第91回日本消化器内視鏡学会総会ランチョンセミナー
日時:2016年5月12日
場所:グランドプリンスホテル新高輪
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社
司会
手稲渓仁会病院消化器病センター
潟沼朗生先生
演者
埼玉医科大学国際医療センター消化器内科
良沢昭銘先生
【KEY Sentence】
●胆管挿管は見上げ11〜12時が基本
●ERCPでは胆管膵管合流形式と開口部の形状に合わせた挿管戦略が鍵
●挿管困難時にはWire-guidedカニュレーション、胆管ガイドワイヤ法、プレカットなどが有効
ERCPは内視鏡医にとってルーチーンに行われる手技で、劇的な効果をもたらす一方、膵炎という命にかかわる偶発症を引き起こすこともあり、ERCPの基本となるテクニックを学ぶことは非常に重要である。近年、十二指腸乳頭内の胆管膵管合流形式と開口部の形状に合わせた胆管挿管方法が提案されているが、それらの戦略を用いても胆管挿管の成功率は80〜95%である。そのため、挿管困難時の対処法をどれだけ習得しているかが重要である。当院で実施している方法を中心に、胆管挿管のテクニック、また挿管困難な場合の対処法を紹介する。
図2 乳頭内の胆管膵管合流形式と開口部の形状(猪股の分類)1)(文献1より作図)
結節型は隔壁型である。この場合、まず結節が何であるのかを理解することが重要である。胆管と膵管の間が突出して結節があるという勘違いをすることも多いが、 猪股正秋先生の研究1)から、結節は胆管と膵管の間が突出しているのではなく、胆管の上にぶら下がっている隆起であるこ とが確認された(図3)。従って、上から挿管を狙うのではなく、下から狙わないと胆管には挿入できないという理論に行き着く。つまり結節型の場合には、結節の下から挿入するという戦略になる。
その方法として、見上げ法に応じた方法と近接法に応じた2つの方法がある。見上げ法に応じた方法は、結節の下を4時方向から9〜11時に押しのけるように動かす。まず胆管カニューレをくわえさせるが、このままカニューレを引きながら、カニューレと胆管の軸を合わせ、軸が合ったところで深部挿管をするという攻略法となる(図3)。
もう1つの方法は、近接法に応じた方法で、結節の真上にカニューレ先端を押し当てて、11時方向に向かって結節を押しつぶすようなイメージで挿入していく。
平坦型と絨毛型は、隔壁型か共通管型かどちらかなので、その確認のためにまず少し造影をする。胆管に造影されればあとは軸合わせをするだけでよい。共通管が造影されたらOddi括約筋の弛緩にタイミングを合わせて、簡単に挿管できる。膵管造影のみの場合が最も難しく、その場合には見上げ法か近接法で、隔壁型でのやり方に従って行うことになる。
これらの戦略をもってしても通常の方法での挿管成功率は80〜95%といわれる。胆管挿管困難時の対処法としては、いくつかの方法があり、それをどれだけマスターしているかが術者の実力となる。
対処の1つとして、Wire-guidedカニュレーションという方法が多く用いられるようになっている。膵管への無用な造影剤の注入をなくせる点がメリットの1つで、最初からEST(内視鏡的乳頭括約筋切開術)をするような症例、スフィンクテロトームを使って結石を取り出すだけというような症例では、時間を短縮でき、用いるデバイスも少ないので非常に優れた方法といえる。またこの手技は、PEP(ERCP後膵炎)のリスクを低減するともいわれている。
ただし当院も参加した多施設研究2)で、カニューレ+造影剤、カニューレ+ガイドワイヤ、スフィンクテロトーム+造影剤、スフィンクテロトーム+ガイドワイヤの4群について100例の被験者を募って比較試験を実施したが、胆管挿入成功率に4群間での有意差は認められず、また特に欧米でいわれているような膵炎の発症率も有意差はなく、結論としては、ガイドワイヤ使用によるベネフィットは挿管時間、透視時間が短縮できたという点だけであった。
胆管挿入困難時の対処のもう1つの例として、膵管ガイドワイヤ留置法がある(図4)。これは、特に乳頭の可動性が強い症例や乳頭の正面視が困難な症例、NDS(胆管狭窄部)が長く屈曲している症例で適応となる。膵管にガイドワイヤを入れることで胆管も一緒に引っ張られてまっすぐになる、という理論の手技である。膵管ばかり造影される時には膵管にガイドワイヤを挿入してから新たに胆管を狙うと、軸さえ合えば比較的スムーズに挿管できる。この方法によって、最近ではほとんどの困難例が解決されていると思われる。
もう1つの対処法として、Two-devices-in-one-channel methodがある。これは藤田直孝先生らが発表した方法3、4)で、憩室内乳頭あるいは傍憩室乳頭などの時にチャンネルから先に把持鉗子を出して、十二指腸粘膜を下に押しやって正面視してから挿管するという方法である。
ランデブーテクニックという方法も有用である。これはPTBD(経皮経肝的胆道ドレナージ)ルートがあらかじめある症例で胆管挿管が難しい場合、PTBDルートからガイドワイヤを出し、それを内視鏡のチャンネル内に引きこんで利用する方法である。
なお、EUS-BD(超音波内視鏡ガイド下胆道ドレナージ)については、今日のテーマではないので詳しく説明はしないが、最近、胆管挿管が難しい症例でEUS-BDが非常に有用であり、ERCPで胆管挿管が困難だった10〜20%の症例でEUS-BDを実施したという報告もある。しかし、これはEUS-BDを意識的に行っている施設での報告だと認識してほしい。ERCPができない症例が10%もあるはずはない。実際に世界的に有名な施設からの報告5)では、ERCP不成功でEUS-BDを要したものは0.6%だけで、EUS-BDは優れたERCP手技の代替法とすべきではないと結論づけられている。ただこれは現時点での見解で、今後新たな展開があって、EUS-BD専用の道具や技術面が確立された場合には、もっと利用される可能性もある。
演者
帝京大学医学部附属溝口病院消化器内科
安田一朗先生
【KEY Sentence】
●乳頭から結石を取り出す際は、スコープを右(時計回転)にひねりながら押し込むのがコツ
●結石が複数あるときにはバスケット嵌頓しないように下流の結石から順に除去していく
●ENBDを鼻から出す際にはガイドワイヤループ法が有効
E乳頭処置後の結石除去は、アメリカではバルーンが主流であるが、日本ではバスケットが主に使われている。バスケットとバルーンの使い分け、バスケット・バルーンによる結石除去の実際とコツ、さらにバスケット嵌頓となった際の対処法について紹介する。また、胆管炎の合併や結石遺残が疑われる場合によく実施されるENBD留置のテクニックについても紹介する。
EST(内視鏡的乳頭括約筋切開術)やEPBD(内視鏡的乳頭バルーン拡張術)といった乳頭処置後の結石除去においては、日本ではやや大きめの結石はバスケットで、小さな結石や、胆泥、あるいは結石除去後の確認造影などではバルーンを使用する施設が多い。しかし、アメリカでは嵌頓(かんとん)に対する懸念から、バスケットをほとんど使わず、大きめの結石であってもバルーンを使用する傾向にある。
バスケットによる結石除去では、まずカテーテルを結石の上流まで進めてバスケットを開き、結石付近でバスケットを上下させて結石を把持して取り出すのが基本となる。結石を把持する際に注意すべきことは、比較的軟らかい石の場合はバスケットを強く握りすぎないことである。バスケットで強く握ってつぶしてしまうと破砕片が多量に発生して、その後の破砕片の除去が煩雑になるため、軽く握った状態のまま結石を取り出すようにする。
また、結石を取り出す際に、初心者はよく乳頭より口側に向かってスコープを引き抜こうとするが(図1)、こうした操作は乳頭が裂けて出血や穿孔を起こす危険があるため、胆管の軸に沿って下方に力が加わるようにスコープの操作を行うべきである。そのために最も効果的な操作は、バスケットを乳頭部まで引き抜いてきたら、そこでスコープを右(時計回転)にひねることである。大抵の結石はこの操作により比較的簡単に取り出せる(図2)。
この右回しの押し込み操作でどうしても結石が取れない場合には、最終手段として、スコープごとバスケットを引き抜くという場合もあるが、この操作は非常に危険であることを十分に理解し、できるだけ行わないことを勧める。
結石除去に使用するバスケットの形状にはいろいろあり、通常の4線でかご状のもの、先端だけ8線で網目が小さくなっているフラワーバスケット、8線でらせん状の形をしたもの、さらにガイドワイヤで誘導できるものや、先端のバスケット部分に回転機能がついたものもあるが、それぞれに利点と欠点がある。8線でらせん型に編みこんだ形状のもの(ヘリカルタイプ)はバスケットの網目が細かく、結石をつかみやすい。しかし、つかみやすいということは、逆にいうと外しにくいことにもなり、十二指腸で結石を外す操作が煩雑になる。
ヘリカルバスケットは小さな結石も比較的容易にとれるため、私自身よく使用しているが、結石の上流でバスケットを開き、そのままカテーテルを引き抜いてくるだけで、魚を網にかけて取ってくるような感じで結石を取り出せる(図3)。
また、ガイドワイヤを留置したままバスケットで結石除去を行う場合、バスケットで結石をつかむ際にガイドワイヤまで一緒につかんでしまうことがある。ガイドワイヤの先端よりも上流までバスケットを入れるとバスケットでワイヤをつかみやすくなるため、ガイドワイヤはあらかじめ十分上流(肝内胆管)まで挿入・留置しておき、ガイドワイヤの先端を越えてバスケットを挿入しないよう注意するとよい。
(本記事は、RadFan2016年8月号からの転載です)