PETサマーセミナー 2017 in 奈良 ランチョンセミナー3 整形外科領域におけるPET/CT検査
日時:2017年8月26日
場所:ホテル日航奈良
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社
座長
横浜市立大学放射線科
金田朋洋先生
整形外科領域において、PET検査は骨肉腫や軟部腫瘍の診断、骨転移の評価などに用いられる。本講演では、診療放射線技師の立場から、整形外科領域のPET検査の特徴を述べ、特に問題となる人工関節からの金属アーチファクトについて、その要因と低減技術について説明する。
KEY SENTENCE
●受診者の動作制限によるトランケーションアーチファクトを防ぐためFOV内に被写体をおさめることが重要。
●金属アーチファクトの低減のためには、それぞれのアーチファクトの機序により最適な画像処理方法を選択することが大切である。
●人工関節の金属アーチファクト低減にはSEMARが有用。併せて、受診者の体動抑制も重要である。
整形外科領域におけるPET検査の特徴
整形外科領域におけるPET検査の役割を考えてみると、当院では骨肉腫や軟部腫瘍の診断に対する検査依頼が多くあった。また、骨転移の評価に対しても骨シンチおよびFDGPET検査が行われている。また、研究においては、関節リウマチ患者の治療効果評価、感染性脊椎炎、脊椎感染症の診断、または人工関節周囲感染の診断や大腿骨頭壊死症の診断にPETが用いられている。使用薬剤は主にFDGであるが、骨領域のため、NaFも比較的多く使われている。
2.受診者の年齢層
当院の過去のデータを見直してみると、受診者の年齢が比較的低いということが読み取れてきた。若い受診者の場合には、CTの被ばく線量をより考慮する必要がある。逐次近似応用再構成が導入できる装置であれば十分被ばく低減が可能であるが、導入していない装置で検査する場合もある。当院では逐次近似応用再構成であるAIDR 3Dを用いることで、CTDIが24.8mGyから6.8mGyに抑えられ、約1/4までの被ばく線量低減が実現できた。整形外科領域、特に若い受診者の場合には意識すべきだ。
3.体内金属
人工関節等の体内金属のある受診者が多いため、金属アーチファクトも問題となる(図2)。金属アーチファクトは減弱補正マップに影響を与えるため、SUVの変動要因となる。対策としては外部線源を用いた減弱補正を行うPET装置を使用するということが挙げられるが、これはハード面で難しい場合もある。よって、金属アーチファクト低減技術を導入することで、CT画像上の金属アーチファクトを抑制することが可能となる。
SEMARを用いた人工関節からのアーチファクト低減
SEMARを用いた人工関節からのアーチファクト低減について検討したので報告する。SEMAR はSingle Energy Metal ArtifactReductionの頭文字である。SEMARはオリジナルの生データからBack Projectionを行い、金属部分を抽出した後にForward Projectionを行うことで金属成分を除去した生データを得る。この生データを再度Back Projectionするという処理を複数回繰り返すことで金属アーチファクトを低減する。
ファントムでSEMARによる金属アーチファクト低減の効果を示す(図4)。
NEMAのBodyファントムの中心部分に人工関節を配置し、中心部分も外側(バックグラウンド部分)と同じ濃度のFDG溶液を満たした。CT画像をみてみるとFBPでは予想通り金属アーチファクトが発生した。AIDR 3Dのみの場合、視覚的にはアーチファクト低減効果が低いようにみえるが、加えてSEMARを使用することで、金属の輪郭までしっかり追えるようになり、画像が改善していることがわかる。しかし、金属アーチファクトを完全に含まない画像を得ることも難しいともいえる。μマップへの影響についても考える。AIDR 3Dでは、少々低減されているものの上下方向のアーチファクトがみられる(図5)。
一方で、SEMARを加えるとアーチファクトが低減されている。サブトラクションをして差分画像を比較しても一目瞭然であった。また、金属の周辺部分に注目すると、金属の大きさにも変化がみられ、差が生じていた。PET画像への影響をみてみると視覚的にはあまり差がないようにみえる。PET画像への影響は減弱補正だけでなく散乱線補正などの他の要因も関連するためCT画像やμマップまでの顕著な差が生じないものと思われた。プロファイルカーブを描いてみると、SEMARを用いない場合には金属部周辺で高値または低値となり、一定ではない様々なアーチファクトが確認された(図6)。
最後に
整形外科領域のPET検査において、骨関連疾患の描出には撮像時の対策が必要であり、アーチファクトの低減が求められる。CT撮影において金属アーチファクトには複数の要因が影響するため、アーチファクトの低減には最適な低減技術の選択が必要である。また、人工関節からの金属アーチファクトの低減にはSEMARが有用だが、それに加えて受診者の体動抑制も併せて行うことが重要となる。
<文献>
1)Tomohiro Kaneta et al:Nuclear Medicine Communications 28:495-499,2007
第52回日本胆道学会学術集会ランチョンセミナー6
本講演では、整形外科の受診者がPET検査を行うとどのような画像となるか、またそれをどのように治療に生かすかという観点から、人工関節周囲感染(PJI)と無菌性ゆるみの鑑別、そして初期変形性股関節症(OA)の診断と病期進行予測、最後に股関節外科の最近のトピックスである大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)における局所集積の意義について述べる。
はじめに~PETに何を求めるか
私たち整形外科医は、X線では分からないような異常が生じているのかどうかの判断、またその異常がどの程度なのかの定量評価、そして「なぜ痛いのか?」といった臨床評価との関連や治療法選択の指標となることをPET画像に求めている。近年PET技術の向上に伴い、さまざまな面で優位点を示す18F-Fluoride PETは新たな骨イメージングとして注目されている。
KEY SENTENCE
●18F-Fluoride PETは、画像診断として特異的なものがないとされている人工関節周囲感染と無菌性ゆるみの鑑別に有用である。
●初期変形性関節症の診断と病期進行予測に18F-Fluoride PETを用いることは、治療法選択の客観的評価として有意義である。
●FAIにおいてCam病変の位置情報とそれがactiveかどうかの指標として18F-Fluoride PET/CTが有用である。
感度は94%、特異度が93%で、今までのFDG-PETを使った論文と比べても遜色のない診断能が示された1)。SUVmaxによる定量評価というのは重要で(図4)、比較するとPJIに非常に強い集積を認め、無菌性ゆるみはゆるみなしと比べると少し高値という結果となる。
確定診断のためには組織サンプルを採取する必要があるが、集積のある箇所から採取を行うことで細菌培養や病理組織の陽性率が上がるといった有用性もある2)。
初期変形性股関節症(以下OA)の診断と病期進行予測4)
前股関節症では関節裂隙の狭小化は認めず、初期OAでも若干狭くなる程度である。これに対して進行期または末期では関節裂隙の狭小化が鮮明で、誰が見てもOAであると指摘される。このような患者には一般的にはTHAが勧められ、PET検査を敢えて行う必要性はないが、初期または前股関節症においてはPET検査の存在意義が出てくる(図6)。
OA進行の予測
我々は、このOA進行の予測について研究してきた。OA進行群と非進行群でSUVmaxを比較すると、OA進行群が有意に高い。また、疼痛悪化群と非悪化群で比較しても疼痛悪化群が有意に高値となる。痛みが強い症例はSUVmaxが非常に高いが、初期にSUVmaxが高値である場合は疼痛が悪化してくることを示しており、これは関節裂隙の狭小化とともに疼痛が悪化するためと考えられる。
この関節裂隙の狭小化におけるロジスティック回帰分析を行ったところ、性別、年齢、BMIは一般的に重要だとされているが、この中ではPETのSUV maxが唯一有意差を認め、非常に高い危険率でOAが進行するということが分かった。
どれくらいSUVmaxが高いとリスクが上昇するかについてROC解析を行ってみると、OA進行については、SUV max cut off値:6.5で感度:90%、特異度:84%、X線上の関節裂隙狭小化1mm以上の場合にはSUVmaxのcut off値は7.2となった。これらの結果からSUVmaxが6から7を超える場合にはOAが進行してくる確率が非常に高いということが分かった。
寛骨臼形成不全でOAが発症しやすい理由はそこに力学的ストレスが集中しているからであるが、有限要素解析という手法を用いて力学的ストレスとPETでの集積の関係を調べると見事に相関することが分かった5)。局所に強い力が加わると骨芽細胞が活性化しPETの集積は上昇するものと考えられる。
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI )における局所集積の意義
FAIは比較的近年提唱された概念であり、スポーツ選手などに多い。一般に若い患者が多く、OA変化は生じていないためX線では判断が難しい場合も多い。
インピンジメントというのは骨と骨がぶつかりあう状態のことで、過度にぶつかることにより、間にある関節唇や軟骨がダメージを受ける。 特徴的な所見としては、X線ではCam変形と言われる微妙な出っ張りがある。これはFAIを専門的に見ていると分かるが、一般的にはあまり大きな所見ではないとされる場合も多い。また、肢位によっても見え方が大きく異なるため、X線のみでは評価が難しい場合がある。
図86)はPET/CTが導入される前のPET単独の画像で、矢印部分に集積を認めCamtypeFAIと考えるが、この集積は本当にCam変形かがわかりづらい。解剖学的にこれがCam病変と一致することを、第三者が納得するよう客観的に示すことは難しく三次元的形態情報(CT)の必要性を痛感した。
図9は、22歳男性のブレイクダンサーである。X線画像上でも分かりやすくCam変形が描出されている。PET/CT画像上ではCam変形とほぼ一致する位置に強い集積が認められる。これを見れば一般的な整形外科医でもFAIでありCam変形に伴う集積であると納得してもらえる画像であり、PET/CTの画像診断としてのインパクトを実感した症例である。
まとめ
以上述べてきたように、18F-Fluoride PETは人工関節周囲感染や初期OA、FAIをはじめ大腿骨頭壊死症、RA、軟骨下脆弱性骨折、骨髄炎にも有用である。今後、非常に多くの骨関節疾患に応用できる可能性がある。
X線検査では診断できなくても、局所の骨代謝異常や痛いという症状の客観的評価・定量評価に使え、病期進行の予測や治療オプションの選択、骨代謝亢進を捉えることによる病態解明のアプローチに発展の余地があると考えている。
<文献>
1) Kobayashi N et al: Use of F-18 fluoride PET to differentiate septic from aseptic loosening in total
hip arthroplasty patients. Clin Nucl Med. 36(11): e156-161, 2011
2) Choe H et al: (18)F-fluorodeoxy glucose and (18)F fluoride PET for detection of inflammation
focus in periprosthetic hip joint infection cases. Mod Rheumatol. 25(2): 322-324, 2015
3) Mohamed W et al: Intracellular proliferation of S. aureus in osteoblasts and effects of rifampicin
and gentamicin on S. aureus intracellular proliferation and survival. Eur Cell Mater 28: 258-268,
2014
4) Kobayashi N et al: Use of 18F-fluoride positron emission tomography as a predictor of the hip
osteoarthritis progression. Mod Rheumatol. 25(6): 925-30, 2015
5) Hirata Y et al: Correlation between mechanical stress by finite element analysis and 18F-fluoride
PET uptake in hip osteoarthritis patients. J Orthop Res. 33(1): 78-83, 2015
6) Kobayashi N et al: Evaluation of local bone turnover in painful hip by 18F-fluoride positron
emission tomography. Nucl Med Commun. 37(4): 399-405, 2016