流れない脳脊髄液
─Time-SLIP法 CSF dynamics imagingからの観察─
日時:2013年10月16日
場所:パシフィコ横浜
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社
座長
大阪大学大学院医学系研究科脳神経外科学講座
吉峰俊樹先生
演者
東芝林間病院脳神経外科
山田晋也 先生
脳脊髄液の動態をMRIで画像化する新しい手法としてTime-SLIP法を応用した脳脊髄液dynamics imagingを開発してきた1)。この方法によって生理的、病的な状態における脳脊髄液の動態を無侵襲に直接可視化することが可能となった。脳脊髄液dynamics imaging によって得られた知見はこれまでの正常状態の髄液動態の生理や、脳脊髄液に関連する病気における病態生理の見直しを迫るものと言える2、3)。ここでは最新の臨床画像を紹介し、従来教科書的に述べられてきた概念を覆す脳脊髄液動態に関する新たな仮説を提示する。
[KEY Sentence]
●Time-SLIP法によるCSF dynamics imagingは、CSFそのものを自己トレーサーにする理想的なCSF動態観察手法である。
●CSF動態のドライビングフォースは、心拍動だけでなく、呼吸にも影響を受けている。
●CSFは、産生される部分から吸収される部分に向かって川のように流れ循環しているのではないようだ。
●クモ膜下腔はコンパートメント構造になっており、CSFの吸収はシルビウス静脈より中枢側で行われていることが示唆される。
●DESHという画像所見は、正常の脳脊髄液のドレナージルートはクモ膜顆粒ではないであろう事を示唆させる。
●CSF dynamics imagingによって、より詳細なCSFの動きを観察することが可能になるであろう。
Time-SLIP法を応用した脳脊髄液dynamics imaging
Time-SLIP法を応用した脳脊髄液dynamics imagingはスピンラベリング法を基本として脳脊髄液描出に最適化したものである。Time-SLIP法は、まず背景全体にRFパルスをかけることで背景全体の信号を黒く描出し、直後に観察したい部位に再度RFパルスをかけることにより再反転することにより、関心領域内の脳脊髄液を白くラべリングすることができる。ラベリングしてから一定の時間をおいて(1~6秒)撮像するとラべリングされた白く描出される脳脊髄液がラベリングされていない黒い背景信号の範囲に流入することにより、そのコントラストからその時間内に動いた脳脊髄液が描出されるという仕組みである。脳脊髄液動態を可視化する方法には従来からいくつか知られる。MRIのPhaseContrast(PC)法は1心拍の間の脳脊髄液の動きを脳脊髄液が心拍のみに同期して動く事を前提とし、数分間にわたりデータを収集しそれらの加算平均的によって画像を作成している。このため心拍に連動しないようなランダムな動きがあると、脳脊髄液の動きを正確に描出することが出来ないということになる。RIやCTシステルノグラフィーは、脳脊髄液に注入されたトレーサーの移動を数時間から24時間ほどの時間単位で観察する方法である。Time-SLIP法の観察時間は5~6秒間であり、これまで観察することができなかった時間単位の観察であることがわかる。Time-SLIP法は髄液そのものをRFパルスでトレーサーに仕立て上げることできる。とてもシグナル/ノイズ比に優れるためにPC法で必要になるような加算平均の手法を必要としないので、画像として見えたものがその時間内に動いた脳脊髄液であると言える。また、動きのない脳脊髄液を動いていないと言える事もこの方法の大きな特徴であると言えよう。いずれにしてもTime-SLIP法は、脳脊髄液を自己トレーサーとする理想的な脳脊髄液動態の観察方法といえる1~3)。
<文献>
1) Yamada S et al: Visualization of cerebrospinalfl uid movement with spin labeling at MR imaging:preliminary results in normal and pathophysiologic conditions. Radiology 249(2): 644-652,2008
2) 山田晋也: MRIを使用した脳脊髄液hydrodynamicsの観察―CSF bulk fl ow imaging―現状と今後の展望. 脳神経外科 37(11): 1053-1064, 2009
3) 山田晋也: 脳脊髄液の生理:脳脊髄液のダイナミクス. 医学物理 32(3): 148-154, 2013
4) Yamada S et al: Influence of respiration oncerebrospinal fluid movement using magneticresonance spin labeling. Fluids BarriersCNS10(1), 2013
5) Di Chiro G: Movement of the cerebrospinal fl uid in human being. Nature 204: 290-291, 1964
6) Kitagaki H et al: CSF spaces in idiopathic normal pressure hydrocephalus: morphology and volumetry. Am J Neuroradiol 19(7): 1277-1284,1998
7) Yamada S et al: Albumin outflow into deep cervical lymph from different regions of rabbit brain. Ame J Physiol 261(4 Pt 2): H1197-1204,1991
8) Cserr HF et al: Drainage of cerebral extracellular fl uids into cervical lymph: an aff erent limb brain/immune system interactions. Pathophysiology of the Blood-Brain Barrier: 413-420, 1990
9) Yamada S et al: MRI tracer study of the cerebrospinal fl uid drainage pathway in normal and hydrocephalic guinea pig brain. Tokai J ExpClin Med 30(1): 21-29, 2005
10) Johnston M et al: Evidence of connections between cerebrospinal fl uid and nasal lymphatic vessels in humans, non-human primates and other mammalian species. Cerebrospinal FluidRes 10; 1(1): 2, 2004
11) 山田晋也: 特発性正常圧水頭症iNPHと脳脊髄液hydrodynamics. 脳21 14(2): 72(164)-77(169),2011
(本記事は、RadFan2014年3月号からの転載です)