透析エコーの実践と評価 :東芝 Xario200 を用いたVAエコーの実践

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2013.10.31

透析エコーの実践と評価

第1部 VA超音波検査の基礎

司会
 
 
横浜第一病院
野口智永 先生

講演1 理学的所見の拾い上げとVAエコー所見の活用法

演者
 
綾部市立病院医療技術部臨床工学科
兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科
人見泰正 先生

 
エコーを用いたシャント管理の手順
 日常のVA管理で最も重要な手法は、日本透析医学会から示されている「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」2011年版に明記されているように、推奨度、エビデンスの質が最も高い、「VA機能をモニタリングするプログラムの確立」である。これは言うまでもなく理学所見のことを指す。したがって、VAを管理していく上で、理学所見を得ずに血流の測定や超音波検査に進むことはできないと認識しておくべきである。
 VAに関するさまざまな合併症の管理もVA管理に含まれるが、その合併症の中で最も厄介なものが狭窄であり、VAトラブルにおける検査依頼の大半は狭窄に起因する。検査依頼が来た際の管理手順として、まず穿刺位置を確認することが非常に重要である。そして必ず理学所見をとり、VAのどこがどう悪いのか大まかな推測を立て、その後で超音波での評価に進む。超音波検査での定量評価については、FVやRIによる血流機能評価と長軸と短軸を組み合わせた形態評価を行う。
 

図1 穿刺位置の確認
図2 チューブ聴診法
シャント管理の手順①~穿刺位置の確認
 最初の手順である穿刺位置の確認については、まずは検査依頼が来たら、穿刺位置を確認して、依頼内容と病状の擦り合わせを行う。実際には傷のある部位が現状の穿刺位置とは限らないため、穿刺位置は毎回変更されるものと認識しておいた方が良いだろう(図1)。複数箇所を穿刺してシャントを長持ちさせようというのが基本的な考え方であるため、しっかり管理されている施設ほど、穿刺位置はばらばらになっているはずである。
 実際に穿刺位置によってどのようなトラブルが起こり得るのかを把握しておかなければ、本当に必要なエコー所見を書くことは難しい。穿刺位置の違いによってトラブルの内容も変化してくるからである。「脱血不良を精査してください」、「静脈圧が高くなります」、「止血が困難です」、「再循環があるようです」など超音波検査の依頼書にはさまざまなトラブル内容が記載されていると思われるが、それらは全て穿刺位置の情報を基にした病変なのである。
 
シャント管理の手順②~理学所見
 穿刺位置を把握したら、次に理学所見で異常部位を推定する。聴診、視診、触診でさまざまな情報が得られるため、これらの理学所見を必ず取るようにして、あらかじめ異常部位を推定することにより、超音波検査による確定診断がスムーズになる。聴診に関するポイントとして「チューブ聴診法」という方法がある(図2)。これは過剰な音の増幅がなく狭窄部位の判定、血管内の乱流の程度の観察に有用で、シャントの状態が悪い部位をピンポイントで判別しやすい。

シャント管理の手順③~血流機能評価
 理学所見を取って、異常部位を推定した後は、超音波検査で血流機能を数値化する。FV、RIなどのシャント血流機能は基本的に上腕動脈で測定する。上腕動脈で測定する理由は、血管径が太く測定が非常に容易で誤差が少ないこと、末梢に比して石灰化が少ないので評価しやすいこと、VA全体の血流を反映することなどが挙げられる。たとえば吻合動脈で測定しようとすると、血管径が細く計測しにくい、石灰化が強い、乱流が入り込んでいる、手掌動脈弓からの迂回血流が評価されないといった問題が生じる。流出路静脈の場合も、乱流・拡張・蛇行・分岐などにより評価困難で、圧迫の影響も強く受けるため正確な値を出すことが難しい。
 一般的な血流機能の測定条件と測定法としてはまず、血流機能の測定にはパルスドプラ法を用いる。測定部位は上腕動脈の正中断面で、超音波の入射角度は60度を超えると過大評価することがわかっているため、60度以内の角度にすることが大事である。サンプリングボリュームは血管径最大値の3分の2以上で、血管径計測部位は正確に血管壁近位側の内膜間距離を取る。血流波形は1番上でも、1番下でもなく、平均値を取るのが一般的である。血流機能の評価については、透析中でも実施することが可能であり、透析開始後に異常を認めた場合でも超音波を用いて評価できることを念頭に入れておくとよいだろう。
 

図3 形態評価を行う際の注意点
シャント管理の手順④~形態評価
 血流機能評価が終わったら、最後にBモード法を用いて形態評価を行い、シャント機能の総まとめ、つまり病変部位の状態を診断する。超音波の走査範囲については、複数箇所に狭窄がある可能性も考慮し、理学所見で狭窄を推定した部位だけでなく、基本的にはシャントの血流が流れ込んでくる上腕動脈から吻合動脈、吻合部、流出路の静脈を可能であれば腋窩付近まで評価すると良いと考える。流出路静脈に関しては、分岐している場合には1本ずつ走査するべきであり、穿刺に使用している静脈は内膜の肥厚も大きい可能性があるため注意深く観察する。それ以外にも狭窄が疑われるが原因が見つからない場合、上肢全体の腫脹がある場合、側胸部側副血行路の発達が見られる場合などは中心領域まで走査した方がよい。
 図3に形態評価を行う際の注意点を示す。Bモードで形態評価を行う際の注意点としては、まず過度な圧迫をしないことが大事である。圧迫したまま静脈を評価すると、径などを過小評価することにもつながる。また、最近ではカラードプラ、パワードプラ、さらにはAdvanced Dynamic Flowといった有用なドプラ機能が使用できるため、このような機能を有効利用して判断するとよいだろう。
 経皮的血管形成術(PTA)の適応となる目安は、AVFでは血流量300mL/min以下、RI0.7以上、狭窄径1.5mm以下の場合にはPTAの絶対的適応で、現場では何らかのトラブルが生じていることがほとんどである。PTAの相対的適応は血流量500mL/min以下、RI0.6以上、狭窄径2.0mm以下と考え、実臨床では治療を考慮すべきであるかもしれない。AVGに関しては、血流量の評価よりも静脈圧を見ることで経時的な変化を把握し、治療を検討する必要があるだろう。
図4 2人法による超音波ガイド下穿刺①
図5 2人法による超音波ガイド下穿刺②
図6 1人法による超音波ガイド下穿刺と、
穿刺針外筒の描出確認
超音波ガイド下シャント穿刺の利点
 超音波ガイド下シャント穿刺を用いると、きわめて良好な穿刺成功率が得られる。近年、中心静脈、末梢静脈、末梢動脈、シャント血管において、その有用性を示すエビデンスが報告されている。これらのエビデンスから導き出される適応血管としては、深い血管、径が細い血管、穿刺に注意を要する血管など、穿刺が難しい血管が挙げられる。
 超音波ガイド下穿刺の方法は、プローブ走査と穿刺を1人で行う方法と、プローブ走査と穿刺を2人で分担する方法に大きく分けられる。過去の論文では、1人法、2人法の中にも長軸を用いた方法と短軸を用いた方法、両方を用いた方法が報告されているが、当施設では2人法で長軸・短軸の双方を用いて穿刺を行っている。
 実際の方法としては、まず穿刺を行う血管を短軸・長軸方向で描出し、血管の直線性と内腔状態を確認する(図4)。そして2人法で、1人はプローブを走査して、1人が穿刺を行う。まず、ドレッシングフィルムをプローブに張り、消毒して滅菌ゼリーを使用して長軸で血管中央断面を描出し、穿刺者がプローブの中央長軸直線上を目がけて穿刺する(図5)。1回目でうまく穿刺できない場合は、1人法短軸操作に切り替えてベベル(針先の鋭角になった部分)先端を確認しながら針先を血管内に留置し、外筒を押し込み穿刺状態を確認する(図6)。最終的に長軸および短軸で針の先端位置を確認し、穿刺針外筒が長軸・短軸で血管中央に描出されれば完了となる(図6)
 この手順については、当施設のスタッフへのアンケート調査で、穿刺時に長軸で観察するので短軸よりも結果イメージがわきやすく、穿刺針を素早く挿入できるという意見が多く見られたため、採用している。透析患者は週に3回、2本ずつ針を刺されており、その苦痛はかなりのものである。1回の穿刺でうまく入れば、痛みも少なく、患者の苦痛も和らげることができる。このように、超音波ガイド下シャント穿刺を用いることにより、穿刺が実施しやすくなり、患者への負担も少なくなる可能性があるため、ぜひ有効利用していただきたい。
 
まとめ
 シャントの開存にとって最も重要なことは「早期発見・早期治療」であり、シャント管理において最も重要な手法は理学所見である。ただし理学所見は主観的評価であるため、その欠点を適切にカバーする上で超音波検査は有用なツールであり、より優れたVA管理を簡便に達成し得ると考える。また、超音波検査は透析患者の最大の苦痛要因となるシャント穿刺のサポートにおいてもきわめて有用である。今後は理学所見+超音波検査がVA管理のスタンダードとして確立するのではないかと思われる。

 
■東芝Xario200を用いたVAエコーの実践
(装置とモデルを用いたデモンストレーション)

 

図7 Xario200を用いたVAエコーの実践
血流機能評価の実践

 まず、血流機能評価を行うときは、できるだけ上腕部の上側にエコーの画像を合わせる。動脈かどうかを判別するポイントは、静脈の場合は圧迫すると凹むことである。動脈の場合はなかなか押し潰されないため、押すという動作で動脈か静脈かを判別することができる。そして上腕部でしっかりと血管の中央断面を描出する。この状態が整ったら、血流の波形を取るためにパルスドプラのボタンを押すと、動脈の波形が出てくる。この波形を見て、閉塞しているかどうか、大体の判別が可能である。
 ここでドプラの入射角度が表示されるが、Xario200のプローブでは入射角度を非常に小さく設定することが可能である。この状態でサンプリングボリュームの幅を3分の2以上確保し、血流波形を安定した状態でフリーズして見る。そしてこの状態で血流波形と血管径を測定する。ワンクリックで画面上にはFlow VolumeとRI値が表示される(図7)
 
形態評価の実践
 形態評価として動脈を追う場合には、解像度が高いプローブを使用することが望ましい。エコーゼリーについては、シャントの形態評価をする場合にはプローブを浮かせて走査することが多いため、硬めのエコーゼリーを使用した方が良い。
 静脈を評価する際は、少し押さえただけでも凹んでしまうため、できるだけエコーゼリーをたくさん塗って血管径を測定したほうが良い。狭窄の病変を確認する際は、必ず長軸、短軸2方向から確認し、形状を立体的に把握するべきである。
 
超音波ガイド下穿刺の実践
 超音波ガイド下穿刺のトレーニングをする場合には、細い風船の周囲をゼラチンで固めたファントムを用いると比較的安価で疑似的に穿刺の練習をすることが可能である。穿刺の手順については、まずプローブにドレッシングフィルム剤を貼るが、感染の問題があるため毎回交換すべきである。超音波ガイド下穿刺の場合は滅菌のエコーゼリーを使用し、アルコール綿、ポピドンヨードで消毒をしてからプローブを当てる。
 血管を描出して短軸方向と長軸方向を確認した後で、当施設ではまず長軸で中央断面を描出した状態で中心部めがけて角度をつけて穿刺を行う。しっかりと穿刺できているかを短軸で確認し、針先のベベルが2点で見えるのが確認できたら血管を突き抜けないように針先を挿入し、その後外筒を中に入れる。外筒を入れると、輪で見えてくるので、外筒がしっかり入っていることを確認してから針を抜き取る。うまくいかない場合は画像を見ながら微調整してリトライする。 このように、透析室の中に超音波装置を置いてVA管理に活用することで、VA管理の質の向上に貢献できるのではないかと考える。