないときにどう考えるかはすごく難しい、と若手の先生たちとも議論しています。
横井 PCI後に狭心症状がとれない方は2~3割以上いらっしゃいます。その原因の1つにCMDがあるのでは?と関心を持っています。FFRは太い血管の虚血評価であってCFRは全体を見ています。残っているところに微小循環、IMRといわれるような領域があると考えると、その部分もきちんと評価しないといけないと思います。当院では2021年の3月よりルーチンで微小循環評価ができるようになりました。 実際、手技もかなり簡便でして、サーモダイリューションを測定する要領であっという間に数値が出ます。直近で測定した2例をご紹介します。2人とも胸部症状で来院されましたが、1人はtypicalでもう1人はAtypicalでした。1人は強いスパズムがありましたが、IMRが17~18、CFR4~5と微小循環は正常でした。その結果から、冠スパズム性狭心症と診断し、カルシウム拮抗薬を投与しました。もう1人はスパズムは全く起こらずIMRが45、CFRが2弱という結果から、 微小血管狭心症と診断し、βブロッカーを投与しました。 このように、CMDのタイプから内服治療の内容を適切化することにより、両者とも症状は劇的によくなりました。
また、先程も申し上げましたが、心不全患者に対するイ ンターベンションはより重要になってくると思っています。 当院では心不全で入院した患者さんに対し、LADよりCFR/ IMRを測定し、心不全治療をした場合にどれほどCFR/IMRが改善するかを調べ始めました。CMDをカテラボで簡単に評価できるようになることで、いろいろなフィールドで有用な指標になるのではないかと期待しています。虚血をもう1つ違った深さで見られる、そんなことを今年の3月から現場で実感しています。
伊苅 横井先生のお話を聞いてIMRを測らないといけないと思いましたね。
横井 エルゴノミンやアセチルコリンによる負荷とセットでINOCAの評価を診療報酬に入れてもらうよう働きかけていきたいと思いますが、伊苅先生、いかがでしょうか?
井苅 そうですね。これも働きかけないといけないですね。
横井 将来的な方向性としてそこまで追求するためには、 日本のデータも必要ですね。CorMicA試験の日本版をやってみたらどうでしょうか。
患者様にとって診断がつくことによって安心感が得られるというような例はありますでしょうか?
横井 私たちの病院では、先にCTの撮影をして、有意狭窄がなければ、スパズムかもしれないとニトログリセリンを出して帰ってもらうということを以前はしていました。今は、スパズムか、微小循環狭心症かというお話を患者さんにしています。そうすると、ぜひとも調べてほしいと言われて、 カテ検査の結果を説明するのですが、その後、すごく安心した表情をして帰られます。患者さんにとって胸部症状には不安感が間違いなくあり、患者さんの不安を減らすことも我々の仕事です。そういった意味でも微小循環評価をできるシステムは非常に臨床的に意義があることと実感しています。
伊苅 診断は本当に大事ですよね。以前は、我々はPCIをするのが仕事だと思っていました。でも、患者さんの病気を診断して、治療法を指導することが、医療の大事な側面です。 PCIの適応にならない患者さんを診断して指導する、そのための方法が出てきたのです。