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Platinum Echo Style 笑って帰れる外来を目指して〜
高松平和病院乳腺外科の1日平均外来患者数は約30人。超音波検査は、ほぼ全例に対して行っている。対策型・任意型検診としての受診者も多いが、精査・セカンドオピニオン目的で来院されるケースも少なくない。患者の年齢層は若年から高齢者まで幅広い。
マンモグラフィやMRIなどの客観的な存在診断を得意とするモダリティに対して、超音波検査は「病変の詳細な評価や、インターベンションをどう進めるか」といったベットサイドでの診断に強みを持つ。特に、昨今の装置の技術革新は、微細な石灰化病変、非腫瘤性病変も早期から描出できるだけの高いポテンシャルを持っている。
超音波検査で、いかに良悪性を判別し、同定するか。何森氏は、さまざまな症例を観察し、「豹紋」と呼ばれる正常乳腺の雲のような縞模様の流れを追っていくことで「疑わしい病変でも規則性の乱れがなく内部構造が保たれていれば、精査を必要としない症例だと判断できるようになってきました」と語る。特に、プローブが進化して高分解能になるほど、乳腺の正常構造がますます正確に見えるようになり、精査対象とする症例が減ったため、特異度が高く保たれるようになったという。
全ての症例は、乳腺正常構造を学ぶための教科書
何森氏は1995年に香川大学医学部を卒業後、はじめは一般消化器外科医としてキャリアをスタートした。出産をきっかけに乳腺外科医へ転身し、乳腺超音波診断を始めてしばらくして何森氏は、超音波画像にも、胃カメラや大腸内視鏡におけるピットパターン(腺管構造)のような画像の規則性があるのではないかという感覚を持った。
何森氏は、その仮説を検証するべく「自分が検査した良性〜正常症例の超音波のパターンを、毎日診療後に繰り返し追いかけていました」と話す。臨床現場においては、日々の検査で「この方からは脂肪の入り方を勉強させていただこう」「この方からはクーパー靱帯の構造を学ばせていただこう」とテーマを決め、3分間集中して検査を行う、というトレーニングを続けていた。「悪性像を見つけようとするのではなく、正常構造を確認したい、という思いで検査を行っていました」と語る。目の前の患者、すべての症例が教科書と思って、一例一例を大事に診ていくことが、診断力の向上につながったのだろう。
何森氏が解明した乳腺構造は、小葉外間質は2種類あり、超音波で乳腺内に見られる斑〜豹紋状の模様は、「小葉─乳管とそれを取り巻く周囲間質」を見ているということだ(図1、2)。さらに「周囲間質の量、腺葉の大きさ、萎縮の程度、脂肪化の割合」が超音波画像上の個人差となる事も明らかにした。そして「乳腺内の模様は乳管の走行を反映している構造である」と言う事を念頭に置きながら正常な乳腺構造の流れを追い(図2、3)構造の途絶えや乱れが見られる部位に注目すれば、淡い病変や微小な病変の存在を指摘できるという(図4)。
何森氏が同院で使用する超音波診断装置は、Aplio500(東芝メディカルシステムズ)と、マトリックスプローブPLT-1204BXだ。
「以前の超音波診断装置でも存在診断は可能でしたが、最近の装置では内部構造の詳細な観察により、質的診断にも自信を持って踏み込む事が可能となってきた」(図4、5)という。装置が進歩し、Bモードの基本画質が向上するほど、何森氏の観察法の確信度が高まっていった。患者にとっても、検査時間が長引かず、精査の要不要を的確に判断してもらえる、というメリットにつながっている。
MRIで病変を指摘されたあとの超音波画像診断においては、病変の同定を行いながらその根拠を客観的に説明できるようにならなければいけない。MRIでの乳腺正常構造から病変の位置を立体的に把握し、それを超音波画像で正確に描出することが重要である。日頃から超音波で立体的に正常構造を読む訓練をしていないと、同定した部位を客観的に説明することが困難になってしまう。
何森氏は、「クーパー靭帯や血管走行などを繊細に読みとれる高分解能なエコーの活用」そして「変形する乳房の立体構造を理解しながら的確にプローブを当てるテクニック」が、セカンドルックUSにおける勘どころであり、これらを備えられれば、9割以上は同定できるようになるだろう、と力強く答える。
Elastographyや、血流観察技術SMIの乳腺画像診断における可能性
Aplio500は、診断をサポートするアプリケーションが豊富に搭載されている。乳腺画像診断において貢献するのが、Elastography機能と、SMIによる血流観察だ。
Bモード画像での観察が基本ではあるが、何森氏はStrain Elastographyを、「悪性腫瘍なのか、嚢胞や乳腺脂肪なのかを確認したい時に、Elastographyで硬さを確かめれば、確実に除外することができる」と、判断に迷った時の最終鑑別に役立てている。Aplio500のElastographyは、データの信頼性が上がり、画像も安定して表示されるようになったと実感しているという。
また、東芝独自の血流表示技術SMIは、高分解能・高フレームレートで微細血管の血流形態を評価するのに役立っている。血流が貫入・貫通などしていれば悪性が疑われ、なだらかなカーブを描いていれば良性、といった判別も、従来は動画でないと困難であったが、「SMIであれば一枚の静止画キャプチャーで、Vascularityだけでなく血流形態を立体的に評価できるほどの画像が簡便な操作で得られ、客観性の担保につながっている」と何森氏は高く評価している。
高松平和病院では、日本乳腺甲状腺超音波診断医学会の「乳房腫瘤の超音波診断におけるカラードプラ法判定基準作成およびその有用性に関する多施設共同研究(JABTS BC-04)に取り組んでいる。非造影のSMI画像でも従来のカラードプラ以上の臨床情報を得ることができるが、造影SMI検査からは、バスキュラリティの小さな病変でも高フレームレートで低流速かつ微細な血流を表示でき、乳癌術前診断や治療効果判定など、さらに多くの知見が得られるのではないか、と何森氏は期待を寄せる。
乳癌の早期発見にかける想い─
相手の気持ちに寄り添う超音波検査
乳がん検診の受診率は、平成25年度の国民生活基礎調査(厚生労働省)によると43.4%と、欧米と比較していまだ低い傾向にある。何森氏もこれまでの経験を振り返り「独居の方などは、なかなか周囲にも気づかれず、症状が進行して皮膚病変が生じたころに来院されるようなケースがいまだに減らない」と語る。何森氏は「患者さんには知る権利だけでなく、知りたくないという想いもあると思います。この方は何をどう知りたいのか? を検査中の会話から探り、相手の気持ちに合わせて告知する情報とその表現を選びます」と、医師として、患者と協力して治療に取り組もう、という気持ちを常に抱いている。
高松平和病院には、地域の口コミを聞いたママ友グループで検診を受けに来られるケースや、県外からの来院も多数あるという。「自覚症状のないうちに、乳がん検診に少しでも気軽に来ていただき、必ず笑顔で帰っていただける外来にしたい」という何森氏の想いは、着実に拡がっている。
(本記事はRadFan2015年7月臨時増刊号からの転載です)