患者に最適なモダリティの選択の必要性から、放射線被ばくのない心臓MRIが注目されている。しかし、心臓MRIの国内での利用は増加傾向にあるとはいえ、冠動脈造影(CAG)やここ数年で急増している冠動脈CTに比較すると、まだまだ主流とはいえない。日常の診断に心臓MRIを用いているエキスパートに、MRIはどのような患者に適しているのか、画像の特長、診断の際に直面する問題や、CTやRIに比べたベネフィット、さらには実際の症例・診断から、疾患の予測因子としての利用法まで、現場の声を話していただいた。
【司会】
医療法人CVIC 理事長
寺島正浩先生
1993年 神戸大学医学部 卒業
1996年 神戸大学大学院医学研究科 入学
2000年 米国スタンフォード大学 留学
2001年 国立循環器病センター心臓血管内科
2003年 米国スタンフォード大学 留学
2009年 心臓画像クリニック飯田橋 開院
北里大学医学部 循環器内科学
主任教授
阿古潤哉先生
1991年 東京大学医学部卒業
1991年 東京大学医学部附属病院 研修医
1992年 三井記念病院 内科循環器科
1996年 東京大学医学部附属病院 老年病科
2001年 米国スタンフォード大学 留学
2009年 自治医科大学附属さいたま医療センター 循環器科
2013年 北里大学医学部 循環器内科
心臓画像クリニック飯田橋
院長
髙村千智先生
2002年 群馬大学医学部卒業
2004年 東京医科歯科大学循環器内科入局
独立行政法人国立病院機構 災害医療センター 循環器内科
2006年 武蔵野赤十字病院 循環器内科
2009年 秀和綜合病院 循環器内科
2011年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 入学
2012年 心臓画像クリニック飯田橋
社会福祉法人 三井記念病院
糖尿病代謝内科 医長
岸 智先生
2004年 金沢医科大学卒業
2004年 三井記念病院 内科 初期研修医
2006年 三井記念病院 循環器内科
2009年 三井記念病院 糖尿病代謝内科
2011年 米国ジョンズ・ホプキンス大学留学
2014年 三井記念病院 糖尿病代謝内科
寺島 今日は心臓MRIの現状と将来の可能性をテーマに、第一線で活躍されている先生方にお集まりいただきました。まず、心臓MRIの現状についてですが、日本循環器病学会の調査によるグラフを見るとCAG、冠動脈CT、心臓MRI、負荷心筋シンチグラフィの2004年からのトレンドがわかるのですが、爆発的に冠動脈CTが増加しています(図1)。この件数の推移について、いかがお考えでしょうか。
阿古 実感として、冠動脈CTは明らかに増えています。当院では心臓MRIも増加しています。心不全の患者が非常に多く、心臓MRIは不可欠な画像診断検査になってきています。
寺島 先生のご施設で興味深いのは、CAGも診断の段階から使われていますね。
阿古 冠動脈CTで異常が診断された患者は、やはりCAGが必要という現場の判断があると推測します。
高村 石灰化が強い場合、当院でもCAGをおすすめすることはあります。しかし、CAGは入院して検査をする病院が多いと思います。一方、冠動脈CTは外来で検査できるので敷居が低く、心電図に異常がある患者にすすめやすいことも増加している要因だと思います。
寺島 私はそれぞれの検査数が増減し、昔と比べて大きく様変わりしているのではないかと推測していました。しかしながら負荷心筋シンチグラフィは横ばいのままでした。
岸 当院では2007年ごろに AquilionONEを導入し、年間1,000件ぐらい冠動脈CTの検査を行っています。私もCAGが減少すると思っていましたが、依然としてCAGが必要な症例があります。FFRCT(機能的血流予備量比CT)が近年行われるようになりましたが、国内では限られた施設でしか実施されていないのが現状です。そのため、虚血の評価においてはCAGでFFRを行ったり、もしくは負荷心筋シンチグラフィを選択しています。
阿古 CAGの場合は入院が必要となり、患者にすすめるのにハードルが高いですが、冠動脈CTの検査を行って患者に画像を見せることで入院への説得が容易になります。また、健診において心電図変化で入院を指摘されても納得できない患者に冠動脈CTの検査を行うという現実もあると思います。
寺島 心臓MRIは、2009年まで2万件程度でしたが、微増しはじめて2012年にやっと3万件にまで到達しました。この1万件増加したということは、かなり大きな数字ではないでしょうか。個人的に心臓MRIにはもっと使い道があり、例えば負荷心筋シンチグラフィを心臓MRIに置き換えてもよいのではないかと思っています。
阿古 心臓MRIの50%増は大きいですね。心臓MRIは放射線科の協力なしでは絶対実施できませんが、当院では放射線科の教授が大変協力的で、心臓MRIも負荷心筋シンチグラフィもほぼこちらの希望通りにできるという恵まれた環境にあり、患者に合ったモダリティを選択して実施することができています。
寺島 実際に心臓MRIで何がわかるか。国際的な心臓血管MR分野の学会であるSCMRで推奨されているプロトコルがあります(図2)。そこにはシネMRIで心臓の形態、T2強調画像で心筋の浮腫、冠動脈MRAで冠動脈狭窄を見て、その後必要であれば負荷パーフュージョンで虚血評価、遅延造影で心筋の線維化の評価が挙げられています。最近のトレンドではT1マッピングが、びまん性の心筋線維化の評価にも用いられています。
阿古 正直なところ、全国的に見てもMRAを用いている施設は少ないと思うのですが、心筋症の質的診断の際に心臓MRIが使えるということが大きな強みだと考えます。心アミロイドーシス、心サルコイドーシスは一般的に推測されている以上に患者数は多いと考えられます。実は彼らは十分に診断されていません。房室ブロックと診断される患者の中にかなり多く紛れ込んでいる可能性があり、しっかりと心臓MRIで診断することが重要になってくると感じます。
高村 確かに心サルコイドーシスは中隔の菲薄化がないエコーで見過ごされてしまうことが意外と多いのではないかという印象です。また、心筋炎や慢性心筋炎も拡張型心筋症(DCM)のような形になるので、エコーでは判断がつきづらいです。
寺島 左心室(LV)の動きが多少落ちていても、その理由を説明するような狭窄が冠動脈になかったら、確かに心サルコイドーシスや慢性心筋炎が原因であったりしますね。
高村 冠動脈に異常がなくても、虚血は否定できない部分があります。心臓MRIは、虚血性心疾患(IHD)を除外診断するのに適していて、これは非常に重要な役割だと思っています。
阿古 虚血性心疾患であっても、イベントがあったことを診断できるのは心臓MRIの強みですね。
岸 当院では、今年春に東芝メディカルシステムズ社のVantage Titanを導入し、冠動脈MRAの評価を実施しています。患者には腎機能障害が多く、造影剤を使いたくないという症例の場合、心臓MRIの検査を行うことが多いです。また、腹膜透析をする患者は冠動脈の石灰化が強く、石灰化スコアが2,000、3,000というのが当たり前の世界です。そうなると冠動脈CTでは太刀打ちできません。
高村 そうですね、かなり石灰化が強くても心臓MRIのほうが信号を拾えます。
阿古 どのあたりまで評価に耐える画像が得られるのでしょう。
寺島 冠動脈の中枢側、LAD(左冠動脈前下行枝)でいうと、7番まではよく見えますが、8番の末梢は難しいです。RCA(右冠状動脈)では3番ぐらいまで、よく見えますが、LCX(左回旋枝)をとらえるのは難しいです(図3)。その理由として裏に回っていることと、コイルから遠いことが理由ではないかと思われます。また、少し入り組んだ走行をしていて、きれいな心筋の上に乗っていなくて、間を走っていたり、血管が邪魔をすることもあります。
寺島 CVICでは主に心臓ドックでMRIを使うことが多いのですが、非造影で全部検査ができる非常によい方法だと思っています。受診者の年齢は40~60歳ぐらいが最も多いです。最近は海外から検査のために訪れる外国人が増加しています。彼らから今日しか検査に参加できないと相談を受けることが多いです。
阿古 外国人と接する際に言葉はどうするのですか。
高村 エージェントの方が付き添いで通訳する場合が多いです。それに言葉は通じなくても、撮影した画像が鮮明ですと相手に伝わりやすいです。シネMRI(Wallmotion)を見てかなり感動されます。
寺島 それに東芝メディカルシステムズ社の装置には多国語の自動音声が入っています。そういう意味では、今後さらに外国からの需要があるかもしれません。
岸 現在、糖尿病動脈硬化外来を行っていて、1年で約170人に冠動脈CTを行って、そのうち約58人(38%)に何らかの冠動脈狭窄が見つかり、更にその半数は治療を要する病変ですが、全員無症候性です。糖尿病の患者の検査は、冠動脈CTや心臓MRIなどの画像診断を推奨するのに適している患者背景といえます。
高村 啓蒙にもなるかもしれないですね。糖尿病の患者の中には、医師から言われたことを守れていない人もいるので、患者が映し出された画像を見ることで自分の体の状態を自覚するきっかけとなっていいかもしれません。
寺島 では次に岸先生に、心筋のMRWall Motion Tracking(ウォールモーショントラッキング 以下、MR WMT)を用いたStrain解析についてご紹介いただきます。
岸 まず心筋線維について説明します。内膜と外膜が直交するように走っていて、その真ん中の3層構造のその2層目の真ん中のところが円周性の線維になっています。虚血などで、最初にダメージを受けるのは内膜層です。例えばLVEF(左室駆出率)といわれているような収縮能を保つためには、いろいろな方向の心筋の線維の機能が働く必要があります。特に縦軸方向は、その内膜の線維がダメージを受けると、Longitudinal Strainが落ちていきます(図8)。
最近、疫学研究であるCARDIA Studyを用いて発表した論文より初期の心筋線維の障害を表すために行った方法を紹介します。健康な18〜30歳の若年成人アメリカ人約5,500人を対象として25年間追跡しました。約5年毎にフォーローアップを行い、それぞれのフォローアップ時の血圧測定値を足し、血圧の低い人から高い人の10群に分け、血圧最低群に対して、どれだけ機能が悪くなるかを観察しました。積算収縮期血圧と積算拡張期血圧はLVEFに影響を与えませんでしたが、Longitudinal Strainは、正常血圧でも血圧が高くなればなるほど有意に機能が低下しました。これは、LVEFではとらえることのできない心機能の低下をStrain解析で評価できるといえます。また、同様に拡張機能についてもStrain解析で評価し、同様の所見を得ることができました。臨床的にもLVEF よりもCircumferential Strain とLongitudinalStrainが予測因子になり得るという報告があります。 心臓MRIでも同じことが解析できます。このMESA Studyでは約10年間を追跡しているので、アウトカムを心不全にすると単変量解析では優位差を持ちますが、多変量解析を行うと、この優位差はなくなってしまいます。一方で、Circumferential Strainのほうは独立変数として成り立ちます。その全患者のCircumferential Strainの強度を中央値で2群に分割して、前向きなほうを追跡すると優位差を持ってCircumferentialStrainの機能が低い群で心不全に至る可能性が優位に高いということがわかります。
Strain解析方法としては、DENCEやSENC、そしてTaggingという手法が用いられていましたが、時間がかかるなどの問題がありました。東芝メディカルシステムズ社と一緒に開発したMR WMTによるStrain 解析では、Tagging画像の代わりにシネMRI画像を用いて、エコーによるStrain解析と同様の評価を行うことができます(図9a、b)。時間もかからず、特殊なシークエンスや追加撮影は必要ありません。非常に簡単です。
阿古 このStrain解析では、心不全なども予測できるのでしょうか?
岸 心機能の低下が予測できます。バリデーションでTaggingシネ画像から特殊なソフトウェアを用いるのが一般的ですが、Taggingから得られたStrain curveは粗いです。どれがピークなのか見極めるのは、心眼の世界ですが、同じTaggingシネ画像で東芝メディカルシステムズ社のVitreaソフトウェアに内蔵されているMR WMTを使用するときれいなカーブが出て、再現性もいいと思います。これをシネMRIで行っても同じような再現性が保たれるので、特殊なシークエンスを用意する必要がありません。 LGEで、虚血があった場合、虚血がない部分と比較して、Strain解析のほうもフラットに近いと読み取ることもできるので、有用ではないかと思います。
阿古 他にStrain解析は、どういう方向で臨床応用が可能でしょうか。
岸 虚血の改善ができたかどうかなどを、評価できると思われます。例えば救急外来で胸痛患者が来た場合に、心臓MRIやエコーにより、再開通した前と後で評価するという利用法もあると思います。
阿古 心臓弁膜症などではどうでしょう。
岸 当施設でTAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)を数例行っていますが、TAVI後の心臓MRIはまだ実施していません。しかし、心臓MRIに耐えられそうな患者さんを対象に、心臓MRIを行って、そこでLGEなどの機能を評価、シネ画像からStrain解析を行う。これが予測因子にできるという道もあると思います。また、AS(大動脈弁狭窄症)の患者も進行した冠動脈硬化症により冠動脈石灰化で冠動脈CTに耐えらないことが多いのでCAGを選択しますが、石灰化の影響を受けない冠動脈や弁の評価ができるという有用性があると思います。
高村 何年か前に学会で、虚血発作後の心筋内虚血メモリーが話題になりました。心電図も正常で、胸痛もほぼ治まっている人に、心エコーでの拡張期Strain解析で、虚血があったかどうかを評価することができるという話です。実際、パーフュージョンで虚血を評価するのは、見慣れないと難しいです。パーフュージョンで何百例も診断して、やっと指摘ができるようになってきました。なので、Strainを補助的に使うことで、見えにくい虚血が見やすくなるのではないかと思います。
岸 仰る通りです。見た目の動きは一緒のように見えても、やはりStrain機能が落ちています。
阿古 パーフュージョンは慣れないと難しいというのは、SN(信号対ノイズ)比がよくないことが原因ですか。
寺島 そうです。3テスラだとSN比が上がって診断しやすいかもしれませんが、その問題以上に黒くなったものを探すのは難しいです。心臓MRIの中では、黒いものがたくさんあってそれが何かいろいろ重なったり、かぶさっていると難しいです。だから、逆に遅延造影のように白いものを探すほうが簡単です。
高村 すごく狭い範囲や内膜側だけに出るようなボーダーラインの虚血を探すのは大変です。反対にここがLAD領域だとわかるぐらいに虚血の境界が明瞭に出る場合は、はっきりと高度狭窄を呈しています。
阿古 ボーダーなものを評価する際に、Strain解析が有用なものさしになってくる可能性があるということですね。
岸 FFRをアウトカムにすると面白いかもしれません。 エコーの場合はターゲットはLA(左心房)やRV(右心室)に移っています。
阿古 RV評価には大変興味があります。RVの機能を評価する方法は、これまでは特にエコーでは3次元的に評価がまず無理なのですが、MRIで3次元で映し出し、しかもその動きも診断することができる可能性があるというのは、非常に有用だと思います。
岸 私も今はやはりRVの時代だと思うので解析ソフトに期待しています。心臓MRIの研究分野でも、T1マッピングをアウトカムにして、どういうふうにStrainが関わるかを調べたところ、非常に強い相関があったという研究があります。
阿古 おもしろいと思いますね。エコー分野でいろいろイノベーションがあって発展してきたわけですが、それに代わって心臓MRIはかなり日常臨床の中に取り入れられている時代になってきていますが、さらに新しい進んだモダリティ、解析方法というのは、今後どんどん日常診療の中に取り入れられてくるようになるのではないかと個人的に思います。
寺島 心臓MRIは今まで撮影技術的にも画像解析するのも難しいとされていましたが、岸先生が見せてくださったように、非常に簡便に解析できるようになっています。簡便に使えるソフトがあるというのは、すごいポテンシャルがあると思います。もっと心臓MRIが使われるようになってほしいと思いますが、何がハードルになっているのでしょう。
阿古 一般の病院、あるいは大学病院では、やはり検査時間だと思います。心臓MRIに1時間使うことに、病院側、経営者側が理解を示してくれるかどうかが、実はかなり大きなハードルになっています。
寺島 検査時間に関しては、現在各メーカが研究しているところで、今は1時間かかりますが、おそらく何年かすると30分、あるいは15分という世界になると思われます。技術的に高速撮影の技術は進んでいるので、期待しています。
岸 診療放射線技師の中では心臓MRIには及び腰になってしまう人も多いです。積極的に取り組んでもらえるようにするために、教育を施すことができるCVICのような施設がどんどん増えるといいなと思っています。
寺島 心臓MRIの用途はどんどん広がっています。情報が豊富に得られますから、どんどん普及してほしいですね。
(本記事は、RadFan2015年度冊子からの転載です)