第46回日本膵臓学会大会ランチョンセミナー
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第46回日本膵臓学会大会ランチョンセミナー
日時:2015年6月19日
場所:名古屋国際会議場
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社
司会
手稲渓仁会病院消化器病センター
真口宏介先生
演者
久留米大学消化器内科
岡部義信先生
【KEY Sentence】
●膵性胸水は内視鏡的膵管ステント挿入が推奨され奏功率も高いが、無効・増悪例には外科手術が良いとされる。
●慢性膵炎合併症の胆管狭窄に対しては内視鏡的プラスチックステント挿入が推奨され、複数本挿入のほうが治療成績は良いとされている。
●膵仮性嚢胞に対する内視鏡的ドレナージは、個々の病態や背景因子など複合的に考えながら実施すべきである。
慢性膵炎の合併症に対する主な内視鏡治療としては、①仮性嚢胞に対する内視鏡的ドレナージ、②慢性膵炎に合併した胆管狭窄に対する胆管ステント、③膵性胸腹水に対する膵管ステント、④膵石治療、⑤膵管狭窄に対する膵管ステントなどが挙げられる。本講演では前者3項につき本邦の「慢性膵炎診療ガイドライン2015」1)、欧米のESGEガイドライン2)をもとに、当院の経験を提示しながら最新の知見を紹介したい。
胆管狭窄に対する胆管ステント
慢性膵炎に合併した胆管狭窄は、日常的に遭遇する合併症である。本邦のガイドライン1)では慢性膵炎の2.7~45.6%に胆管狭窄・閉塞がみられ、そのうち約7%に続発性硬化性胆管炎が生じるとされている。治療対象は症候性胆管狭窄、胆管炎、閉塞性黄疸、ALP高値が遷延化する例、悪性疾患との鑑別困難例、となる。治療の第一選択としては内視鏡的プラスチックステント挿入が挙げられている。ESGEガイドライン2)では、ステントを1本ではなく複数本挿入する方が治療成績は良いとして、推奨している。外科手術は奏功率73~90%と良い成績だが、合併症率9~30%(死亡率7%以下)と報告されている5、6)。
当院の慢性膵炎に併発した胆管狭窄に対する胆管ステントの現状と長期経過をみた検討7)では、最も多い術後トラブルはプラスチックステントの脱落であった。また、胆管炎を繰り返し再発するケース、肝膿瘍を併発するケースも経験した。当院で経験した症例を提示する。高度慢性膵炎と多数の膵石、下部胆管狭窄がみられた。数か月ごとに胆管ステントを交換しながら経過を追っていたが、肝膿瘍を発症した。経皮的経肝膿瘍ドレナージにて加療したが、結石の貯留と多数のデブリが胆管狭窄の原因と考えられたため、 カバードメタリックステントを一時留置し内視鏡的機械的砕石術(EML)によって除去した(図2a)。しかし、1か月後も狭窄の改善がみられず、現在は10Frのプラスチックステント留置のみの状態でフォローアップを続けている(図2b)。
本邦のガイドライン1)では、胆管ステントは慢性膵炎に合併した胆管狭窄に有効であり、初期治療としてプラスチックステントの挿入を推奨している。自己拡張型カバードメタリックステント挿入についての長期予後は現時点では不明であり、12~24か月の胆道ステント非治療奏功例、治療コンプライアンスの悪い患者などには外科手術(胆管空腸吻合など)を推奨している。しかし、このような症例は、どのタイミングで外科治療に切り替えと判断するか、多くの臨床現場でも頭を悩ませるケースだと思われる。
慢性膵炎に合併した膵仮性嚢胞に対する内視鏡的ドレナージ
慢性膵炎に合併する仮性嚢胞は、膵石や膵管狭窄などによる膵液の流出障害が背景に存在するため、自然消失は少ないとされている。腹痛、消化管および胆道通過障害などの有症状、感染や出血性合併症、増大傾向、仮性動脈瘤破裂が危惧されるものが適応になり、内視鏡的ドレナージ治療が有用とされる。ドレナージの対象となる嚢胞に関してTalar-Wojnarowskaらは、慢性膵炎の18.9%が自然消失し、24.3%は縮小しなかったものの症状がなく、インターベンションを必要としなかった(平均4cm未満)が、インターベンションを必要とした嚢胞径は平均9.6cmであったと報告している8)。ドレナージの適応判断として仮性嚢胞の大きさは基準となるか、多くの議論があるが、本邦のガイドライン1)ではその個々の病態や背景因子などを複合的に考えながら実施すべき手技であり、嚢胞径によって判断しないことを推奨している。
ESGEガイドライン2)でも同様に、慢性膵炎に合併した、有症状の膵仮性嚢胞に対する内視鏡的ドレナージを推奨しており、内視鏡的アプローチは医療費節減につながり、患者の入院期間も短縮できるというメリットがあると示している。ただし、将来的には新たに改訂されるAtlanta分類によって急性と慢性の膵仮性嚢胞を明確に区分していく必要がある、とも示されている。
当院の症例を提示する。症例1(図3)はアルコール性慢性膵炎の患者で、食後腹痛、腹部不快感を訴え来院。膵頭部に60mm大の仮性嚢胞がみられた。膵癌および膵管狭窄を疑い経乳頭的ドレナージ術を試みたが通過せず不成功となった。次に超音波内視鏡的膵仮性嚢胞ドレナージ術を試みるも、嚢胞壁が硬く成功しなかったため手技を中断した。その後、禁酒と生活改善指導を続けたところ、嚢胞は自然経過で軽度縮小となり、自覚症状も消失したため経過観察となった。症状があったからといっても、必ずしも内視鏡的介入を行うというわけではなく、基本の保存的治療で改善が見られることがある、と強く反省させられた症例であった。
症例2(図4a、b)は時々の腹痛を訴える、慢性膵炎、膵石、貯留嚢胞を認めた症例。CTにて胆管を精査したところ膵頭部に仮性嚢胞を認めた。経乳頭的ドレナージを行うと、膵頭部がループ状に狭まった走行となっており、副膵管が合流する部分に膵石が嵌頓して嚢胞を形成していた。内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(ENPD)を行い改善がみられた。しかしながら原因である膵石の除去あるいは膵管狭窄の解除を行わない限りは根本的な
治療とならない。このまま膵管ステント留置でフォローするのか、ESWL(体外衝撃波結石破砕)や外科治療のどちらを選択するか、その後の戦略も十分に考えながら介入を行わないといけない、という教訓を示していると考える。
症例3(図5)は当初アルコール性慢性膵炎に併発した膵嚢胞を疑った。腫瘍マーカーCA19-9が121と高値を示したためCTおよびEUSを実施したが、腫瘍像を明確に捉えられなかった。内視鏡的逆行性膵管造影検査(ERP)を行ったところ膵管途絶をみとめ、膵管ブラシ擦過細胞診を行ったところ、膵体部の腺癌であった。この症例はその後3~4か月で肝転移を発症した。内視鏡的アプローチを行う際には癌の鑑別を怠ってはならない教訓を得た。
症例4(図6)は92歳女性、発熱、腹痛、著明な炎症性嚢胞がみられた。CT像より膵頭部の膵癌が認められ、膵液流出障害による炎症性嚢胞であったと考えられた。92歳という高齢であることを考慮し、7Frの膵管ステントを挿入して2か月後に嚢胞は消失した。しかし、その後、ステントによる非薄化した膵実質の穿孔をきたし、汎発性腹膜炎を発症した。高齢者は膵臓が脆弱化しているため、若年者と同じように安易にステント留置を行うことは、特に留意しておく必要があると考える。
以上の経験からも、慢性膵炎に合併した膵仮性嚢胞に対する内視鏡的ドレナージは、その個々の病態や背景因子などを複合的に考えながら実施すべきであると考える。当院の経験では、内視鏡的アプローチのみで奏功した経験は7割程度で、再発の経験も多く、1つの手技にこだわらず個々の病態に応じた治療選択を行う姿勢が重要であると考えている。
(本記事は、RadFan2015年9月号からの転載です)