日本の近代私学のさきがけとして歴史を誇る慶應義塾大学。その医学部は日本の最先端医療を支えるコアとなる施設の1つである。慶應義塾大学病院の検診センターとして鳴り物入りで開業した、慶應義塾大学病院予防医療センターは8月で1周年を迎えた。中でも注目を集めているのは、乳房X線検診である。高精度で、なおかつ痛みが少ないというのだ。その中核を支えているのがPe・ru・ru DIGITAL(以下Pe・ru・ru)である。
同センターのセンター長である杉野吉則氏、放射線診断科の上竹亜記子氏、中央放射線技術室主任の阿部 悟氏、同室副主任の有本ゆり氏、診療放射線技師の潮見佳子氏にお話を伺った。
同センターには北海道や九州、さらには海外からも検診の評判を聞いて、やってくる女性も多数いるという。杉野氏は、「東芝メディカルシステムズ製のモダリティは非常に精度が高く、多くの女性が評判を聞きつけやってくる。Pe.ru.ruによる高分解能・高画質な画像は、乳がんの早期発見に大変有用である。特にレディースドックでは若い女性の乳腺に腫瘍が見つかる場合が多い。本院にはがん専門の外来もあるので、Pe.ru.ruによる乳がんの早期発見によるベネフィットは計り知れない」と、東芝メディカルシステムズ製モダリティの評判と有用性について語った。
的確・迅速・低被ばくの検診を
読影医師である上竹氏が1日に行う乳がん検診の読影は、多くても7~8件。診断の質にこだわり、1人1人の受診者とより深く接するためである。
同センターには遠方から検診を受けに来る女性も多い。上竹氏は、「消化器系のがんと比較して、乳がんは比較的若い女性に多い。中には小さい子供がいたり、育児と仕事を懸命に両立している方もいる。そのような方は、悩みや不調を抱えていても、検診を受ける時間をなかなか設けることができない。多忙な受診者のためにも、しっかりと悩みを聞いて、早期発見・治療につなげていくことが大事だ」と語った。同センターで要精密検査とされた受診者は、本院の乳腺外科をスムーズに受診することができる。
また、同センターでは検診時の被ばく線量にも気を遣っているという。上竹氏に伺ってみたところ、「福島第一原子力発電所事故以来、被ばく線量を気にされる受診者が増えた。被ばくの不安から検診を躊躇されては本末転倒なので、Pe.ru.ruをはじめとして被ばく線量の少ないモダリティを導入している」とのことである。
Pe・ru・ruによる高精度な診断を実現
マンモグラフィによる検診で、読影医師が最も頭を悩ませるのが乳腺の重なりだ。日本人女性の特徴として、不均一高濃度乳腺の比率の高さが挙げられる。そのため、撮像画像において、乳腺が重なりあって診断を困難なものにしてしまう。では、Pe.ru.ruによる診断ではどうだろう。上竹氏に尋ねてみると、「Pe.ru.ruの画像はとても読影しやすい。今まで乳腺の重なりによって、正常な組織なのか腫瘤なのか判別が困難だった症例においても、正確な診断が可能となった」との答えが返ってきた。Pe.ru.ruではピクセル等倍時、推奨されている5Mモニタにおいて、読影に適切な画像拡大率と解像度を持つよう設計されている。この設計によりむやみに要精査を増やすことなく、見落としも最小限にできるのだ。
ポジショニングが何より大切
読影に最適な画像を得るためには、装置の性能も肝要ながら、ポジショニングをしっかりと行う必要がある。上竹氏は、「写っていないものを診断することはできない。乳頭が真横を向いていなかったり、乳腺が重なってしまっては、診断が困難になり精密検査に送らなければならない場合もある。技師さんには、乳腺をより良く伸展して、情報量の多い美しい画像を撮影して頂くことが大事なので、ポジショニングがしやすいPe.ru.ruは良い装置だと思う」と語った。
読影医師がPe・ru・ruを購入
上竹氏はPe.ru.ruを気に入り、相模原で開業している実家のクリニックでも購入したという。ポジショニングがしやすく、放射線科医の自分でも容易に撮影ができる。実際に撮影をしてみると、受診者の気持ちや、コンディションによる画質の変化などが把握できて大変勉強になる」と上竹氏。Pe.ru.ruの登場により、読影医師が自ら撮影をしようとする機会が増えてくるかもしれない。
早期発見を活かす連携システム
「情報は共有化されていなくてはならない」これは同センター中央放射線技術室主任、阿部氏の言葉だ。同院のマンモグラフィで要精密検査とされた受診者が、そのまま乳腺外科へ紹介されるケースは多い。その際、PACS・HIS・RIS・電子カルテなどのシステムが共通化されていなければ、情報のやり取りが困難になってしまう。早期発見のメリットを最大限活かすためには、病院とのスムーズなシステム連携が肝要なのである。
女性技師による検診に不安も和らぐ
同センターではマンモグラフィによる撮影は全てマンモグラフィ認定資格を持った女性技師が行っている。また、乳腺超音波検査も同技師の中で対応しているため、マンモグラフィの所見を把握した上で乳腺超音波を行うことができ、より精度の高い検査が行えている。「受診者の心情を鑑みれば、同一の技師による連続的な検診は理想的であると思う」と阿部氏は語る。また、Pe.ru.ruは、近接操作卓に画像観察用の高精細モニターを搭載することができ、撮像画像の確認から過去の検診データの参照まで全て受診者の隣で行うことが可能だ。
同室の診療放射線技師である潮見氏は、「撮影室や装置の雰囲気、スタッフとのやりとりから安心して心を開いてくれる受診者も多く、時には、個人的な悩みを話してくださる方もいる」と過去の検診を振り返る。技師としてだけではなく、1人の女性として親身になってくれる彼女たちの存在が、受診者にとって大きな心の支えとなっているのだ。
Pe.ru.ruはコンパクトな設計とラウンドフォルムにより、徹底的に威圧感を排除している。さらに同センターでは、間接照明の光をパールホワイトの外装に当てることで、より柔らかな印象を演出している。受診者が緊張してしまっては、スムーズで的確な撮影が行えないため、入室した際の雰囲気に重点を置いているのだ。
撮影時、体が触れた際も装置に角張った箇所がないので当たりは柔らかい。また、握りしめるのではなく、手を軽く置くスタイルになっているアームレストにより、自然と胸や大胸筋の強張りも緩和される。従来の装置に比べると、圧迫圧力に応じて圧迫速度を最適に自動制御する「美圧」圧迫機構も、受診者の痛みを大幅に軽減する重要な役割を担っている。
このような、受診者に対する検査環境を考慮しているデザインが評価され、Pe.ru.ruシリーズは2007年度と2009年度にはグッドデザイン賞を受賞。潮見氏は、「マンモグラフィの受診者は、我々の想像以上に環境や痛みに敏感であることが多い。そのような受診者からも、Pe.ru.ruによる検診は快適だったと言って頂けている」と語った。
撮影する技師にとっても優しい装置
通常の圧迫板に加え、標準で備わっている小乳房用スロープ圧迫板。このパーツは、受診者の大半を占める日本人のために作られたものだ。独自の成型技術により、多面スロープ形状を実現しており、操作者の手が挟まることなく引き抜ける。そのため、薄い乳房のMLO撮影でも、乳腺を十分に伸展することができ、適切なポジショニングでの撮影が可能となっている。
同センターでは7割ほどの受診者が小乳房用スロープ圧迫板による検診を受けている。そのため、診療放射線技師もまた、小乳房用スロープ圧迫板による恩恵を享受しているという。「日本人には乳房の薄い方も多い。従来の装置の圧迫板では、薄い乳房の場合、乳房をつかむ技師の手の方が先に挟まってしまう中で、乳腺を伸展させなければならなかったため、手に痣ができてしまうケースも稀ではなかった。現在は、Pe.ru.ruの小乳房用スロープ圧迫板のおかげで、痣ができることはほとんどなくなった」同室副主任の有本氏は晴れやかに語った。
「受診者が緊張して力が入っていると、画像を見れば胸筋の写り具合で分かる」と潮見氏は語る。それほどポジショニングが画質に与える影響は大きい。診療放射線技師にとって、ポジショニングのしやすさは重大なファクターなのである。
Pe.ru.ruでは受診者の乳房のポジショニングさえ決定すれば、後は適切な条件が自動的に選択される。そのため、診療放射線技師は安心してポジショニングに専念することが可能だ。また、表示が全て日本語なので、万が一のエラーの際も落ち着いて迅速に対応できる。同センターでは圧迫の際、受診者の様子を見ながら、常に声かけし、リラックスして検査を受けて頂けるように工夫している。診療放射線技師の余裕のあるポジショニングや対応が、そのまま受診者の安心へとつながっているのだ。
乳がん撲滅のために !
「我々の最終目標は、乳がんで死亡する患者を減らすことである」と潮見氏は語る。目標の実現には早期発見が不可欠であり、Pe.ru.ruはその手段として存在する。さらに潮見氏は、「マンモグラフィに不安を持っている方にも乳がん検診の重要さを理解して頂いて、まずは検査を受けて頂くこと。そして、1度Pe.ru.ruによる検診を受けた方が、「これならこれからも受けてみたいわ」と思って定期的に受診して頂くことが何より重要であり、ご家族やご友人にもお勧めして頂けるとさらによい」と、Pe.ru.ruへの今後の期待感を語っていた。
(本記事は、RadFan2013年10月号からの転載です)